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インフレが加速していくセレクトセール(須田鷹雄)

  • 2018年07月17日(火) 18時00分


◆ウハウハな状況の一方、その先に潜むリスクも…

 既に様々な媒体で報じられているが、今年のセレクトセールは盛況を通り越して異常な領域に入り込んだ印象だ。

 POGとしてはまず来年の対象である1歳セッションが気になるところだが、本体価格1億円以上の馬が23頭出た。現1歳世代は昨年の当歳セッションで既に17頭の1億円以上馬が出ているので、計40頭が1億円以上ということになる。

 ちなみに、現3歳世代の1億円以上馬は21頭。2歳世代は15頭。高い高いと言われていた昨年・一昨年からさらに加速がついたように見える。10年前・現11歳世代だと、本体価格1億円以上は9頭のみしかいなかったので、「億」の希少性は当時と同じようには語れない。

 億超えは象徴的な存在だが、ノーザンファーム上場馬は下のほうまでまんべんなく高かったという印象だ。今回の1歳セッションで売却されたノーザンファーム生産馬は88頭。その半分、価格順44位・45位はいくらだったかというと、本体価格4100万円。4000万円台はひと昔前の感覚だとそこそこの高馬だったはずだが、いまでは「並」である。

 その44位・45位はそれぞれエピファネイア産駒とトゥザワールド産駒。まだ産駒の結果が出ていない種牡馬というのは安く買えてこそ妙味があるはずだが、購買者はそのメリット抜きにギャンブルせざるをえなくなっている。

 ノーザンファーム生産馬ではカレンブラックヒルが最高4200万、キズナが5000万、リアルインパクトが3700万、ワールドエースが3900万(いずれも本体価格)と、軒並み初モノが高かった。既成勢力を買えなかった資金が流れてきた印象だが、これらの種牡馬がすべて成功するわけではないので、リスクを背負った戦いとなるのは言うまでもない。

 このあおりを完全に食っているのが日高の生産馬だ。ノーザン難民の資金は社台ファームにはある程度流れるが、1歳セッションの日高組には流れなかった印象。下河辺牧場のディープ牡馬(母インネートグレイス)が最高価格だが、それでも7800万円。2000万円未満の馬や主取り馬も多かった。

 日高の生産者からは既に昨年以前から「セレクトでノーザンと併せ馬をするくらいなら、セレクションのほうがいい」という声が上がっていたが、その動きは加速するはず。現1歳世代についても、日高の中小牧場についてはセレクション組に注目したい。

 ただ、当歳セッションについてはセレクトの日高組もある程度の評価を受けた(あくまで1歳セッションと比較しての話だが)ように思える。購買者も一晩寝るうちに冷静に考えた……というわけでもないだろうが、この動きが来年1歳セッションにも広がるようなら、セリ全体が興趣を増してくる可能性もある。

 一見ウハウハに見えるノーザンファームにとっても、現在の状況は将来に向けてのリスクを内包している。いまのセリが高いのは比較的馬主歴が浅くて資金力のある購買者によるところが大きいが、一方で昔なじみ+中小規模の馬主が(やむなく)日高に少しずつ流出している。新規マネーがずっと続けばよいが、そこが先細ったうえで昔の馴染みが帰ってこないということになると、それはそれで困ったことになる。

 新規かベテランかに関わらず、高馬が走らないことによる財政的・心理的疲弊も問題だ。現3歳世代の1億円以上馬(ノーザンファーム以外も含む)21頭のうち、未勝利戦末期の現時点で勝ちあがっているのは10頭。2000万円以上を稼いでいる馬は4頭で、1頭あたりだと1100万円強となる。

 馬というのはもともとそういうリスクを含んだもので、価格が高くなればなるほどリスク面が増大していく。馬主自身が作っている問題ではあるのだが、馬主がどこまで耐えられるかというのも、今後の注目ポイントになってくるだろう。

須田鷹雄+取材班が赤本紹介馬の近況や有力馬の最新情報、取材こぼれ話などを披露します!

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