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平成の名勝負 天皇賞(春)

  • 2018年04月25日(水) 17時00分
平成の名勝負 天皇賞(春)

▲ netkeiba Books+ から平成の名勝負 天皇賞(春)の1章、2章をお届けいたします。(写真:2017年 天皇賞(春)/(C)netkeiba.com)


 晩春のさわやかで心地よい気候の中で行われる伝統の長距離戦、天皇賞(春)。ゴールデンウィークの始まりも相まって、競馬ファンのテンションはより一層高まる。過去、幾多の名勝負が繰り広げられてきた。火花散るライバル対決、最強馬が魅せた圧勝劇、長距離戦ならではの名手の駆け引き、ファンも翻弄された先行策。天皇賞(春)の名勝負を振り返るだけで、競馬の醍醐味を十分に堪能できると言っても過言ではないだろう。本著では、平成元年以降の29レースの中から、珠玉の7レースを振り返る。

(文:『netkeiba Books+ 編集部』)



第1章 国民的スターホースの連覇/2017年


 記憶に新しい2017年の天皇賞(春)から振り返ってみよう。前評判では5歳のキタサンブラックと4歳のサトノダイヤモンドの二強対決の構図だった。

 キタサンブラックは前年の春から武豊とコンビを組み、古馬中長距離路線を引っ張ってきた。特に秋の3戦は、京都大賞典1着→ジャパンカップ1着→有馬記念はクビ差2着というほとんど完璧に近い成績を残し、年度代表馬に輝いた。2017年になっても初戦の大阪杯(この年からG1昇格)を快勝し、現役最強馬の座を盤石にしつつあった。

 一方のサトノダイヤモンドはデビュー戦からルメールが手綱を取り続け、前年のクラシック三冠を3着→2着→1着と尻上がりの成績を残すとその勢いで有馬記念ではキタサンブラックを破った。
2017年になっても前哨戦の阪神大賞典を圧巻のパフォーマンスで勝ち、こちらも万全の状態で天皇賞に参戦してきた。

 有馬記念の激闘から5カ月、早くも訪れた再戦にファンは期待に胸を膨らませた。現役最強馬を懸けた一騎討ちになるだろうと思われていた。実際、単勝の人気もキタサンブラックが2.2倍、サトノダイヤモンドが2.5倍で抜けており、二強を表していた。前年秋から負けなしで、直接対決でも勝っているサトノダイヤモンドが2番人気に甘んじたのは、おそらく枠順の影響が大きいだろう。

 キタサンブラックの2枠3番に対して、サトノダイヤモンドは8枠15番。3200mの長丁場、終始外めを走らされる不利を多くのファンは懸念した。

 レースは、長距離戦にしてはめずらしいほどのハイペースになった。「逃げ」で良績を残してきたヤマカツライデンが、好スタートからハナをたたくと、11秒台のラップをきざみ、最初の1000mを58秒3で通過した。

 キタサンブラックと武は大きく離れた2番手を追走し、実質的にマイペースで逃げている態勢を築いた。

 15番枠のサトノダイヤモンドとルメールは内の各馬の様子を見つつ、中団の外に構えた。

 3番人気のシャケトラと4番人気のシュヴァルグランはその2頭の間の位置取りで、虎視眈々と一角崩しを狙っていた。

 レース中盤、ペースはさすがに落ち着いてきたが、それでも2000m通過は1分59秒7と速く、ヤマカツライデンの大逃げは続いていた。

 向正面から3コーナーにかけて、2番手のキタサンブラックが徐々に差を詰め、4コーナー手前ではヤマカツライデンを射程にとらえていた。それに呼応するようにサトノダイヤモンド、シュヴァルグランもじりじりと迫ってきた。4コーナーを抜ける頃にはキタサンブラックが堂々と先頭に立ち、後続を突き離し始めた。大阪杯と同じように、早めのスパートから押し切る戦法だ。

 直線、サトノダイヤモンドとシュヴァルグランが必死に前を追うが、このハイペースを追走してきたことも影響したのか、いつものような末脚を発揮できず、先頭のキタサンブラックとの差はなかなか詰まらない。

