▲種牡馬ディープインパクト、その偉大な力を日本のみならず世界が求め出した… (撮影:田中哲実)
6月2日に行われる英ダービー。ディープインパクト産駒サクソンウォリアーの注目度は高く、netkeibaの競走馬検索でもついに「1位」に。先に行われた日本ダービーを制したのも、ディープインパクト産駒のワグネリアン。さらには6月3日の仏ダービーにも、前哨戦を制したスタディオブマンが出走予定。日英仏ダービーをディープインパクト産駒が制する可能性も!?
なぜ今、世界が“ディープインパクト”の血を求めるのか。そこには、ヨーロッパ競馬を牽引する“クールモアスタッド”が抱える、深刻な問題がありました。血統評論家の栗山求氏が、ヨーロッパ競馬の血統事情を解説します。
(文=栗山求)
いままさに世界競馬の歴史が変わろうとしている
2018年5月5日、英ニューマーケット競馬場で行われた2000ギニー(GI・芝8ハロン)。馬群の中団につけた2番人気サクソンウォリアーが力強く抜け出し、イギリスの牡馬クラシック一冠目を制覇した。
アイルランドの名伯楽エイダン・オブライエン調教師にとって、この勝利はGI通算300勝目となる記念すべき勝利だった。しかし、競馬史的にみてそれ以上に重要なのは、「英クラシック史上初めて欧米以外の地域で生産された馬が勝った」こと。
近代競馬は16世紀のイギリスで始まり、3歳馬によるクラシックレースは18世紀後半から19世紀初頭にかけて創設された。最古のクラシックレースは1776年に始まったセントレジャー。日本の菊花賞に相当する。その後、1779年にオークス、1780年にダービー、1809年に2000ギニー、1814年に1000ギニーが作られ、これら5レースは現在にいたるまで行われている。
1844年にアイルランド産馬フォーアバラーがセントレジャーを制し、グレートブリテン島以外で生産された初のクラシックホースとなった(ただし、当時のアイルランドは独立前でイギリス領)。1865年にフランス産馬グラディアトゥールが英三冠を制し、1881年にはアメリカ生まれのイロコイが英ダービーを制覇。
こうしてイギリスのクラシックホースの出身地域は、ヨーロッパ大陸→北アメリカと範囲を広げていったが、それから130年余り、新たな地域から勝ち馬が誕生することはなかった。サクソンウォリアーは冒頭に記したとおり、欧米以外で生産された初の英クラシックウィナーで、いままさに世界競馬の歴史が変わろうとしている。