「レジェンド」的場文男騎手が、地方競馬通算7000勝を達成した。5月17日の川崎第11レース「川崎マイラーズ」をリアライズリンクスで制し、記念すべき1勝を重賞勝ちで飾った。中央で4勝、海外でも1勝しているので、全勝利は通算7005勝。
地方競馬通算7000勝は、「鉄人」佐々木竹見元騎手に次ぐ史上2人目の記録だ。地方重賞は148勝目となり、自身の持つ史上最高齢重賞優勝記録も更新した。今年60歳。17歳だった1973年10月16日にデビューしてから足かけ45年、地方通算3万9350戦目にして打ち立てた金字塔であった。
イチロー選手のヒット数を示す「イチメーター」ならぬ、7000勝までの勝ち鞍を刻む「マトメーター」が大井競馬場に設置され、多くの人がSNSに写真をアップし、達成の日を待ち望んでいた。設置されたのが昨年の暮れだから、半年近くも、私たちファンはこのキャンペーンを楽しんだわけだ。
的場騎手に関してしばしば語られるのは、東京ダービーとの因縁だ。
昨年まで35回参戦し、2着は9回もあるのに、いまだ未勝利。1992年ナイキゴージャス、1998年ゴールドヘッドのように僅差で敗れたレースもあれば、1999年タイコウレジェンド、2003年ナイキゲルマン、2004年キョウエイプライドのように離された2着もあり、また、2015年のパーティメーカーのように、単勝6番人気の伏兵を、的場騎手の技と執念で持ってきたかのような2着もある。
的場騎手がダービージョッキーになれば、今回の記録とはまた別の喜びと感動のある瞬間になるだろう。
話を日本ダービーに移すと、騎手として、もっとも数多く参戦したすえ栄冠を手にしたのは柴田政人現調教師で、19回目のチャレンジであった。
「世界のホースマンに、今年のダービーを獲った柴田です、と報告したいですね」と誇らしげに語った姿が印象的だった。柴田調教師は朝日杯3歳ステークス(現朝日杯フューチュリティステークス)を史上最多の4勝もしていたのに、同じ世代の頂上決戦には、なかなか手が届かずにいたわけだ。
同じことが、今年18回目のダービー挑戦となる福永祐一騎手にも言える。2007年アサクサキングスと、2013年エピファネイアで2度2着になるなど、確実に栄冠に近づいてはいるのだが、手にできずにいる。彼も朝日杯を3勝しており、一度は世代王者となった馬に乗っていたわけだ。
面白いのは、ダービーを史上最多の5勝もしている武豊騎手が、いまだ朝日杯は未勝利という事実だ。それだけダービーと朝日杯は別種のレースになっている、ということだけではなく、何か不思議で因縁めいたものを感じてしまうのだが、どうだろう。
武騎手は、今年で28回目の日本ダービー参戦となる。騎手になって31年目で、参戦していないのは、デビューした1987年と、騎乗予定だったノーザンコンダクトが故障した1992年、落馬負傷のため治療中だった2010年の3回のみ。何回出たかを数えるより、何回出なかったかを引いたほうが早い、というくらい、ダービーは特別なレースなのである。
福永騎手は、弥生賞を勝ったカデナで、武騎手は、皐月賞3着のダンビュライトで、5月28日の第84回日本ダービーに臨む。
10度目の参戦で初制覇を果たし、「ダービーには勝ち方がある」と明言した武騎手と、18度目での戴冠を狙う福永騎手。このふたりの前に立ちはだかるのが、ダービー初騎乗の2003年にネオユニヴァースで勝ち、2015年ドゥラメンテで2勝目を挙げ、今年は青葉賞を快勝したアドミラブルの手綱をとるミルコ・デムーロ騎手、と、対照的なダービーの勝ち方をした騎手であるのも面白い。
自分の馬にだけ二冠のチャンスがあるアルアインの松山弘平騎手も、平成生まれ初のダービージョッキーとなるべく、期するものがあるだろう。
「競馬の栄冠」に対する構えがそれぞれに異なるジョッキーたちのダービー。
ゲートがあくのが楽しみである。