田上徹牧場全景
実はエポカドーロのセール上場前に…
去る4月15日(日)に中山で行なわれた第78回皐月賞。混戦を制したのは、7番人気のエポカドーロであった。父オルフェーヴル、母ダイワパッション(その父フォーティナイナー)という血統の黒鹿毛馬。新ひだか町三石本桐の田上徹牧場の生産馬である。
徹さんは35歳。その日は現地で愛馬を応援した。「ちょうど、その前日の朝に、母馬のダイワパッションが出産しまして、その三日前くらいから夜間もずっと監視していたので、かなり寝不足だったんです。でもせっかくのG1ですし、幸い前日に半弟も生まれたので、急きょ航空券を取って出かけることにしました」
先に夫人と子供たちは現地に行っていたという。「家族で営んでいる牧場なので、当日は朝3時に厩舎に行きまして、放牧して、馬房の掃除を済ませ、新しい寝わらを敷いて、夕方馬を入れられるようにしてから出発したんです。結構忙しかったですね」
競馬場でエポカドーロを見るのはこれが二度目であった。「その前走のスプリングステークスの時よりも、パドックで見ていると馬がずいぶん良くなっているような気がして、これならひょっとしたら良いレースをしてくれるかも知れない、と思いました」
その予感は的中し、先行するアイトーン、ジェネラーレウーノ、ジュンヴァルロからやや離れた4番手を進んだエポカドーロは、直線に向かうと一気に末脚を伸ばして先頭でゴール板を駆け抜けた。2着サンリヴァル以下に2馬身をつける完勝であった。
田上徹牧場は、昭和23年創業の小規模な生産牧場である。徹さんの祖父、雄一さんの代に軽種馬生産を始め、その後、父の稔さん、そして徹さんとこれで三代目である。
牧場名義が徹さんの名前になったのは2015年のこと。エポカドーロはその第一世代として誕生した。
「母馬のダイワパッションもうちの牧場で生まれていて、当歳時は薄くて小さな馬という印象が強かったですね。なので、あまり期待はしていなかったというのが正直なところです」
だが、ダイワパッションは、1歳のサマーセール時にJRA育成馬として810万円で購買され、翌年の第1回ブリーズアップセールにて2900万円(税抜き)で大城敬三氏によって落札される。公開調教にて一番時計を出したことで俄然注目されるようになったのだ。
その高評価に違わず、ダイワパッションは7月末に新潟でデビューし、勝ち上がるまで4戦を要したものの、以後は黒松賞(500万下)、フェアリーステークス(G3)、フィリーズレビュー(G2)と破竹の4連勝を飾って桜花賞に駒を進めるまで出世した。
通算17戦4勝、獲得賞金1億257万円という実績を残し、生まれ故郷の田上稔(当時)牧場に帰って来たのは、2008年のこと。
繁殖入りしてからは順調に出産を続け、エポカドーロは5頭目の産駒として、2015年に誕生した。
ダイワパッション5頭目の産駒として誕生したエポカドーロ
「この馬から、私の牧場の所有馬になったので、種牡馬として初年度の供用のオルフェーヴルを付けてみようと思ったんです」と徹さん。ダイワパッションは典型的な“男腹”で、エポカドーロまで5年連続牡馬ばかりを生み続けてきた得難い繁殖牝馬であった。
いささか私事に属する話だが、この年、実はエポカドーロがセレクトセールに上場申し込みをしているとのことで、2015年5月初旬に当歳だったこの馬の立ち写真を撮る機会があった。今思えば、未来の皐月賞馬を撮影したことになるが、凡人非才の私には、先々のこの馬の活躍を予感することができなかったのが何とも悔やまれる。
「エポカドーロも、やはり薄くて小さい馬だったんですが、セレクトセールでは思ったよりも活発な競り合いになってくれて、期待していた以上の価格まで行ってくれました」(徹さん)
税抜き3400万円でユニオンオーナーズクラブに落札されたのは周知の通り。その後、辻牧場を経て、育成は浦河の吉澤ステーブルで行なわれ、昨年10月に京都でデビュー。緒戦は3着と惜敗したものの、2戦目以降は安定したレースぶりである。
皐月賞の前日に誕生した半弟も、今年7月に開催されるセレクトセールに上場を申し込んでいる。先日、やはりエポカドーロの時と同じく、立ち写真を撮影する機会に恵まれた。
皐月賞の前日に誕生したエポカドーロの半弟
3年前とは異なり、今度はG1馬の半弟ということで、一気に注目度が増すことだろう。上場馬選定のための選考委員会はこれから開催されるので、厳密には未だ上場が決定したわけではないとはいえ、皐月賞馬の下ともなればよもや落選することはあるまい。
半弟の父はドゥラメンテ。兄の今後の活躍とともに、こちらにも大きな期待がかかる。
「これまでたくさんの方々にお世話になって、ようやく皐月賞を勝ってくれました。これも皆様のおかげです」と徹さん。
田上徹さんとエポカドーロの半弟(父ドゥラメンテ)
母子ダイワパッション(父ドゥラメンテ)
次走の日本ダービーは、同じ三石地区(ケイアイファーム)で生産されたダノンプレミアムとの一戦になる。どんなレースが展開されるか、今から楽しみだ。