競馬ファンが楽しみにしている7月のイベントというと、やはり来週のセレクトセール、再来週のセレクションセールといった、メジャーなセリだろう。
今年も、ゴールドシップやキズナ、エピファネイアといった新種牡馬の当歳産駒がどう評価されるかなど、見どころが多い。
しかし、もうひとつ、馬と競馬が好きな人にはぜひ見てもらいたいビッグイベントがある。
福島県の相馬市と南相馬市で行われる世界最大級の馬の祭「相馬野馬追」である。
7月最後の土・日・月の開催と定められているので、今年は7月29日から31日まで行われる。かつて7月23日から25日までと開催日が固定されていた時期もあり、そのころよりほぼ1週遅い今年は例年以上の暑さを覚悟しなければならない。馬も人も大変だが、滝のように汗を流しながらも、見る価値のある素晴らしい祭だ。
昨年7月、南相馬市の南側、つまり事故を起こした福島第一原子力発電所に近い小高区で避難指示が解除された。また、震災が発生した2011年から休止されていた小高郷の「火の祭」が6年ぶりに行われた。道沿いに、丸めて油を染み込ませた布がずらりと吊るされ、地元の子供たちや消防団員が火をつける。帰還する騎馬武者たちを迎えるためだ。数千個の火の玉がゆらめくさまは幻想的で、私はこれを見るのをずっと楽しみにしていた。
今年は、その小高での騎馬武者行列が7年ぶりに復活する。私が毎年家に泊めてもらっている友人の蒔田保夫さんも小高郷の騎馬武者だ。昨年まで、特に土曜日の出陣は寂しく、宇多郷、北郷、中ノ郷は騎馬での出陣だったのに、小高郷と標葉郷の侍は、徒歩で雲雀ヶ原祭場地に集結していた。それが、震災前の形に戻るのだ。震災の年から野馬追取材を始めた私にとって、小高郷での騎馬武者行列を見るのは初めてだから、今から楽しみで仕方がない。
甲冑に身を包んだ500騎以上の騎馬武者たちが、現代の街中を練り歩くシーンだけでもインパクトがある。背中の旗指物が風を切る音がF1のエンジン音のように響く甲冑競馬も、空から舞い降りてくる御神旗を騎馬武者たちが激しく奪い合う神旗争奪戦も面白い。
最終日には、裸馬を追い込んで神前に奉納する野馬懸が小高神社で行われる。「これがあるから相馬野馬追は重要無形文化財に指定されている」と言われている、古式に則った儀式なのだが、実は、エンタテインメント性もかなり高い。裸馬をつかまえようと御小人(おこびと)が疾走する馬にしがみついて振り落とされたり、実況アナウンスで馬たちのプロフィールを「名馬シンザンの産駒です」とジョークをまじえて紹介したり、と。
そんな南相馬市が、関東・近畿などの都市部から、この地に移住して働いてくれる人を募集している。半年から2年半ほど南相馬に移り住み、市役所関係の仕事をしながら情報を発信するのが役目だ。「南相馬地域おこし協力隊」と命名されている。
仕事は2種類で、募集するのは各1名。
ひとつは「小高区まちなかのコミュニティ・クリエイト」というもので、コミュニティ・カフェのマネジメントをしながら、まちづくりに関する活動に参加し、その情報を発信するのが仕事だ。
もうひとつは「『田舎暮らし』のブランド価値向上」というもので、農家民宿のコーディネートや農業体験メニューの立案などをしながら、情報を発信する仕事。
詳しくは以下のリンクを参照願いたい。1日8時間弱の勤務で週休2日。それで月給が16万円以上。しかも住宅とクルマを無償で貸与してもらえるので、実質的な月収はプラス10万近いのではないか。
南相馬地域おこし協力隊の募集(
http://www.city.minamisoma.lg.jp/index.cfm/6,35220,35,html)
ほかの仕事をしながらでもいいようなので、私が応募したいぐらいだ。しかし、残念なことに、今年4月1日現在で20歳から40歳未満でなくてはならないので、年齢でアウトである。
こうした仕事に就くことができるのは、自分で商売をしていたり、フリーランスで活動している限られた人かもしれないが、有意義な仕事であることは間違いない。
申込受付が7月21日までなので、興味のある方は、応募、あるいは、問い合わせだけでも、してみてはどうだろう。
蒔田さんには何度も「島田さん、こっちで暮らすか、別荘でも借りなよ。柳美里さんだって移住したじゃない」と言われ、そのたびにグラついている。
東京で仕事をしている私の故郷は札幌で、第二の故郷のように思っているのは、最年少ダービージョッキー・前田長吉関連の取材でたびたび訪れる八戸と、被災馬と野馬追の取材をするうちにたくさんの知り合いができた南相馬だ。
以前、長吉の兄の孫の前田貞直さんが、フェイスブックに私を「八戸ゆかりの作家」と書いてくれた。また、蒔田さんと同じ小高郷のベテラン騎馬武者の今村忠一さんは、知人に私を「取材に来ているうちに仲間になった人」と紹介してくれて、嬉しかった。
よかった、嬉しかったと言いながら、今のまま、あちこち飛び回る日々をつづけるか、それとも……。うーん、柳さんに比べると、私は覚悟が足りない。