▲来年の夏から競走条件の呼称が変更に、背景と課題をノモケンが詳しく解説します (撮影:高橋正和)
JRAは6月25日の関西定例記者会見で、2019年の夏季競馬から、競走条件の呼称を変更すると発表した。19年夏季競馬から降級制度が廃止されることに併せて、従来の収得賞金による表記を勝利数に改める。現在、新馬・未勝利とオープンの間にある500万以下、1000万以下、1600万以下という3つの区分をそれぞれ「1勝、2勝、3勝」とする。
当面は公式の資料などで従来の表記も併せて使用するが、収得賞金による競走条件の表示は、中央競馬以前の国営競馬(1948-54年)時代から使用された歴史があり、単なる呼称とは言え、大きな変化には違いない。加えて、降級廃止に先立つ19年の春季競馬からは、オープンクラスで「リステッド」競走が新たに導入され、競走体系は1つの転機を迎える。
論議の末、単純な呼称を選択
本稿執筆にあたって、国営から中央競馬に移行した1954年の成績公報を見てみた。移行後の10月3日の東京の7レースは、出走資格が「5歳以上の馬にして、平地競走の収得賞金150万円以下のもののために設ける」(年齢は旧表記)と記されている。馬資源が手薄だった当時は、アングロアラブや障害競走も数多く組まれており、同日の9レース「アラブ中距離ハンデキャップ」は、「平地競走の収得賞金4歳は70万円以下、5歳以上は 140万円以下」となっている。
一見して出走頭数はアラブの方がかなり多く、降級制度もいち早く導入されていたようだ。逆に、サラブレッド競走は現在のように、年齢ごとに収得賞金の上限を置く代わりに、一定期間の収得賞金に上限を設定している表記が見られる。
前記の10月3日は第5回毎日王冠(当時は芝2500メートル)の施行日で、1着賞金は70万円。今年は6700万円だから約96倍に膨らんでいる。賞金高騰とともに、競走条件の呼称も変わっていくが、後にサラブレッドでも降級制度が導入され、一時は4歳と5歳の2度も編成替えが行われていた。しかも、現在も同じだが、実際の賞金額と収得賞金に加算される額が異なるのだから、わかりにくいのは否定できない。初心者に競馬の基本を教える際、最も難儀な点の1つと言えるだろう。
JRA競走部でも、新たな呼称を巡っては相当な議論があったという。地方で行われているようなA、B、Cといった表記から、松竹梅に至るまで、様々な案が出された末、勝利数で落ち着いた。ABCにすると、勝たなくても入着賞金で格付けが変動する地方との区別がつきにくいという問題があり、「年齢にかかわらず、1つ勝てばクラスが上がる」という新方式の趣旨を直接的に反映した結果、「◯勝クラス」に落ち着いたようだ。
オープン特別は2段階に
降級制度廃止の狙いは、オープンや1600万といった高額条件の在籍頭数を増やすことにある。夏場やローカル開催を除けば、その日のメーン競走には、オープンか1600万条件の競走が据えられるが、季節によっては少頭数になることが少なくない。06年の降級の1段階化も意図は同じで、従来なら下の条件に組み入れられていた馬を、上のクラスに置くのだから「上げ底」と言われても仕方ない。