▲NAR特設サイト『年末年始は、競馬が、濃い。』との連動コラム
『年末年始は、競馬が、濃い。』をコンセプトに、NAR(地方競馬全国協会)とコラボコラムを展開中! JRA×地方ジョッキー対談に続く第3弾は、地方競馬有識者5名が2018年に最注目する地方馬&ジョッキーを紹介。若手・ベテラン問わず、それぞれの独自の視点から、各1頭・1名を挙げ、2018年に注目すべき理由と飛躍への期待を語ります。(文:浅野靖典、井上オークス、大恵陽子、小堺翔太、斎藤修)
“カツゲキキトキト(名古屋)”が濃い!
浅野靖典幅広い競馬の知識を活かし、全国の競馬場や、生産牧場・育成牧場を取材。グリーンチャンネル『競馬ワンダラー』シリーズでもお馴染み。
▲名古屋所属のカツゲキキトキト(写真:浅野靖典)
それは2016年の暮れにさかのぼる。名古屋グランプリで2着のケイティブレイブに5馬身差ながら3着に入ったカツゲキキトキトの姿に、管理する錦見勇夫調教師が「これならそのうちグレードレースを取れるんじゃないか」と興奮ぎみに話したのだ。
7番人気での3着。勝ち馬から1.8秒差の3着でも、それを足掛かりに陣営は高い目標を設定した。明けて2017年。2月の佐賀記念は4着で、3月の名古屋大賞典は3着。それでも陣営は手ごたえを感じ取ったのだろう。秋は白山大賞典の制覇を目指して始動した。
しかし結果は2着。それでも陣営は、すぐさま名古屋グランプリにターゲットを切り替えた。
続くゴールド争覇を制し、東海菊花賞は単勝元返しで大楽勝。錦見調教師はレース直後に「目標は次だから」と、喜ぶことなく気合を入れ直していた。
そして迎えた2017年の名古屋グランプリ。カツゲキキトキトはJRA勢を差し置いて単勝1番人気に支持された。当日の名古屋競馬場には、2005年以来となる地元所属馬のグレードレース制覇を目撃しようとファンが多数。場内からはたくさんのシャッター音が聞こえてきた。
だが結果は、昨年と同じ。それでも大畑雅章騎手は「昨年は流れ込んでの3着、今年は勝ちに行っての3着」と、悲観していなかった。
カツゲキキトキトは出走回数こそ多いが、年が明けてもまだ5歳。ビッグタイトルを狙い続ける陣営と同様に、たくさんのファンもタイトル獲得の瞬間が来ることを待ち望んでいる。
“フリビオン(高知)”が濃い!
井上オークス旅打ち競馬ライター。国内外の競馬場を転戦しながら、「優駿」「スポニチ」「うまレタ―」等に寄稿している。
▲高知所属のフリビオン(写真:井上オークス)
フリビオンが中西達也騎手を背に高知優駿を制した直後、炭田健二調教師は言った。
「中西にとって、騎手として最後のダービーになると思う。だから今回だけは、どうしても勝たせてやりたかった。中西も緊張で眠れんかったらしい。なのにススムは、ダービーの装鞍まで、厩舎のソファーでグウグウ寝てた(笑)。ススムにはそういう度胸があるし、馬を本当にかわいがる」
フリビオンを担当する續晋(ツヅキススム)厩務員は、まだ20代の若者。牧夫から厩務員に転身して1年そこそこだが、炭田調教師は「ススムに任せとったら間違いない」と太鼓判を押す。
「フリビオンも最初は気難しかったけど、最近は見違えるほど大人になったからね」
開業間もない中西厩舎を訪ねると、フリビオンと共に中西厩舎へ移籍した續厩務員が、笑顔で馬の手入れをしていた。「楽しいです」とニコニコ笑って、鼻面を撫でる。「楽しいのがなによりやねえ」と、中西調教師もニッコリほほ笑んだ。
中西調教師いわく、フリビオンはまったく無駄のない体の馬で、飼い葉をガツガツ食べるタイプでもない。しかし西日本ダービー(佐賀)では約8時間の輸送をクリアして快勝。ダービーグランプリ(水沢)では約20時間の超・長距離輸送にもへこたれず、僅差の2着に食い込んだ。コースを問わず末脚を炸裂させるレースぶりはもちろん、輸送減りのなさにも驚かされる。續厩務員と一緒だから、安心して馬運車に揺られていられるのかもしれない。
次走は12月31日の高知県知事賞。高知はえ抜きのフリオーソ産駒、2018年は續厩務員と共に、どこの競馬場へ乗り込むのだろう。
“ソイカウボーイ(道営→船橋)”が濃い!
