新種牡馬ロードカナロア、ノヴェリストの可能性が無限に広がる価値ある勝利(辻三蔵)
◆距離の先入観を覆した2歳新馬戦
来年のクラシックに向けて、2歳新馬戦が6月3日から始まった。開幕週はノーザンファーム生産馬が2勝と好発進。昨年6月の2歳新馬戦でも生産者ランキングでは最多の4勝を挙げており、新馬勝ちした馬からアエロリット(NHKマイルC1着)、モンドキャンノ(京王杯2歳S1着)を輩出している。
注目すべき点は新種牡馬のロードカナロア、ノヴェリストで新馬勝ちしたこと。昨年、社台スタリオンで繫養されていた新種牡馬にはタートルボウル、ルーラーシップがいたが、どちらも新馬向きのイメージがなかった。
今年の3歳世代の新馬成績を調べると、タートルボウル産駒の新馬成績は[2-1-4-47/54](勝率4%、複勝率13%)。新馬戦の勝率が低く、叩き良化型のイメージが色濃く残った。
ルーラーシップ産駒は芝1800〜2000mの新馬戦で[7-5-8-20/40](勝率18%、複勝率50%)と好成績を残しているが、短距離戦が苦手。芝1200〜1600mの新馬戦では[1-0-1-33/35](勝率3%、複勝率6%)と苦戦しており、活躍の場所は限定されていた。
今年はロードカナロア産駒のステルヴィオが東京芝1600m、ノヴェリスト産駒のヴァイザーが阪神芝1400mの新馬戦を勝った。現役時代に、伊仏英独の4カ国で芝2400m、芝12FのG1を4勝したノヴェリストが短距離の新馬戦を勝った意義は大きい。長距離向きの先入観を覆し、仕上がり早な印象を植え付けた。ヴァイザーを管理した高橋亮厩舎の調整方法を見ると、ノヴェリスト産駒の育て方の秘訣が隠されている。
ヴァイザーは育成先のノーザンファーム空港牧場から4月19日に入厩。4月28日にゲート試験に合格すると、坂路中心に乗り込みを開始。前向きな性格を考慮して、5月中旬からCウッドコースでの4F追いに切り替えた。短い距離を我慢して走らせることで集中力向上を図った。上がり時計の速さに重点を置き、全体時計は4F52秒台に設定。ラスト1Fを12秒前半にまとめることで瞬発力強化に努めた。キングジョージVI世&クイーンエリザベスSをレコード勝ちした父から受け継いだスピード能力を、終いの脚に転換することで即戦力型に仕上げていた。
ロードカナロア産駒のステルヴィオは育成先のノーザンファーム早来から3月30日に木村厩舎に入厩。4月7日にゲート試験に合格すると、8日にノーザンファーム天栄に調整放牧。坂路中心に乗り込み、5月12日に帰厩した。美浦ではウッドコース主体の調整に切り替えた。4F追いで瞬発力を伸ばし、1週前には6F追いを導入してスタミナ強化に努めた。
5月24日のウッドコースでは、ルメール騎手を背に6F81秒5を計測。2歳馬では破格のタイムを記録したが、実戦の厳しさを乗り越えるためにハードトレーニングを課した。31日のウッドコース(4F追い)では古馬相手に3頭併せ。馬群の真ん中から抜け出し、勝負強さを養った。牧場で体力作りに専念し、美浦では実戦を想定したカリキュラムを組んだ。牧場と厩舎が連携を取り、役割分担を明確にした意図が感じられる。
ステルヴィオは好位から抜け出す横綱相撲で快勝。上がり3F34秒2はディープインパクト産駒のサトノオンリーワンを上回るメンバー中最速タイムを記録した。ロードカナロア産駒は短距離向きのイメージがあったが、中距離戦でもこなせる対応力を感じさせた。
初年度産駒で育成方法のデータが少ない中、両馬の勝利には理に適った調教方針が示されている。新種牡馬ノヴェリスト、ロードカナロアの可能性が無限に広がる価値ある勝利だった。