「いやいや、ダート血統です」から始まったクラシックへの道 血の宿命に逆らう!?タイムフライヤー/吉田竜作マル秘週報
◆POGをしていれば、「血の宿命」はいやというほど思い知らされる
東京にいる母が先週、急に手術を受けることになり、主治医からは「家族は集まるように」と。栗東出張中だったが、同僚の厚意もあって東京へ。手術台へと向かう母を見送ることができた。
ところが、顔色はいいし、声の張りもある。見るからに元気なのだ。持って生まれた体の強さもあってか、13時間にもわたる大手術に耐えてくれた。記者が母に感じたことはもちろん、主治医も把握している。「年齢の割に元気がいいし、体力もある。いろいろな方法がある中で、今回の手術になりました」と説明してくれた。
記者も幸いなことに大きな病気をしたことがない。それは弟2人も同じで、その血を引く我が娘も病気で泣かされることはないようだ。人間の場合は祖父母から孫くらいしか見られないし、まして同じ時期を比較するのは難しい。そのため普段はあまり意識しないが、一族が顔を並べたことで「ウチの血統にも特徴があるんだな」としみじみ思ってしまった。
サラブレッドの場合は、種牡馬も繁殖牝馬も系列や傾向を把握した上で、徹底管理されている。時には「突然変異」としか思えない存在が、突出した活躍を見せたりすることはあっても、おおよそはその血統特有の傾向に収束するように思う。ただし、プロ中のプロには、おおよそにとらわれない、確信めいた何かを感じることがあるようだ。
例えばダートで一時代を築いたタイムパラドックスにゆかりのある血統は、常にダートを意識することになる。全妹にあたるタイムトラベリングも当然のように、ダート8戦(1勝)で競走生活を終えたのだが、実は管理していた松田博調教師は「もっと丈夫になったら、芝を走らせたい」と常々言っていた。
それが正解だったかどうかは分からないが、その声を拾い上げるかのような発言を、後にしたのが松田国調教師だ。タイムトラベリングが産んだ子を牧場で見た時に「“この馬は芝のクラシックディスタンスに行く馬だよ”と言ったんだ。牧場の人は“いやいや、ダート血統ですから”と言っていたもんだけどね」
牧場で見初めたこの鹿毛の牡馬こそが、後にGIホープフルSを勝ち、牡馬クラシックでも有望と見られているタイムフライヤーだったりする。
POGをしていれば、「血の宿命」はいやというほど思い知らされる。それは人の世も同じだからこそ、どこかサラブレッドの世界に共感を覚えるのかもしれない。しかし、ちょっとしたことでメビウスの輪のような堂々巡りから抜け出すことも可能…ということもサラブレッドと、それに携わる人たちは教えてくれる。