▲馬っこパーク・いわてにやってきたアンナベルガイト(提供:上田優子さん)
闇を照らして行き先を示す、引退馬支援団体
日本有数の馬産地だった東北地方。特に岩手県の遠野は南部駒の産地としても有名で、源義経の愛馬「太夫黒」も南部駒だった。現在も遠野では乗用馬の生産が行われ、セリも開催されている。また水沢と盛岡には競馬場があり、岩手県と馬は古(いにしえ)から現在に至るまで深い関わりがある。
その岩手に馬に関する新たな動きがあると知らせてくれたのは、東北地方在住のフェイスブック上の友人だった。何でもアハルテケイオンという引退馬支援の団体があり、引退馬を活用したホースセラピーや岩手競馬にアイドルホースを登場させようという内容で活動し、盛岡競馬場で協賛レースや募金活動も行っているという。
「代表の上田さんという女性がものすごくアクティブで、どんどん人脈が広がり、未来が開けていくようで、私も手伝いながらワクワクしています」
と友人から届いたメッセージからは、期待に胸躍る様子が伝わってきた。そしてアハルテケイオンという名称はしっかりとインプットされ、いつか取材する日が来るだろうなと漠然とだが予感していた。
その日は、想像以上に早くやって来た。友人からのメッセージが届いたのは7月18日で、アハルテケイオンの取材依頼を受けたのが2日後の20日だから、あまりにもスピーディ過ぎて少し驚きながらも、アハルテケイオン代表の上田優子さんに連絡を取った。電話の向こうから聞こえてきたのは、鈴の音のように可愛らしい声。それでいて話し方に勢いがあり、アクティブさが伝わってくる。活動内容を詳しく聞く前に、こういう人が物事を動かす原動力となるのだろうと直感した。
アハルテケイオンのアハルテケはトルクメニスタン原産の馬で、その毛並みが金色に輝いていることから「黄金の馬」とも呼ばれている。スピードと持久力に優れ、現存している最古の馬種の1つに数えられる。イオンは、ギリシャ神話に登場する伝令神ヘルメスが携えていたケーリュケイオンという名の杖が由来だ。
「アハルテケイオンは、アハルテケとケーリュケイオンを併せた造語なんです」と上田さん。
「ケーリュケイオンは冥界に行くまでの道先案内をする杖でもあるので、闇を照らして行き先を示すという杖の役割にかけて、引退馬の未来、馬の未来を照らすという意味合いを込めて名付けました」
またケーリュケイオンは神々の伝令の証の杖とも言われていることから、アハルテケイオンには馬の神様からのメッセージを伝えるという意味合いも含まれているようにも思う。
上田さんが競馬に夢中になったのは20代の頃だった。サンデーサイレンスが次々と名馬を送り出し、競馬界を席巻していた時代。結婚をして子育てが始まると、競馬からは距離が離れてしまっていた。そして40代になって、ふと自分のやりたいことに夢中になれる時間を持ちたいと願うようになり、大好きだった馬に関わっていこうと決心したのだった。その1つがホースセラピーだった。
「主人が精神科医なので精神メンタル領域でのホースセラピーを行いたいと、馬っこパークに問い合わせをしたんです」