▲同期対談の後編は、戸崎騎手の“ふるさと”大井への想いに迫ります
地方競馬の関係者と中央競馬の関係者によるスペシャル対談。第2弾は戸崎圭太騎手(JRA)と森泰斗騎手(船橋)の同期対談です。今やJRAのトップジョッキーとなった戸崎騎手ですが、そのルーツはまぎれもなく大井競馬。離れた今だからこそ感じる“ふるさと”のありがたみとは。そして、JRAへ移籍していく戦友に、森騎手が抱いていた当時の想いを明かします。(取材・文:赤見千尋)
(前編のつづき)
JRAに受かったと聞いた時は自分のことのように嬉しかった
――後編では地方競馬への想いを語っていただきます。戸崎騎手はエキストラ騎乗などで大井所属当時の勝負服で騎乗していますが、大井はどんな場所ですか?
戸崎 ふるさとですよね。勝負服もいまだに使わせていただいて、残してくれていることが嬉しい。大井に感謝です。あの勝負服を着ると落ち着きますね。なんか、これが戸崎圭太だっていう思いになれる。
▲今でも袖を通すお馴染みの勝負服、戸崎「あれを着ると落ち着きます」(撮影:高橋正和)
森 今は戦っている土俵が違うので、意識っていう感じでもないけど、乗りに来た時は「ああさすがだな」って思う騎乗をして帰るので、勉強させてもらってる。
戸崎 そうだね。土俵も違って時間が経っているし、意識っていう感じはないね。
森 だけどいい面は吸収したいって思ってる。圭太だけじゃないけど、後輩でも外国人でも同じだけど、今も勉強して、もっともっと上手くなりたいと思ってるから。
――戸崎騎手が中央へ行くという時はどんな心境でしたか?
森 内田(博幸)さんが行った後、一次試験免除がなくなったんだよね。だから、どうなんだろうとは思っていたけど、レースの合間にすごく勉強してたのは見てた。川崎の布団のところでよくやってたじゃん。努力を見ていたから、受かったって聞いた時は自分のことのように嬉しかったな。南関東のスケジュールで合間に勉強するってかなり大変だと思う。それにその後も活躍しているから、常に俺の予想を超えて来るなと。
戸崎 あの時は毎日のように教科書を持っていないと不安になる日々だった。もちろんレースはおろそかにできないし、緊張感はあったかな。ただ、流れで後押ししてくれたっていうのは大きくて。一次試験からっていうのは高いハードルだったけど、リアルインパクトで安田記念を勝たせてもらってすごく気持ちが高ぶっていたし、そういうことも含めて背中を押してくれたと思う。
▲JRA移籍前に制したリアルインパクトでの安田記念(撮影:下野雄規)
――その後JRAでもリーディングを獲るんですもんね。
戸崎 でもそれはほら、一人じゃできないことだから。僕が一番自慢したいのは、周りの人たちに恵まれたことなんですよ。本当にいい人たちに恵まれているから、すごくありがたいですね。
森 それは圭太の人間性とかさ、普段の行いとかがあってこそだよね。若い頃は普段の生活態度が大事なんだってよく怒られたりしたけど。今となってはわかるけど、その時はわからなかったから。でも圭太は昔からそういうところはちゃんとしてた。それも一つの才能だよね。
――もうすぐ年末年始に突入です。特に南関東の開催はハードですね。
森 ハードです。大みそかまで仕事で、元旦から仕事ですから(笑)。お正月気分はまるでないですし。去年ジョッキー同士で話したのは、31日まで一緒に仕事してて、また1日に顔を合わせるわけで、「明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い致します」は、もうよくない? っていう。
戸崎 中央も28日まで開催があるけど、それでも大みそかや元旦はお正月気分を味わえるからね。南関東にいた頃は、もうお正月はないものだから、あんまり考えてなかったな。ただ、確かに挨拶は大変だった(笑)。レースが終わって、「よいお年をお迎えください」って言って、その何時間か後には「あけましておめでとうございます」だからね。
――年明けの1勝目というのはいかがですか?
森 それはいまだにホッとしますね。「今年は勝てないんじゃないか」って思っちゃうから、だから一つ勝つとホッとする。
戸崎 それはそうだよね。年初めはあるよね。
森 リーディングを獲ったって言って喜んでも、31日に確定して、次の日ゼロだから。
戸崎 確かにね(笑)。
森 去年あんなにがんばったのに、「もうゼロかよ!」ってなるもん。
――年末年始の開催というのはいかがですか?
森 たくさんのファンの方が注目してくれるので、楽しみな時期ですね。それに、圭太にはこれから逆転してリーディングを獲って欲しいと思ってる。
戸崎 そうね。もう少しがんばりたいな。
森 年末は大きいレースが続くし、リーディング争いもあって緊張感がいつも以上にあるよね。
戸崎 一年の集大成だからね。去年は最終日までリーディングがわからなくて、すごい緊張感の中で戦わせてもらって。本当にいい経験させてもらいました。ただ、年明けたらゼロになっちゃうから(笑)。南関東なんて、300勝ったってゼロだもんね。
▲戸崎「去年は最終日までリーディングがわからなくて、本当にいい経験させてもらいました」
森 またゼロから積み重ねていかないといけないんだよね。
――意外にも今回が初対談だったということですが、22年前、こんな日が来ると思いましたか?
森 いや全然思わないです。だけど、そういえばセンターの時に一緒にTV番組に出たんですよ。
戸崎 ああ、出た出た。2人に密着して特集みたいな感じで。2人の生活を追うみたいな。
森 今思うとすごいよね。何で俺たち2人だったんだろう。同期15人いる中で2人選ばれて出たんだよね。
▲森「センターの時に一緒にTV番組に出たんです。今思うとすごいよね」
戸崎 教官チョイスだったのかな? 確かにあったね。懐かしいな。まさかこんな日が来るとは思わなかったけど、こういうのも楽しいね。
――地方競馬はファンとの距離が近いと言われていますが、その辺りはいかがですか?
森 それはありますよね。施設的にも馬や騎手との距離が近いですから。
戸崎 こちらとしても、ファンを近くに感じるんですよ。施設的な近さもあるんだけど、それだけじゃなくて。浦和とかってヤジがものすごく近くから飛んで来るんだけど、ヤジがあったと思ったらすんごい応援があったり。「バカヤロー」って言われた後に、「そんなことないよ」みたいな。アットホームな感じはすごくありますね。
森 最近はヤジが減ったね。圭太がいる時のが多かったと思う。応援はあるけど、たまにヤジを聞くと珍しいなって。愛のあるヤジはいいけど、グサッと来るのはイヤだよね。
戸崎 俺、試験受けてる時に「お前なんか試験受かるわけないんだよ」ってヤジられて。それレースと関係ないから、かんべんしてって思った(笑)。けどそういう近い感じが地方競馬の良さだよね。
――では、ファンの方々にメッセージをお願いします。
戸崎 ファンあっての競馬だということは常に考えています。いつも応援してくれる皆さんには、本当に感謝しています。勝たせてもらうことで注目もされるので、信頼されるようなレースを提供できれば。そうすれば競馬全体も自然と盛り上がってくれるので。
森 ファンの方々には本当に感謝です。恩返しというのは、いいレースをすることしかできないので。いいレースを見せて、競馬を楽しいなと思ってもらえるようにがんばります。
(文中敬称略、了)