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【1年越しの復帰】三浦皇成騎手(1)『現実より、騎手を辞める恐怖感のほうが大きかった』

  • 2017年09月19日(火) 12時01分
おじゃ馬します!

▲落馬から1年ぶりの復帰、“馬に乗ること”を諦めなかった三浦騎手の鋼のメンタルに迫ります


8月12日に1年ぶりの復帰を果たした三浦皇成騎手。初日に2勝を挙げ、9月16日にはJRA通算600勝を達成しました。再び立つことができた表舞台……落馬直後は、先が見えない厳しい状態だったと言います。事故が起こったのは昨年の8月14日、夏競馬真っ盛りの札幌競馬場。1番人気のモンドクラフトに騎乗した三浦騎手は直線で早々に先頭に立ち、そのまま押し切るかと思われた矢先、馬が馬体に故障を発生。三浦騎手は骨盤骨折などの重症を負いました。あれから1年――現実から逃げず打ち克った三浦騎手の、鋼のメンタルに迫ります。(取材:赤見千尋)


今までに感じたことのない衝撃が体に走りました


赤見 大ケガを克服されての1年ぶりの復帰、おめでとうございます。

三浦 ありがとうございます。

赤見 今日は復帰までの1年について、いろいろ伺っていきたいと思っています。まずはつらいことを思い出させてしまうかもしれませんが、去年の札幌での落馬事故は、本当に激しいものでした。落ちた次の瞬間、すぐに後ろの馬がきて…。ご自身としては、どんな感覚だったのですか?

三浦 落ちる瞬間は、「あ、(馬の骨が)折れた…」という感覚と、とにかく“転がろう”と思いましたね。それまでにも、何度か同じような転倒を経験したことがあって、いつも咄嗟に“転がろう”っていう頭が働くんです。実際それでケガを免れていたし、ちょっと言い方が難しいんですけど、今回も落ち方としては上手く落ちることができたというか。でも、今回は後続馬に追突されてしまって…。その瞬間は、痛いとかではなく、今までに感じたことのない衝撃が体に走りました。正直、何が起こったのかわかりませんでした。

赤見 しばらく馬場で動けない状態でしたよね。

三浦 はい。気付いたときには、もう息ができなくて。まぁ、蓋を開けてみたら、復帰までに1年掛かりましたからね。あそこで動けなかったのは、当然といえば当然ですよね。

赤見 そのときの記憶はあるんですか?

三浦 はい。記憶はなぜかまったく飛ばなかったんですよね。さすがに一番キツかったときのことは、本能的に忘れようとしているのか、あまり思い出せないんですけど、場面場面の記憶は鮮明に残っています。

赤見 もう一度、馬に乗れるかどうかは、手術してみなければわからないという状態だったんですよね。その現実を知ったときは、相当ショックを受けられたのでは?

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▲「もう一度、馬に乗れるかどうかは、手術してみなければわからないという状態だったんですよね」


三浦 そうですね。馬に乗れる乗れない以前に、まずは普通の生活に戻れるようにと最初は言われていたので。だから、回復次第でもう一度乗れるとわかったときは、本当にホッとしましたね。

赤見 そこにたどり着くまでには、どのくらいの時間が掛かったんですか?

三浦 それは意外と早い段階でわかりました。ケガをしてから2週間のうちに3回手術をしたんですけど、その時点で「可能性はあります」と。まぁあくまで可能性であって、確証はありませんでしたけどね。実際、主治医からお墨付きをもらったのは、今年の春を過ぎてからです。それまでは、馬に乗れる乗れないではなく、まずは骨をくっ付けて、しっかり負荷を掛けられるようになることが先決だったので。

赤見 そうですよね。そこから長い長い入院生活が始まって。

三浦 この1年を振り返ると、アッという間だったような気もしますが、今思い出しても入院生活は本当に長かったですね。何が一番キツかったって、時間が進むのがめちゃくちゃ遅いこと(苦笑)。最初はずっと仰向けの状態で、1時間に1回、看護師さんがきてくれて、床ずれしないようにみんなで持ち上げてくれるんです。そういう状態が1カ月近く続いて、そのうち自分で寝返りを打てるようになったり、座れるようになったり、シャワーを浴びれるようになったり。そういう当たり前のことがひとつひとつできるようになることが本当に幸せでしたね。

赤見 とはいえ、精神的にはキツかったでしょうね。マイナスなことばかりが頭に浮かんでしまったりとか。

三浦 それは何度もありましたね。何度もというか、もう数え切れないくらい(苦笑)。ただ、復帰までに時間が掛かることがわかってからは、これを機にもう一度自分を見つめ直して、心身ともにレベルアップして復帰しようという思いが強くなりました。

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▲「もう一度自分を見つめ直して、心身ともにレベルアップして復帰しようと」


赤見 そんなふうに切り替えられるなんて、すごい精神力ですね。

三浦 そこは冷静に受け止めました。無理をしてでも乗りたいとか、そういう気持ちは一切湧かなかったので、とにかく今は治すことに専念しようと。最初は本当に先が見えない状態でしたからね。そのときのことを思ったら、すぐに気持ちを切り替えることができました。

赤見 やっぱりすごい。その気持ちを保つことも大変だったでしょうね。

三浦 ケガをする前以上の状態で戻るためには必要な時間なんだと言い聞かせて。我慢も相当しましたけど、その気持ちが一番のモチベーションになりました。

赤見 逃げ出したくなることはありませんでしたか?

三浦 現実よりも、騎手を辞めることに対しての恐怖感のほうが大きかったですからね。だから、リハビリやトレーニングから逃げ出したいと感じたことは一切なかったです。実際、みなさんが思い浮かべるような辛いリハビリではなかったので、そこはけっこう自ら進んで楽しんでやってました。

赤見 楽しめるなんて、鋼のメンタルですね。

三浦 いや、もし僕と同じ状況になっても、もっと強いジョッキーなんていっぱいいると思いますよ。ケガをして改めて思ったんですが、僕らは馬に乗る以外、何もできないので(苦笑)。

赤見 いえいえ、それ自体をプロとして極めているわけですから。

三浦 そういってもらえるとありがたいです。いろいろ悩んだり、落ち込むこともありましたけど、何より馬に乗れなくなることのほうが恐ろしくて仕方がなかったです。その気持ちがあったからこそ、乗り越えられたんでしょうね。

(次回へつづく)

東奈緒美 1983年1月2日生まれ、三重県出身。タレントとして関西圏を中心にテレビやCMで活躍中。グリーンチャンネル「トレセンリポート」のレギュラーリポーターを務めたことで、競馬に興味を抱き、また多くの競馬関係者との交流を深めている。

赤見千尋 1978年2月2日生まれ、群馬県出身。98年10月に公営高崎競馬の騎手としてデビュー。以来、高崎競馬廃止の05年1月まで騎乗を続けた。通算成績は2033戦91勝。引退後は、グリーンチャンネル「トレセンTIME」の美浦リポーターを担当したほか、KBS京都「競馬展望プラス」MC、秋田書店「プレイコミック」で連載した「優駿の門・ASUMI」の原作を手掛けるなど幅広く活躍。

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