▲東西格差の解消なるか、開場40周年を迎える美浦トレセンが大規模改修へ (C)netkeiba.com
4月で開場40周年を迎える美浦トレーニングセンター(TC)の大規模な改修計画が3月5日、JRAから発表された。年2回の関東定例理事長会見の席上、谷崎潤理事が説明に立ち、坂路コースの延伸と高低差の拡大、現在は2本ある周回コースのうち北馬場を閉鎖するなどの計画の大枠を明らかにした。
開場から10年を経過した1988年の時点で、初めて年間勝利数で栗東に逆転された美浦勢。その後、格差は拡大と固定化の一途をたどり、「西高東低」が競馬界の常識として定着した中で、JRAがようやく美浦テコ入れに向けて、重い腰を上げた。しかし、格差の要因は複合的で構造化している。坂路延伸のインパクトがどの程度か、即断するのは難しい。
北馬場閉鎖で用地確保
谷崎理事によると、まず現状、高低差が18メートルの坂路を、栗東(32メートル)よりきつい33メートルとするために、現在は平坦な走路前半の地盤を掘る。延伸用地や、現在進行中の厩舎の建て替え工事の用地確保を目的に北馬場を閉鎖し、北にある障害コースなどは南馬場に移す。また、南馬場で最も使用頻度の高いウッドチップコースは、現在は右回りのみで運用されているが、曜日によっては左回りでの運用を可能にする構想だ。
計画の細部については、なお関係者と協議中だが、谷崎理事が言及した内容以外にも、ウッドコースを周回コースの最外に移す案も浮上している。現在は最外がダートで距離も幅員も最も長いが、追い切り日は馬でごった返すウッドを広くするのは合理的である。
では、改修は今後、どのように進められるか。まず、関係者との協議を経て夏までに概要を決定し、秋にはスケジュールを提示する。手順としてはまず北馬場を閉鎖し、併せて障害練習用のコースを南馬場に移す。その上で厩舎棟の移転を進め、坂路の延伸工事に着工。全部の工程を2023年までに終える予定だ。
こうした美浦テコ入れ策は、既に10年前から関係者も巻き込む形で論議されていた。美浦が開場30年を迎えた08年に「ネクスト30」と銘打った協議体が立ち上がり、ここにはJRAや日本調教師会関東本部に加えて、厩務員代表という形で労組も加わった。今回の改修計画もこうした枠組みでの議論を踏まえている。
12年には二ノ宮敬宇厩舎(2月末で解散)、伊藤大士厩舎が現在の北馬場のさらに北側に位置する区域に移転した。両厩舎の仕様は現在進行中の厩舎建て替えを先取りしたもので、高い屋根、馬が通路を挟んで向き合う形となる馬房の配置(対面式)、ウォーキングマシン(WM)を設置できる広い中庭の確保などが特徴だった。
さらに昨年4月には厩舎建て替えの第1期工事が完工。14の厩舎が移転し、一部はJRAの補助も受けてWMも設置した。その意味で、今回の大改修は、一連の栗東との施設格差を埋める取り組みの決定版と言っても過言でない。第1期工事は工費約63億円。建設費高騰の折、全体工費がどこまで膨らむかも気になる点ではある。
再び広がる格差
美浦と栗東の格差は現状、どの程度開いているのか? 昨年の年間勝利数は栗東1991に対し美浦が1465。526勝も差がついた。重賞勝利は90対48でGIは18対6のトリプルスコア。本賞金・付加賞の累積額は栗東が495億8289万5000円に対して、美浦は336億3050万5000円でシェアが59.5%対40.3%(地方が1億8054万円=0.2%)だった。どの指標を見ても美浦が16年より劣勢で、勝ち数は73、重賞勝ちは5つ、GI勝ちは2つ減った。賞金のシェアも1.3ポイント落ちた。
近年で言えば11、12、14年に栗東勢は2000勝以上。過去10年で最少の16年でも1920勝している。逆に美浦勢は過去10年で1500勝を超えたのが15、16年の2度(1513勝、1538勝)で、最少は東日本大震災の影響で福島、中山が長期休催となった11年の1413勝。16年まで美浦勢が巻き返す傾向だったが、昨年は再び差が開いた。