父の血をつなぐ後継種牡馬の誕生に期待したい
NARグランプリ2018の表彰馬・表彰者が発表された。年度代表馬のキタサンミカヅキや2歳最優秀牝馬のアークヴィグラスが満票だった一方で、選定が難しいカテゴリーが例年より多いと感じた中でも、意外だったのは3歳最優秀牡馬のクリスタルシルバー。
個人的には、全国交流のダービーグランプリのタイトルもあり、年間を通してほとんど完璧な成績だったチャイヤプーンではないかと思っていたのだが。選定過程を見ると、やはりこのカテゴリーが一番難しかったようで、最初の投票では4頭に票が割れ、1頭を除外した3頭による2度目の投票でも過半数を得る馬がなく、3度目に2頭の決選投票となって、クリスタルシルバー7票、チャイヤプーン5票ということで、ぼくと同じように考えた選定委員の方も少なくなかった。
今回の選定で、なるほどと思ったのは、特別表彰馬のサウスヴィグラス。2018年1月26日に疝痛を発症し、手術を施したもの回復せず3月4日に死亡。昨年22歳で種牡馬としても高齢ではあるが、2017年の21歳時にも173頭と交配し、2018年に生まれた産駒は118頭が血統登録されている。
ところで日本では、競馬に限らず様々な分野の表彰で、死んだタイミングで表彰されることが多いのが以前から気になっている。歴史に残るほどの偉大な功績を残しているのなら存命のうちに表彰すればいいのにと思うのだが。ま、それは今回の本題ではないので閑話休題。
かつてであればダートの活躍馬が種牡馬としても活躍するということはほとんどなかったのだが、2017年に死んだゴールドアリュール、そしてサウスヴィグラスは、現役時にダートでチャンピオン級の活躍を見せ、さらに種牡馬としても数多くのダート重賞勝ち馬を輩出。中央・地方を通じてダート交流重賞の路線が整備されて20年以上が経過し、血統面でも日本のダート競馬が成熟したといえる。
種牡馬としてのサウスヴィグラスは地方競馬のサイアーランキングでほとんど不動の地位を築いていて、初年度産駒のデビューは2007年だが、2012年に初めてトップに立つと、2015〜18年は4年連続で1位。2010年以降はすべて3位以内となっている。
そしてサウスヴィグラスが地方競馬サイアーランキングでトップ3位内をキープしている2010年以降で1位になれなかった年の1位は、2010・11・14年がゴールドアリュールで、2013年はホッコータルマエが活躍したキングカメハメハだった。さらに、前述したサウスヴィグラスが1位だった2012・2015〜18年の2位はいずれもゴールドアリュール。つまりここ10年ほどの地方競馬のサイアーランキングは、サウスヴィグラスとゴールドアリュールの寡占状態となっている。
サウスヴィグラスは引退レースとして臨んだ7歳時、2003年のJBCスプリント(大井)を勝ったのがGI/JpnI初制覇。2015年のJBCスプリントをコーリンベリーが制したことで父仔制覇となった。また産駒が活躍する舞台は多くがダートの短距離だったが、2017年にはヒガシウィルウィンが東京ダービー、ジャパンダートダービーの南関東二冠を制して、距離に対する可能性も示した。
NARグランプリでもサウスヴィグラス産駒は常連となっていて、ラブミーチャン(2009・12年)、ヒガシウィルウィン(2017年)の2頭で3回年度代表馬となった。ちょっとすごいと思ったのは2歳最優秀牝馬のタイトルで、2015年タイニーダンサー、2016年ピンクドッグウッド、2017年ストロングハート、そして2018年アークヴィグラスと、4年連続でサウスヴィグラス産駒が受賞。
これは、牝馬・ダート短距離・早熟という、サウスヴィグラス産駒の特徴を示しているとも言える。ちなみにここに挙げたNARグランプリ受賞馬6頭はすべて、種牡馬サウスヴィグラスのシンジケートの中心的立場にあったグランド牧場の生産馬でもある。
ただちょっと残念なのは、サウスヴィグラス産駒からは、これといった後継種牡馬が出ていないこと。ゴールドアリュールの産駒からは、エスポワールシチー、スマートファルコン、コパノリッキーをはじめ、つい先日引退が発表されたクリソライト、さらに現役ではあるものの引退後は種牡馬入りが期待されるゴールドドリームなど、後継種牡馬が多数出ているのとは対照的。そういう意味でも、距離に融通がきくヒガシウィルウィンにはさらなる奮起を期待したいところ。
冒頭でも触れたとおり、サウスヴィグラスの種牡馬としての人気は晩年も衰えることがなく、2017年に生まれた産駒は96頭、昨年は118頭が血統登録されている。今年、そして来年にデビューする産駒への期待も大きい。