ジャスティファイやアメリカンフェイローの種付け料発表
◆驚きとともに迎えられたアメリカンフェイローの種付け料
クールモア・アメリカより、2019年にケンタッキー州のアシュフォード・スタッドにて供用される種牡馬の種付け料が発表され、来春が初供用となる2018年の3歳3冠馬ジャスティファイのフィーが、15万ドルであることが明らかになった。
6月9日に行われたG1ベルモントS(d12F)を制し、史上13頭目の北米3歳3冠を達成したジャスティファイは、7月に入って左前脚の球節に炎症を発症。経過を慎重に観察しながら、調教再開の時期を探っていたが、運動を再開すると炎症が再発したことから、現役続行を断念。7月25日に引退が発表されていた。
ジャスティファイは8月1日に、現役時代を過ごしたボブ・バファート厩舎から、共同馬主のひとりであるケンタッキーのウィンスター・ファームに移動。故障個所の治療に努めつつ、現役時代に蓄積された疲労をとるべく、心身ともにリラックスした毎日を過ごしていた。
ジャスティファイの種牡馬としての処遇については、愛国のクールモア・グループが、莫大な金額をオファーして権利の買収に動いていると、かなり早い段階から噂にのぼっていた。ジャスティファイの共同所有者のひとりであるチャイナ・ホースクラブが、クールモアと非常に近しい関係にあることからも、ジャスティファイのクールモアでの種牡馬入りは既定路線のようにも報じられていたが、正式な発表がないまま9月も半ばを迎え、ファンをやきもきさせていた。
ジャスティファイの繋養先が、クールモアのアメリカにおける拠点であるアシュフォードであることが、ようやく正式に発表されたのが9月15日で、その2日後の9月17日にジャスティファイはウィンスター・ファームからアシュフォード・スタッドに移動。同馬を管理したボブ・バファート調教師がアシュフォードに出向き、ジャスティファイの到着を出迎えた光景が、大きなニュースとなって全米を駆け巡った。
そして、23日にクールモア・アメリカから来季の種付け料についての発表があったのだ。同馬の初年度の種付け料として設定された15万ドルについては、ほぼ予測通りというのが業界の受け止め方だ。
2015年に史上12頭目の北米3冠を達成し、2016年にアシュフォードで種牡馬入りしたアメリカンフェイローの初年度の種付け料が20万ドルだったことから、これと同額ではないかと見る向きもあった。アメリカンフェイローが生涯で2度、敗戦を喫しているのに対し、無敗のまま引退したのがジャスティファイだ。
アメリカンフェイローより安くては辻褄が合わないというのが、20万ドル説を唱えていた人たちの論拠だったのだが、一方で、現役時代の実績としてジャスティファイがアメリカンフェイローに劣っていた部分が、少なくとも2点はあったことも確かだった。
1つは、アメリカンフェイローのデビューが2歳8月であったのに対し、ジャスティファイのデビューは3歳の2月だったことだ。すなわち、仕上がりの早さという、北米生産者がことさらに重要視する要素に関して、種牡馬ジャスティファイを不安視する声もなくはなかったのだ。
もっとも、ジャスティファイの父スキャットダディは、2歳の早い時期から活躍する馬を量産する種牡馬として名を馳せただけに、ジャスティファイも仕上り早の仔を出すであろうというのが、大方の見るところではある。
ジャスティファイの競走成績で、アピールに欠けるもう1点が、古馬との対戦が一度もなかったことだ。今年の北米における3歳世代がどの程度の水準にあるのか、その結論を得るにはもう少し時期を待たなければならず、結果として強い世代であったということになれば問題はないのだが、逆に、世代の水準が低かったということになると、古馬と戦っていないことが、予想外に大きな瑕になる可能性もなくはないのだ。
その点、BCクラシックも制して「グランドスラム」を達成しているアメリカンフェイローの方が、競走実績が上であり、従って初年度の種付け料もアメリカンフェイローの方が上との判断が下されても、不思議ではなかったのである。
15万ドルでも、2018年の種付け料ランキングに当てはめると上から5番目タイに入る高額で、充分に高い評価を与えられての種牡馬入りであることは間違いない。言わずもがな、クールモア・グループが新種牡馬ジャスティファイを全面的にサポートするはずで、多数の上質な繁殖牝馬に交配することになるであろう。
2019年のアシュフォードにはジャスティファイ以外に、2017年のG1ハリウッドダービー(芝9F)勝ちモータウン(父アンクルモー)と、2017年のG1BCジュヴェナイルターフ(芝8F)や2018年のG2UAEダービー(d1900m)を制したメンデルスゾーンが、新種牡馬として加わる。モータウンの種付け料が1万2500ドルと発表されたのに対し、メンデルスゾーンは「後日発表」となったのは、同馬がこの後、G1BCクラシック(d10F)出走を控えているからで、その結果が来季の種付け料に大きく影響を与えるわけである。
アシュフォード・スタッドの2019年の種付け料が発表され、驚きとともに迎えられたのが、先ほどから何度も名前の出ているアメリカンフェイローのフィーだった。
前述したように、初年度が20万ドルで、2年目の2018年は「Private」として公表されなかった同馬の種付け料が、供用3年目の2019年は11万ドルと大幅に値下げされることが明らかになったのだ。
アメリカンフェイローの初年度産駒は現在1歳で、9月10日から23日までケンタッキーで開催されたキーンランド・セプテンバーセールでも、セール2番目の高値となる220万ドルで購買された母キンドルの牡馬をはじめ、3頭のアメリカンフェイロー産駒がミリオンを越える価格で落札されている。これを含めて、今年ここまで北米で開催された1歳市場に上場されたアメリカンフェイロー産駒は、65頭が平均47万4755ドルという高額で購買されており、マーケットでも極上の評価を受けている。
このタイミングで、種付け料をほぼ半額にしたクールモアの意図がどこにあるのか。図抜けたビジネスセンスを持つと言われるクールモアだけに、練りに練った戦略の一貫であろうとは思うが、腑に落ちない思いをしているファンも多いことと思う。機会があれば、そのあたりをぜひ取材してみたいと思っている。