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ヨシダの走りに世界中の競馬関係者が驚愕、北米ダート競馬の最高峰に挑む

  • 2018年09月05日(水) 12時00分


◆強敵相手にヨシダがどのような戦いをするか

 1日(土曜日)に北米ニューヨーク州のサラトガ競馬場で行われたG1ウッドウォードS(d9F)を、日本産ハーツクライ産駒のヨシダ(牡4)が優勝し、日本産馬による北米ダートG1制覇という史上初の快挙が達成されたことは、皆様も各種のニュースで既にご存知のことと思う。

 ウッドウォードSと言えば、北米東海岸における極めて重要にして権威あるG1で、過去の勝ち馬には、ケルソ、バックパサー、ダマスカス、フォアゴー、シアトルスルー、アファームド、スペクタキュラービッド、イージーゴーアー、シガーなど、北米競馬史に燦然と輝く名馬たちがズラリと並ぶ一戦だ。

 過去10年に限っても、08年の勝ち馬カーリン、09年の勝ち馬レイチェルアレグザンドラ、11年の勝ち馬ハヴレドグレイス、17年の勝ち馬ガンランナーの4頭が、その年の全米年度代表馬となっており、つまりは、チャンピオン級の馬たちが勝利するのがウッドウォードSというレースなのである。

 しかも、そんな一戦を「初ダート」で制したのだから、お膝元の北米は言うに及ばず、世界中の競馬関係者が驚愕したのも無理はなかった。

 この日、ヨシダが引き当てたのは1番枠で、まずまずのスタートを切った同馬を、鞍上のJ・ロザリオはそのまま内埒沿いの中団に付けてレースを進めた。すなわち、砂のキックバックをもろに被るという、初ダートの馬がおそらくは最も嫌がる状況に置かれたのだが、ヨシダは全く怯むことなく手応え良く追走。ロザリオが馬を外に持ち出したのは、3〜4コーナー中間に差しかかって、いよいよ進出を図ろうという局面を迎えてからで、そこからは胸のすくような末脚を繰り出して2馬身差の快勝。

 母ヒルダズパッションは、サラトガのダートG1バレリーナS(d7F)や、ガルフストリームパークにおけるダート7F戦のトラックレコード(1分20秒45)を樹立したG2インサイドフォメーションS(d7F)などを含めて、ダート重賞5勝の実績を残した馬だったし、ハーツクライの父は言わずもがな、ダートG1・6勝の全米年度代表馬サンデーサイレンスだから、高いダート適性を秘めていて何も不思議はない血統背景を、ヨシダは保持している。

 それならば、もっと早くからダートを試していれば良かったのに、と仰せの向きもおいでであろうし、実際に、ヨシダを共同所有するウィンスターファームの社長で、同馬をセレクトセールで発掘(税抜9400万円で購買)した、いわば立役者であるエリオット・ウォルデン氏は、かなり早い段階からヨシダのダート挑戦を訴えていたようだが、しかし、前走まで芝で10戦し、G1ターフクラシック(芝9F)、G3ヒルプリンスS(芝9F)という2重賞を含む4勝を挙げ、ロイヤルアスコットのG1クイーンアンS(芝8F)でも勝ち馬に1.1/4馬身遅れただけの5着に健闘していたことを考えれば、陣営がこれまで芝にこだわってきたのも、無理からぬというか、むしろ当然の戦略であったと思う。

 ウッドウォードSの後、同馬を管理するW.モット調教師も「これまでの私たちが、誤ったレース選択をしていたとは思わない」とコメントしている。

 ただし、そのモット師もヨシダの今後については、「今日のレースを見れば、ダート路線を行くべきであろう」と発言。具体的な目標として、次走は11月3日にチャーチルダウンズで行われるG1BCクラシック(d10F)に直行とのプランが、陣営から聞こえてきている。

 日本産馬が、北米ダート競馬の最高峰に有力馬の1頭として挑むのだ。

 BCクラシックと言えば、アイルランドのクールモアスタッドが、どうしても勝ちたくて、毎年のように挑み続けているのに、勝てないでいるレースである。クールモアを差し置いて、日本産馬が先に勝利を手にするようなことになれば、これほど痛快なことはなかろう。

 目下のところ、BCクラシックの最有力候補と見られているのが、西海岸を拠点としているアクセレレイト(牡5、父ルッキンアットラッキー)だ。

 3歳秋から西海岸ダート重賞戦線の常連となっていた馬だが、本格化したのは5歳を迎えた今季で、3月にG1サンタアニタH(d10F)を制し、通算4度目の重賞制覇にして待望のG1初制覇を達成。5月にはG1ゴールドCアットサンタアニタS(d10F)を、そして8月にはデルマーのG1パシフィッククラシックS(d10F)をレース史上最大となる12.1/2馬身差で制し、史上3頭目となる西海岸古馬3大ダート競走の同一年完全制覇を成し遂げている。次走は、9月29日にサンタアニタで行われるG1オウサムアゲインS(d9F)の予定だ。

 その他の古馬勢では、8月4日にサラトガで行われたG1ホイットニーS(d9F)を3.1/2馬身で快勝し、自身2度目のG1制覇を果たしたディヴァーシファイ(セン5、父ベラミロード)も侮れない存在だ。

 更に、昨年の最優秀3歳牡馬で、G1ドバイワールドC(d2000m)で2着になった後は休養しているウェストコースト(牡4、父フラッター)も、ここへきてようやく本格的な調教を再開しており、おそらくはぶっつけ本番になるであろうが、BCクラシックには間に合うと報じられている。

 3冠馬ジャスティファイが早々に引退してしまった3歳勢では、8月25日にサラトガで行われたG1トラヴァーズS(d10F)の勝ち馬カソリックボーイ(牡3、父モアザンレディ)が筆頭格になろうか。同馬は、7月に芝のG1ベルモントダービー(芝10F)を制しており、ヨシダ同様に“二刀流”の遣い手としても話題となっている。

 そして、前出のクールモアが送り込むのが、春のG2UAEダービー(d1900m)を18.1/2馬身差で圧勝したメンデルズゾーン(牡3、父スキャットダディ)だ。G1ケンタッキーダービー(d10F)は極悪馬場になった上に、他馬との接触があって競馬にならず、7月のG3ドゥワイヤーS(d8F)も見どころのない競馬で3着に敗れたが、G1トラヴァーズSでは逃げて2着という悪くない競馬を見せ、復活の兆しを見せている。

 BCクラシックだけに、相手が揃うのは当然のことで、彼らを相手にヨシダがどのような戦いをするか、秋競馬の大きな見どころとなりそうだ。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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