1月26日「川崎記念」。タイムパラドックスが力強い末脚で競り勝ち、JCダート馬の貫禄を示した。道中中団の外め。川崎・2100mらしいスローだったが(1000m通過が62秒5)、そこはすでにコースを熟知した武豊騎手。3コーナー手前からじわっと仕掛け、早めに先行馬群へ取り付いた。逃げたトーシンブリザードはその時点で息が上がり、2番手ダイワエルシエーロも直線を向き、にわかに脚いろが鈍ってくる。ラスト1Fはシーキングザダイヤと一騎打ち。いったん交わしきり、最後意外なほど抵抗されたが、いざ追い比べになってしまえば、やはり経験とパワーがモノをいう。“クビ差”ながらひとことで完勝。単勝1.3倍もうなずけるレースと見えた。
川崎記念(サラ4歳以上 定量 交流G1 2100m 重)
◎(1)タイムパラドックス (57・武豊) 2分14秒2
△(2)シーキングザダイヤ (56・横山典) 首
△(3)ウツミジョーダン (57・小林俊) 4
△(4)ノボトゥルー (57・内田博) 3
○(5)モエレトレジャー (56・金子) 3/4
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△(6)ダイワエルシエーロ (54・福永)
▲(8)トーシンブリザード (57・今野)
単130円 馬複470円 馬単630円
3連複2940円 3連単6950円
「今日はパドックで跨ったときから“元気”を感じた。ときどきそうじゃないことがあるんですよ。前走(東京大賞典)の雪辱ができて嬉しい」(武豊騎手)。競走馬の気分とは難しい。武騎手は、レマーズガールの場合にもしばしばそんなコメントを出している。記者自身は、大井=川崎、フィーリングの違いと見るが、このあたりの機微は、それこそ馬に聞いてみたい。いずれにせよ同馬は、いったんエンジンがかかって息の長い脚を使う。2000m、あるいはそれ以上のパワー勝負で真価発揮。これでG1・2勝。昨年同様のステップで上がってきたアンドゥオールなどと比較して、心身とも逞しさが違うのだろう。陣営は、レース後ドバイへの視野も口にした。
先行馬ペース、上がりの速い決着だから、シーキングザダイヤの評価はまだ確定しない。とはいえ今回ダート交流G1初挑戦。王者の一角・パラドックスにこれだけ食い下がれば、むろん選択肢は広がった。母シーキングザパール、短距離〜マイラーのイメージは強いものの、絶対能力が相当高く、同時に競馬センスも素晴らしい。10キロ減のパドックだったが、がっしり骨太に見せる好馬体。前へ前への闘争心が何より光る。ウツミジョーダンは前2頭に離されたが、道中スローを追い込み策。きついローテーションも含め大健闘といえるだろう。昨今珍しくなった砂の長距離走者。貴重な資質を備えている。
モエレトレジャーはイン3番手、慎重な作戦が逆に裏目という結果だった。「3〜4コーナー、勝負どころで窮屈になった」(金子騎手)。力負けといえばそれまでだが、自身チャレンジャーと考えるとレースぶり自体に悔いが残る。ダイワエルシエーロは、馬体、走法とも線が細い。絶対能力からはやはり不満な6着で、芝路線の方が性に合うか。トーシンブリザードは、ひとこと「昔の彼ならず…」。かつての覇気、勝負根性を失っている。これに▲をつけ、自ら馬券を買ってしまうあたりが、記者の心底甘いところか。猛省である。
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その前々日24日、川崎競馬場でエスプリシーズの引退式が行なわれた。ゼッケン7番(川崎記念制覇時)、最良のパートナー・森下博騎手を背に現われた同馬は、軽いキャンターで馬場を一周。ファンの待つウィナーズサークル前、堂々とした雰囲気で記念写真におさまった。21日引退表明、わずか3日後。関係者にとって苦渋の決断でもあったようだが、その分、馬は心身とも緩みがなく凛(りん)としている。「脚元の不安で残念ながら引退することになりました。青森・山内牧場で種牡馬としてお世話になります。2〜3年後、その産駒を期待してください」(武井栄一調教師)。最終レース終了後、北風が冷たい競馬場。それでも残っていたファンの声援と拍手は、とてつもなく熱く聞こえた。こういう場面、情けないが筆者は弱い。ホロリとする。川崎競馬(存続)は大丈夫。確かな根拠もないけれど、ひとまずそう思いたい。いい馬、いいファン(サポーター)が、たぶん歴史を継続させる。
エスプリシーズ。23戦10勝、重賞5勝、収得賞金1億8000万円。デビュー3連勝、しかし明けたクラシックで挫折があり、一進一退の後、最後はG1馬に輝いた。競走生活3年はダートA級馬とすると長くもないが、試行錯誤、紆余曲折…いわば馬生いろいろの歩みだったと総括する。3歳暮れ、東京湾Cを勝って復活。しばらく順風にみえたものの、群馬記念、かしわ記念と大敗、再び壁に当たってしまう。陣営の思惑、戦略はあずかり知らない。現実に選択した短距離路線、東京盃→JBCスプリントを、3、5着と好走した。結果的には、厳しい競馬を経験し、馬自身心身両面でパワーアップしたということ。そして川崎記念レコード勝ち。父カコイーシーズといえば、コンサートボーイが地味ながら成功している。それなりの面白さはあるはずで、何とかより多くのチャンスがほしい。
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金盃(2月2日 大井 サラ4歳以上 ハンデ 南関東G2 2000m)
◎ブラウンシャトレー (57.5・張田)
○クールアイバー (55・石崎駿)
▲ベルモントストーム (53・石崎隆)
△ジェネスアリダー (55・桑島)
△ナイキゲルマン (55・的場文)
△コアレスハンター (57.5・御神本)
△ウエノマルクン (53・柏木)
キョウエイプライド (55・山田信)
サクラハーン (53・内田博)
新旧にぎやかなフルゲート16頭。しかし春を告げる伝統の金盃――かつて大井G1級であったことを思うと、質の面でいささか寂しい。川崎記念の直後という組み方が悪いこと。牝馬重賞の濫造で、オープン級の層の薄さがさらに露呈されてしまうこと。特に後者については、今後抜本的な見直しが必要だろう。古馬牝馬交流重賞が、南関東だけで5レースもあるというのは、特性を通り越してむしろ異常だ。結果、かえって“女傑”が出にくくなる。
ブラウンシャトレーは、前走オールスターC・2着。久々、調教試験(左眼負傷)明け、実績のない川崎コース…すべて逆風とみえた条件下で、ウツミジョーダンに3/4馬身差の勝負をした。明けて8歳馬ながら、スピード、勝負根性、競馬センス、あらゆる面でまだまだ健在。元より右回り大井は得意で、昨春、東京シティ盃、マイルグランプリと重賞2連勝を果たしている。距離オールマイティー。ハンデ57.5キロも特に不利な印象はない。
ベルモントストームがここで戦列復帰する。昨春京浜盃を圧巻の差し切り。クラシックこそ先細りに終わったが、当時は世代No.1の評価があった。およそ半年の充電。慎重で鳴る陣営がGOサインを出したとなれば、53キロの軽量も含めいきなり走って不思議ない。クールアイバーは明けて7歳ながら、昨シーズン後半から充実が目立っている。ミスターシービー最後の産駒。鞍上石崎駿騎手も、そろそろ重賞がほしいだろう。依然ふっ切れないナイキゲルマン、明らかに戦力ダウンのコアレスハンターは、オッズ次第の押さえまで。穴は差し比べでジェネスアリダー、まくりが決まってウエノマルクン。