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「好漢の憂鬱」

  • 2005年05月30日(月) 15時04分
 内田博幸騎手の勢いが何とも凄い。5月29日現在200勝、年間500勝ペース(日本記録・佐々木竹見505勝)で勝ちまくっている。加えて今季はJRA19勝。移籍へのノルマというなら、すでにあと1勝へ到達した。5月7〜8日、NHKマイルカップ(マイネルハーティー)の週など、障害を除く23鞍すべてに騎乗。20勝×2年で一次試験免除というが、あるいは今年だけで40〜50勝、ダブルスコアを記録するかもしれない。乗り馬が次から次へと集まってくる。

 地方所属騎手のJRA騎乗。当初それは指定レースを勝った認定馬の挑戦とともに日常化されたが、南関東に限ると、いつしか形だけになってしまった。500万を勝ったドラゴンシャンハイ、エアムートン、いくつか例外はあるものの、多くの場合、騎手が騎乗機会を得るために“認定馬”が使われる。腕を請われたオファー。内田J、石崎隆J、その時点から乗り馬(認定馬)を探すケースが少なくないとも聞いた。本末転倒。規則自体に明らかな不備がある。

 「一次試験」を“学力”で突破した赤木高太郎、柴山雄一。20勝×2年で全国区に“実力”で割って入った安藤勝己、小牧太。むろんそれは素晴らしく、あらゆる意味で当然なのだが、反面彼らの活躍で、騎手免許における矛盾と理不尽、その論点があいまいになったうらみもある。数字上すでに移籍が秒読み段階となった岩田康成(兵庫)、吉田稔(愛知)。彼らの心中ははたしてどうか。JRAは最高の夢舞台。しかしデビューしたホームにはそれこそ原点の自分がある。どちらも乗りたい。そう思うのがやはり自然だ。

 誰もが思いつくだろう、明快な解決策がある。一定のキャリア、実績を積んだ騎手に“FA権”を与えること。線引きは難しいが、地方Jで考えるなら「10年・500勝」あたりが妥当なラインか。いずれにせよこれで全国フリーパス、いっさいの制限、条件なしで騎乗できる。抜本的というなら、むろん全ジョッキーのフリー化だが、これにはレース騎乗と調教(労働力)の完全分離など、厩舎制度を根底から変える必要がある。それこそ何年かかるかわからない。

 内田騎手は、移籍問題について直接的なコメントを出していない。「オファーがあれば、いつでもどこでも全力で騎乗したい」。それだけを繰り返し答え、その一方、「(自分を育ててくれた)大井から世界がめざせたら素晴らしい」。ホームへの愛着、配慮をもらしたりする。何やらいじらしくも思えないか。大井(南関東)は、ひとまず地方競馬の“砦”である。本人の立場と気持ちはどうにも微妙だ。

 彼は、先の日本ダービー。実はアドマイヤジャパン陣営からオファーがあり(横山典騎手・騎乗停止)、しかし認定馬騎乗申し込みの期限切れで実現しなかったと聞く。今や最高潮、頂点にも昇ろうかというジョッキー。その腕が存分にふるえない矛盾と理不尽。むろんこれはファンにとっても大きな不幸だ。

       ☆       ☆       ☆

マリーンカップ(船橋6月1日 サラ3歳以上牝馬 別定 統一G3 1600m)

◎ジターナフォンテン     (54・張田)
○プルザトリガー       (56・内田博)
▲レマーズガール       (56・武豊)
△グラッブユアハート     (55・安藤勝)
△オルレアン         (54・藤田)
△ラヴァリーフリッグ     (55・石崎隆)
△エターナルハピネス     (54・今野)

 ジターナフォンテンに、“シンデレラガール”の期待をかけた。JRA1勝(新馬)だけのトレード。しかし、南関転入4戦3勝のレースぶりは圧巻で、鞍上は終始舵をとるだけ。昨秋B級快勝時など、千六1分38秒3、オープン級の時計を余裕残しでマークした。父パラダイスクリーク。カネツフルーヴを持ち出しても、地方ダートでまだまだ大きく変わるだろう。昨年、ベルモントビーチが残した教訓。レマーズガール頂点のヒエラルキーは、けっして堅固なものではないこと。ジターナ自身、休み明けを叩いて3戦目。全力投球のステップだ。

 そのレマーズは、昨秋クイーン賞を勝ったものの、船橋コースでしばしば行き脚が鈍くなる。ホームの利、距離適性でプルザトリガーも互角の評価。前走大井マイルグランプリ、ナイキアディライトの2着は、勝ったエンプレス盃以上に内容がよかった。グラッブユアハートは対レマーズ、一瞬の脚を生かしたときだけに逆転が浮かぶ。実績上位ラヴァリーフリッグはおよそ1年ぶりで仕上がりひと息。前2走芝で見せ場があったオルレアンは思い切った逃げが条件だろう。

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日刊競馬地方版デスク、スカイパーフェクТV解説者、「ハロン」などで活躍。 恥を恐れぬ勇気、偶然を愛する心…を予想のモットーにする。

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