大恵陽子競馬アナウンサー。競馬番組のほか、イベントMCも務める。『netkeiba.com』や『優駿』、『週刊競馬ブック』でレポート記事を執筆。JRA・地方を問わず競馬歴21年。初めて行った競馬場は園田。
▲道営から南関東・船橋に移籍したソイカウボーイ(写真:大恵陽子)
2018年の注目馬はソイカウボーイ!とずっと思っていたのですが、12月13日の全日本2歳優駿(JpnI)でブービーになってしまいました。やや意気消沈しましたが、これからのダート戦線を牽引するであろうハイレベルなメンバーに交じって好位からレースを運べたのは、高いスピードを持つからでしょう。デビュー前の能検で断トツ一番時計を出しただけあります。
ソイカウボーイはこのレース後、これまで所属した田中淳司厩舎(道営)には帰らず、岡林光浩厩舎(船橋)へと移籍。ホッカイドウ競馬は2歳戦が中心で冬の間はレースがお休みのため、こうして他地区へ移籍していく馬がとても多いのです。
生産の伏木田牧場は浦河にある家族経営の牧場。若夫婦は北海道でのレースには熱心に応援に駆け付け、この日JpnIの晴れ舞台には若夫婦のほか親戚も集まっての応援となりました。レース後、伏木田修さんは「南関東で走ることになるし、俺たちもこれから出産シーズンで忙しくなるので、これまでみたいに応援に来られないと思います。オーナー、どうぞ俺たちの分まで応援よろしくお願いします」と話しました。
同じく横で「お願いします」と笑顔を浮かべたのは写真家の内藤律子さん。生後間もない頃からソイカウボーイの可愛さと動きの柔軟さに惚れて、毎朝放牧地でソイカウボーイと触れ合い、撮影を行っていました。大切に育てられたソイカウボーイは手を差し出すとペロペロと舐め、「人懐っこい」と田中厩舎でもみんなから可愛がられていました。
人懐っこいけど、環境の変化にはちょっと戸惑ってしまうソイカウボーイ。都会の空気に早く馴れて、南関東でもそのスピードを武器にレースを賑わわせてほしいです。
“ヒガシウィルウィン(船橋)”が濃い!
小堺翔太グリーンチャンネル『中央競馬全レース中継(土曜)』キャスター。中央のみならず、全国の地方競馬場にも足を運ぶ。今年は番組の企画で全国の『ダービーシリーズ2017』を現地で観戦。
▲船橋所属のヒガシウィルウィン(写真:小堺翔太)
今年のジャパンダートダービー。ウイニングランをするヒガシウィルウィンに贈られる温かい拍手、「正重、やったな!」の声…皆が彼らを称え、大井競馬場は一つになった。
間違いなく誰よりもこの勝利を喜んだ人がいる。しかし背中合わせに悔しさが押し寄せた。『テレビで叫びながら応援してて、嬉しかった。けど、ウイニングランを見てたら複雑な気持ちも湧いてきて…』ケガでこのレースへの騎乗が叶わなかったヒガシウィルウィンの主戦ジョッキー・森泰斗騎手は当時をこう振り返る。
今や力を疑う余地のないパートナーのヒガシウィルウィン。それでもニューイヤーCの直前追い切りで初めてこの馬に騎乗した泰斗騎手の第一印象は『正直、不安だった』という。体もそれほど大きくなく、乗った力強さも今まで乗ったクラシックを戦う馬達に比べると…?しかしレースではブラウンレガートとの叩き合いを制し、南関東の重賞初制覇。『誤解してすみませんって感じで…』抱いた不安は一気に吹き飛んだ。
『馬って成長するんだ!と改めて感じた』という京浜盃、一気に背が伸びてアスリートの体を手にしたヒガシは連勝を飾る。続くクラシック1冠目・羽田盃は中央から移籍してきたキャプテンキングに惜敗。ただ、突き放されずに食い下がった内容に泰斗騎手は次への巻き返しを疑わなかった。『大丈夫です、逆転できます』。
迎えた東京ダービー。向正面、泰斗騎手は後ろをチラリと見やる。羽田盃と違いキャプテンキングを真後ろに見る展開。前走で相手の脚は計った。大丈夫。終わってみればライバルを6馬身離す圧勝劇。ホッとした思い、嬉しさ。そして浮かんだ全国制覇への夢…
それだけに。
ジャパンダートダービーの時"テレビの中"で輝く彼らの姿が嬉しくもあり、悔しかった。再びの全国交流制覇を今度は自分の手で。『この馬が完成するのは4歳の終わりから5歳にかけてだと思います。一戦一戦、気持ちも育てていくレースができればいいですね』円熟期を迎えるヒガシウィルウィンと強い想いで彼と向き合う森泰斗騎手。コンビの悲願がかなう時、拍手とともにこの掛け声で迎えたい「泰斗さん、やったね!」。
“センゴクエース(ばんえい)”が濃い!
斎藤修グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『netkeiba.com』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。各場のB級グルメ情報も網羅する。
▲ばんえい所属のセンゴクエース(写真:ばんえい十勝)
父ウンカイは1997年にばんえい3歳三冠を制するなど現役時代重賞7勝、現在ではばんえい競馬における不動のリーディング種牡馬。母サダエリコは、牝馬としてばんえい史上最多の重賞13勝を挙げた。そんな注目の配合で誕生したセンゴクエースは、期待以上の活躍を見せた。
4月から翌年3月を1シーズンとするばんえい競馬では、2歳、3歳、4歳それぞれのシーズンに三冠があり、2014年度の2歳シーズンは9戦無敗のまま2歳三冠を制覇。3歳一冠目のばんえい大賞典こそ競走除外となったが、二冠目のばんえい菊花賞を制し、さらに三冠目のばんえいダービーでは、父・母・仔によるダービー制覇という快挙を達成した。稼いだ賞金で3歳シーズンから古馬オープン格付けとなり、さすがに古馬相手の特別戦などでは苦戦することもあったが、4歳シーズンも三冠を制覇。デビュー以来、出走した世代限定の重賞は無敗のまま2016年度の4歳シーズンを終えた。
古馬重賞に本格参戦となった2017年度は、さすがに一気の重量増もあって苦戦を強いられたが、古馬重賞としては比較的軽い700kg台の重量で争われる11月の世代対抗重賞・ドリームエイジカップを制して、古馬重賞初制覇となった。
ばん馬がもっとも充実するのはサラブレッドより遅く、7〜8歳頃と言われている。6歳となる2018年度は、いよいよ高重量で争われる主要古馬重賞のタイトル奪取に期待がかかる。
(文中一部敬称略)
※騎手編は1月5日(金)18時配信予定