ジャスタウェイには「スマンカッタ」と言いたい(村本浩平)
◆生産界は“とんでもない世界”に突入
「正直、スマンカッタ」
とジャスタウェイに対して言いたい。まあ、実際に会って目の前でこの気持ちを伝えたところで、社台スタリオンステーションで繋養されているジャスタウェイ自身は
「何言っているんだこいつ?」
と一瞥されてしまうのだろうが。
今年のフレッシュサイアーランキング、種付け頭数や配合されている繁殖牝馬のレベルからしても、ジャスタウェイが単勝1.0倍級の本命であることは疑いようが無かった。しかしながら、それは同じ年に初年度産駒を送り出した種牡馬内でのランキングであり、昨年のフレッシュサイアーランキングの首位となったロードカナロア、そしてここ数年の2歳サイアーで常に上位に来ている、ディープインパクトやダイワメジャーの牙城の前には、遠く及ばないだろうと考えていた。
ところが、8月5日時点の2歳サイアーランキングを見ると、1位がロードカナロアで、なんと2位にはジャスタウェイがランクイン! 以下、近年は2歳戦からの産駒の活躍が目立つキンシャサノキセキ。その後がディープインパクト、ダイワメジャーの順番となっている。
社台スタリオンステーションで繋養される種牡馬の初年度産駒が、早い時期から活躍を見せるのは、その時期を逆算したかのような育成管理のたまものでもある。それでも、仕上がりの良さや、短距離戦向きと言えるスピード能力の高さといった種牡馬自身の特性が産駒に遺伝されなければ、それは机上の空論に終わる。
しかしながらジャスタウェイの産駒たちは、父の現役時の活躍にも証明された卓越したスピードだけでなく、仕上がりの良さも兼ね備えていた。春先にジャスタウェイ産駒の特徴を様々な育成スタッフに聞いた時、必ずと言っていいほど比較対象として上がってきたのが父のハーツクライであり、そして、
「ハーツクライの産駒よりも仕上げやすいですし、距離も短いところから行けそうですよ」
との言葉が聞かれていた。そうはいっても、「短い」とされる距離はマイル前後かと思っていたところ、函館競馬場の芝1800Mで勝利したラブミーファインが、その時よりも距離が3ハロンも短くなった函館2歳Sで惜しい2着。そして5日に行われたメイクデビュー小倉では、芝1800Mの条件に出走したヴェロックスが2着馬に8馬身差を付ける圧勝。その前日に新潟競馬場で行われたダリア賞でも、アウィルアウェイが芝1200Mで行われたメイクデビュー阪神に続く連勝。ダリア賞は芝1400Mのレースだったが、1ハロン伸びてもスピードに衰えは見られなかった。
昨年のロードカナロア産駒やオルフェーヴル産駒の活躍を見た時、
「新種牡馬が2頭揃ってGI馬を送り出すなんて、そんな上手いことは続くわけがない」
と思っていたのだが、今のジャスタウェイ産駒の活躍を見ると、初年度産駒からの重賞制覇はほぼ間違いなさそうであり、しかも、産駒のポテンシャルが最も発揮できるであろう、芝のマイル近辺のGIが2歳戦から3歳にかけて幾つも行われることからしても、その可能性は充分にあり得る。そう思うと、「正直、スマンカッタ」というよりも、毎年のように新種牡馬の産駒が活躍を続けるという、とんでもない世界に生産界は突入したとも言える。
しかも、ヴェロックスの圧倒的なパフォーマンスにも証明されたように、ジャスタウェイ産駒は芝中距離にも適性がありそう、というよりも、父のようにマイルから2000Mが合っているのではないかとも思わされる。この条件を寡占しているのがディープインパクトの産駒たち。さすがのジャスタウェイも、おいそれと勝ち鞍を伸ばしていけなくなるかもしれないが、ヴェロックスのような抜けた能力を持った馬がそこに風穴を開ける可能性がある。
最近、セレクトセールやセレクションセールといった競走馬市場、そして、クラブのツアーなどで、来年、初年度産駒がデビューを迎える新種牡馬(エピファネイア、キズナ、ゴールドシップ)の産駒たちを数多く目にする機会があった。どの馬も父譲りの好馬体が遺伝されており、動きの良さにも現役時の父を彷彿とさせるようなパフォーマンスを期待できる。
となると来年デビューする新種牡馬の産駒たち、そしてドゥラメンテやモーリスといった、再来年に初年度産駒がデビューを迎える産駒たちにも、2歳戦やPOG期間内での活躍も期待できてしまうのでは…とも想像せざるを得ない。
近年の生産界はトップサイアーランキングに大幅な変動が見られなかった(それも凄いことではあるが)が、そのトップサイアーが年齢を重ねてきているという現状、そして、ここ数年における新しい種牡馬の産駒たちの活躍からしても、一気にサイアーランキングは変動を見せていくのでは…と未来に思いをはせながら、
「あまり2歳のことを触れられずに、しょっぱい原稿(試合)ですいません!」
とこの原稿をまとめたい。