 最後は各馬がほとんど同じ脚色になり、なだれ込むようにキタサンブラックが先頭でゴールイン。好枠から終始好位置で立ち回ったシュヴァルグランが2着に入り、サトノダイヤモンドは3着に終わった。

2017年:天皇賞(春)


155回 天皇賞・春


 優勝タイムの3分12秒5は、従来の記録を1秒近くも更新する世界レコード。連覇を達成し、最大のライバルであるサトノダイヤモンドにリベンジを果たしたキタサンブラックが、名実ともに現役最強馬であることを証明した。鞍上の武豊は天皇賞・春8勝目で、自らの最多勝記録を更新した。

(2章につづく)
最強馬の圧倒的な勝利/2006年

▲ netkeiba Books+ から平成の名勝負 天皇賞(春)の1章、2章をお届けいたします。(写真:2006年 天皇賞(春) ディープインパクト/(C)netkeiba.com)


第2章 最強馬の圧倒的な勝利/2006年


 レコードタイムこそ、先述のキタサンブラックに塗り替えられてしまったが、2006年のディープインパクトの盾制覇は圧倒的かつ衝撃的だった。

 2005年にシンボリルドルフ以来の「無敗の三冠馬」になったディープインパクトは、古馬となった2006年は凱旋門賞などの海外レースへの挑戦が期待されていた。当然、国内のレースでは負けられない。

 古馬となってからの初戦、3月の阪神大賞典は3馬身半差で楽勝した。

 そして迎えた天皇賞(春)。デビュー以来最少馬体重の438キロ。究極の仕上げと呼ぶにふさわしい、研ぎ澄まされた馬体。
 単勝オッズは1.1倍。不安要素はなにもなかった。

 レースではいつものように、後方の位置取りとなった。いつ、どこで仕掛け、どのような勝ち方をするのか。多くのファンや関係者は、4コーナーの下り坂から徐々に進出し、直線で突き抜ける、そんなレースを想像していただろう。

 しかし、鞍上の武豊はまったくちがう選択をした。

 なんと、3コーナーから抜群の手応えで上がり始めると、4コーナー手前では全馬をまくりきって先頭に立ち、直線入り口では独走状態になった。2番人気のリンカーンが必死に猛追するが、影さえ踏めなかった。

 まさに独り舞台、観客の度肝を抜く圧勝劇。優勝タイムは3分13秒4。従来の記録を1秒も更新する驚異的なレコードだった。

 レースの上り3ハロンのタイムは33秒5。これはもちろん、ディープ自身が記録したものである。

 他の馬がディープに勝つためには、これより速い末脚を、2600mを走ったあとに出さなければならなかった。物理的に「不可能」である。

 もし、競走馬が人間のように考え、人間のようなメンタルを持っていたとしたら、ディープに負けた16頭は心が折れ、レース直後に自ら引退を申し出ていたかもしれない。

 それくらい、圧倒的な勝利だった。レース後、武豊は

「世界にこれ以上強い馬がいるのかなと、正直思いますよね」と語った。

 ディープインパクトはこの天皇賞のあと、宝塚記念、ジャパンカップ、有馬記念を勝ち、歴代最多タイのG1 7勝馬となった。凱旋門賞こそ3着入線ののち失格となり競馬ファンの夢をかなえることはできなかったが、日本競馬史上、「完璧なサラブレッド」にもっとも近づいた馬であることは間違いないだろう。

2006年:天皇賞(春)


133回:天皇賞(春)


(続きは 『netkeiba Books+』 で)
平成の名勝負 天皇賞(春)
  1. 第1章 国民的スターホースの連覇/2017年”
  2. 第2章 最強馬の圧倒的な勝利/2006年
  3. 第3章 鮮やかな先行逃げ切り/2012年、2004年
  4. 第4章 芦毛の怪物が魅せたロングスパート/2015年
  5. 第5章 絶対王者の貫禄/2001年
  6. 第6章 名手の駆け引きに酔いしれた三強対決/1997年
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