2月9日、川崎「エンプレス杯」は大波乱だった。いや、戦歴の比較からは想像できる範囲なのだが、現実に馬複1万1千円台、馬単4万4千円台。1、2着した2頭が、結果的に不当に人気を下げていた。調子とリズム、さらに能力の限界と距離適性。何か買いたくない、そういう馬だったのは事実である。予想と馬券の難しさ。逃げ口上ながら、ゴールインの瞬間、思わずああ…とため息が出た。
エンプレス杯(4歳上牝 別定 交流G2 2100m梢重)
(1)プルザトリガー (55・内田博) 2分15秒2
△(2)グラッブユアハート (55・安藤勝) 1/2
○(3)レマーズガール (56・武豊) 鼻
(4)ホウザングラマー (55・的場文) 2.1/2
▲(5)オルレアン (54・藤田) 1/2
…………………
△(6)トーセンジョウオー (54・蛯名)
△(7)アイチャンルック (54・山田信)
◎(8)ジーナフォンテン (56・張田)
単5690円 馬複11390円 馬単44820円
3連複3000円 3連単71900円
プルザトリガーが最内から絶好のスタート。「このところ不完全燃焼だったので、とにかく積極的に乗ろうと思った。それでバテれば仕方ないと…」(内田博騎手)。同馬の勝因は、8割方、この決断によるだろう。1周目スタンド前、ガクンとスローダウンする川崎2100m特有の先行馬ペース。向正面過ぎ、再びさりげなくピッチを上げ、後続の人気馬に、まくってくる隙を与えなかった。レマーズ=武豊、オルレアン=藤田もそれを察して動いたが、最後の最後、プルザトリガーに予想外の二の脚を使われた。2100m・2分15秒2は速くもなく遅くもない。有力と目された馬、すべて走れる時計だが、勝負の明暗とは常にそんなものでもある。
プルザトリガーは、昨夏トゥインクルレディー賞を勝ち、TCKディスタフを勝ち、しかし交流重賞ではひとつ壁に当たったムードがあった。条件級時代が長い馬。元より大器というイメージが薄い。そして前走大井TCK女王盃を大敗した。重いシルシがつけづらい、買いにくいというのはそういう経緯。「前々の競馬で、競り合ったら強いのが彼女の特長。持ち味が引き出せました」(内田博騎手)。むろん馬自身の地力、充実度は否定しないが、それ以上に鞍上が、いま絶頂期ということだろう。判断がおおむねズバリズバリと当たり、馬が能力以上に動いてくれる。生命力を吹き込む―今の彼は言葉にするとそんな感じか。
グラッブユアハートとレマーズガール。久々に前者の雪辱で、対戦成績2勝6敗。総合能力はレマーズ優位で動かないが、脚をタメて切れ勝負ならグラッブもヒケをとらない。いずれにせよ8着ジーナフォンテンまで含め、決定的な差はない、その見方で正解だろう。あえて次走への期待なら、行きっぷりが変わったという意味でトーセンジョウオーか。牡馬に比べ、いかにも低調な牝馬の交流重賞路線。重ねて書くが、この路線は見直す必要があると思う。レマーズガールはホクトベガ、ファストフレンドに絶対能力で大きく及ばず、廃止直前のアラブNo.1のような位置にある。牝馬は生産界でむろん根底。しかしレースにおけるその過保護は、けっしてファンの心を揺り動かせない。
☆ ☆ ☆
1週遅れで恐縮だが、2月3日、「雲取賞」のこと。シーチャリオットが、大井コース初見参ながら鮮かな差し切り。クラシックへ向け素晴らしいスタートを切った。道中3番手のインでスムーズに折り合い、直線弾けるような瞬発力。抜け出してから内へ外へ少し遊ぶような仕草をみせたが、逆にいえばそれほどの余力がある。「ここ(大井)で本番を迎えるわけだから、早めに経験させたかった。期待通り、いやそれ以上じゃないかな」(川島正行調教師)。1600m・1分40秒2、古馬を含め開催の1番時計。並みの馬ではない、改めてそのスケールを印象づけた。
雲取賞(3歳 別定 1600m良)
○(1)シーチャリオット (56・内田博) 1分40秒2
▲(2)マズルブラスト (54・今野) 2
△(3)ジルハー (55・金子) 6
(4)コスモメンツェル (54・左海) 頭
△(5)ハリケーンストーム (55・真島) 1
………………………
◎(7)ブックオブケルズ (54・山田信)
このレース、川島正行厩舎は、“3羽ガラス”を出走させていた。マズルブラストは新コンビ・今野騎手鞍上に及第点の2着で、終始反応よく4コーナー先頭。一戦ごとに競馬センスが磨かれている。期待を裏切ったブックオブケルズも、パドックなど実に堂々とした馬体と歩様。一つ経験とみれば大きな後退でもないだろう。
1月17日の当欄で、今年のクラシックは面白いと書いた。船橋のラインアップが何とも凄い。前述雲取賞の3頭に、タイムライアン(ブルーバードC)、ナイトスクールが加わり、さらに先々週JRA東京で500万を圧勝したドラゴンシャンハイ(3戦3勝・出川龍一厩舎)が控えている。大井・トウケイファイヤーとの手合わせ、川崎・エスプリフェザントの復帰も楽しみ。シーチャリオット頂点は異論ないとして、これに挑むチャレンジャーの層がきわめて厚い。最終トライアルに位置づけられた「京浜盃」(大井1700m)。現時点で、シーチャリオット、マズルブラストの出走が確定と聞いた。まあしかし3月23日、その時にはすでにトゥインクル開催が始まっている。