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裏方への感謝

  • 2018年01月16日(火) 18時00分


◆騎手みずからによって語られる感謝の言葉は、じつにいいもの

 14日に佐賀で行われた3歳牝馬の重賞・花吹雪賞は、ゴール前、内外離れての接戦となり、直線で先に抜け出していたローザーブルーがわずかに残していた。北海道から転入3戦目、重賞初挑戦での勝利となった。

 鞍上はデビュー3年目、船橋から期間限定騎乗中の岡村健司騎手だったのだが、表彰式での岡村騎手の紹介で、実況の中島英峰アナウンサーは、何度か念を押すように「S1重賞は初制覇」ということを言っていた。

 念を押すようにというのは、「S2重賞はすでに勝っているけど、S1重賞は今回が初めてですよ」ということを言いたかったものと思われる。ようするに条件戦も含まれる佐賀のS2重賞は重賞というべき価値はなく、実質的にこれが重賞初制覇となったことを褒め称えたかったわけだ。

 佐賀のS2重賞問題については何度も書いているので、しつこいと思われる方もいるかもしれない。ただS2重賞を認めたままにしておくと、記録上とてもややこしいことになってしまう。そういう意味でも、佐賀のS2重賞は即刻抹消していただきたい。

 と、ここまではいつもながら長い前置きで、スミマセン。本題はここから。

 その花吹雪賞の表彰式のインタビューで岡村騎手は、「担当している厩務員さんは、今怪我で入院しているんですけど、うれしい報告ができます」と、感謝の言葉を述べていたのが印象的だった。

 そういえば、10日に浦和で行われたニューイヤーCでも同じようなことがあった。

 ヤマノファイトを勝利に導いたのは、本橋孝太騎手。表彰式のインタビューでは、「弟弟子の小杉亮(騎手)が調教をつけてくれていて、それで勝てたのがうれしい。感謝しています」というようなことを話し、涙で声を詰まらせる場面があった。グリーンチャンネルの地方競馬中継でもその場面が放映されたらしいので、ご覧になった方もいるだろう。

 本橋騎手はすでにいくつも重賞を勝っているので、単に重賞を勝った喜びだけではないことはわかる。そして小杉騎手への感謝ということなら、小杉騎手が怪我などで休養しているのかとも思ったが、そうではない。小杉騎手はこの日の浦和で8レースまで普通に騎乗していた。見ている者には、あまりにも唐突な本橋騎手の涙だった。

 最終レース後、本サイト『リスタート』のコラムでもおなじみの高橋華代子さんらと一緒に、本橋騎手にその理由を聞いてみた。簡潔にまとめると以下のとおり。

・小杉騎手は、レースには自分で乗れないことがわかっているにもかかわらず、普段から丁寧に調教をつけてくれていること。

・北海道からの転厩初戦だったこの馬に、兄弟子である本橋騎手が騎乗することがわかったときに、小杉騎手が喜んでくれたこと。

・最近、所属する矢野義幸厩舎の有力馬には所属以外の騎手が乗ることが多くなっていたところ、ものすごく久しぶりに所属厩舎の馬で重賞を勝てたこと(2010年に同じニューイヤーCをウインクゴールドで勝って以来8年ぶり)。

 などだ。おそらくこれらが理由のすべてではないだろうし、そうした思いがいくつも重なったことで、感謝の涙となったようだ。

 外から競馬を見ているだけでは、こうした裏方の苦労はなかなかわからないし、伝わってくることもあまりない。先の岡村健司騎手のインタビューもそうだが、騎手みずからによって語られる、こうした感謝の言葉は、じつにいいものだ。

ヤマノファイト

ニューイヤーC(浦和)を制したヤマノファイト。本橋孝太騎手には、所属する矢野義幸厩舎の馬で8年ぶりの重賞勝利となった

1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

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