表面上はさして目立たない。しかしその中身は強烈/ラジオNIKKEI賞
◆受け継いだのは、さらに広がる未来に向けたグリーンダンサーの血
4月の中山芝1800m「山藤賞」を圧勝して2戦2勝となったフィエールマン(父ディープインパクト)のタイムは、1分48秒1。2馬身半差の完勝とはいえ、表面上はさして目立たない。しかし、その中身は強烈。前半1000m通過61秒5の緩い流れを、出負けした同馬は後方にひかえてゆっくり追走していたが、3コーナーあたりから自身のピッチを上げると、外を回ってひとまくり。「11秒9-11秒7-11秒6-11秒4」と尻上がりにピッチの上がった流れを楽に抜け出した。
差し馬の場合、平坦に近い小回りコースの福島では、一瞬の切れも必要だが、むしろロングスパートも可能なタイプの方が信頼できるケースが多い。2戦目でこの内容なら、フィエールマンは文句なしに合格だろう。1歳上の半姉ルヴォワール(父ハーツクライ)は3戦2勝のあと休養中。母リュヌドールの産駒は完成するまであまり無理のできない傾向があるとされるが、身体の成長を見守りつつ急いで出走させることなくここがまだ3戦目。秋に向け、オープンに出世しておきたい。母は2400~2500mの仏GIIを2勝しているから、距離延長は歓迎だろう。
母の父グリーンチューンに関係する話題。1973年生まれのグリーングラス(菊花賞、有馬記念など8勝。オーナーは福島の半沢氏)が活躍したころ、欧州には1歳上の世代にグリーンダンサー(72)がいた。この2頭、ともに長く30歳近くまで生き、同じ2000年に死亡している。
グリーンダンサーは、種牡馬としてきわめて長く産駒を送り続けた。日本でもっとも良く知られるのは『ノーザンダンサー(61)→ニジンスキー(67)→グリーンダンサー(72)→ノーアテンション(78)→スーパークリーク(85)…』と続くライン。この父系は、なんと25年間に5回も世代交代した超高速回転ラインだった。
でありながら、28歳まで種牡馬だったグリーンダンサーは、孫の世代になる前出の菊花賞馬スーパークリークが種牡馬となりその産駒が走ったころ、つまり、その名が日本で知られてから10年近くのちに輸入された外国産馬エイシンプレストン(97年生まれ。香港のGI3勝など10勝)の父でもある。
高速の世代交代で知られたグリーンダンサーは、やがて、恐ろしく回転の遅い血を伝える種牡馬となっている。期待の注目馬フィエールマンは、「グリーンダンサー(72)→母の父グリーンチューン(91)→母リュヌドール(2001)→フィエールマン(2015)」。こちらの世代交代は44年間にたった4回である。
フィエールマンが受け継いだのは、急いで結果を求める初期のグリーンダンサーではなく、秋に向け、さらに広がる未来に向けたタフなグリーンダンサーの血だろう。秋のビッグレースに向け、ここでキチッと答えを出しておきたい。