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【矢作芳人×藤岡佑介】『“日本はジョッキーの数を増やしたほうがいい”競馬界の底上げ案』第3回

  • 2019年01月23日(水) 18時02分
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▲日本人騎手が育つ土壌について問題意識を持っているという矢作調教師、その底上げ案とは


矢作芳人調教師をゲストにお迎えしての今回の対談。矢作調教師は佑介騎手を新人の頃から重用し、サポートし続けてきました。現在では弟子の坂井瑠星騎手を長期で海外に遠征をさせるなど、育成に尽力しています。以前から日本人騎手が育つ土壌について問題意識を持っているという矢作調教師。「日本はジョッキーの数を増やしたほうがいい」、師が考える競馬界の底上げのためのプランに迫ります。

(取材・文=不破由妃子)


外国人騎手と日本人騎手「技術的な差がないとは言えないが、それほど大きな差だとも思ってない」


──昨年の矢作厩舎のGI2勝は外国人ジョッキーによる手綱でしたが、この時代の流れを踏まえて、調教師の立場から日本人ジョッキーに求めることは何ですか?

矢作 ん〜、難しいなぁ。というより、俺自身、どうしたらもっと日本人ジョッキーが育ってくれるんだろうって模索し続けているところがあるからね。やっぱり馬の質が違うから。

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▲モズアスコットで勝利した安田記念はC.ルメール騎手 (撮影:下野雄規)


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▲リスグラシューを悲願のGI制覇に導いたのはJ.モレイラ騎手 (C)netkeiba.com


佑介 この前、(川田)将雅とも話していたんですけど、たとえばあるGIで勝つ可能性が高いと思われている馬が5頭いたとして、その5頭すべてに外国人ジョッキーが乗ってしまうと、6頭目以降の馬で負かしにいくのは難しいよなって。ただ、単純に馬の質のせいにはしたくないんです。それ以前の問題として、なぜそういう状況になっているのかを考えていかないと、いつまで経っても“上位5頭”に乗れる立場にはなれない。

 普段からコミュニケーションを取っているのは自分たちなのに、ポッと乗りにきた外国人ジョッキーに上から順番に馬が回っていってしまうのは、彼らに託したほうがチャンスがあると思われているからですもんね。僕はそういうふうに捉えています。

矢作 世界のトップクラスばかりが乗りにきているわけだから、ある意味当然だし、実際、技術的な差がないとは言えない。ただ、その反面、それほど大きな差だとは俺は思ってない。

 今、日本にきている外国人ジョッキーの多くは、世界のなかで戦って、そこから上がってきた奴らでしょ? だから、俺は長い目で見て(坂井)瑠星をオーストラリアに1年間行かせたわけだし、今年1年はともかく、来年以降も継続的に行かせようと思ってる。やっぱりね、海外に乗りに行くのは当たり前くらいな視点を持っていないと、今後はダメだと思うんだよね。

 ただね、そう考えているのが俺一人じゃダメなんだよ。瑠星のようなケースが日常的に行われて、毎年5人とか10人が海外に出ていくくらいにならないと。たとえば香港がいいモデルケースで、香港でデビューする前にニュージーランドやオーストラリアに乗りに行かせることで、だいぶ伸びてきたもんね。

入学者数を増やし、見習い騎手としての免許からスタート


佑介 そうですね。香港は昔に比べて地元のジョッキーが勝ってますもんね。でも、日本の調教師さんのなかでも、海外に出て行くことを応援してくれる先生が増えているように思います。

矢作 今後はもっと増えてくることを期待しているけど…意外と壁は厚いのかなって俺は思う。それに、何よりジョッキー本人の覚悟も必要だよね。それだけの思いがある人間じゃないと意味がないと思うし。もちろん調教師にも、それに応えるだけの思いが必要だけどね。それともうひとつ、日本はジョッキーの数を増やしたほうがいいと思う。

佑介 それは僕も思います。

矢作 現状のままでは、毎年複数人が海外に出ていく状況なんて作れるわけがないし、そもそも競馬学校の育成システムというか、最初から絞りすぎているような気がする。まぁ予算の問題をはじめ、いろいろと課題があるのはわかっているけど、最初にもっとたくさんの子を入学させたほうがいいと俺は思うし、昔からそう言い続けているんだけどね。

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▲矢作師「競馬学校は最初から絞りすぎているような気がする」


佑介 わかります。たくさん入学させたなかから、ふるい落としていくということですよね。僕らが競馬学校に入学した頃は、最初にたくさん合格させるという方針だったんですよ。だから、入学した時点で同期が15人いて、上からふたり下りてきたから、17人でスタートしたんです。

矢作 今と比べたら、かなり多いよな。

佑介 ですよね。結局、卒業の時点で8人しか残りませんでしたけど、それでいいんじゃないかなって思うんです。最近は5〜6人でスタートして、デビューするのは4人とか、そんな感じですからね。受験人数自体も少ないんでしょうけど、それにしてもスタート時点の人数が少ないなって。

矢作 最初にいっぱい入学させて、卒業後もあくまで見習い騎手としての免許からスタートするとかね。

佑介 そこが海外と一番違うところですよね。日本にも減量という制度はあるけど、海外はアプレンティスとプロはそもそもライセンスが違うし、乗っている場所も明確に違うじゃないですか。そのぶん、ジョッキーになりたいと思えば、誰でもアプレンティスにはなれますけどね。そこからプロフェッショナルになれるかどうかは話が別で。

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▲佑介騎手「海外はアプレンティスとプロはライセンスが違う」


矢作 うん。ヨーロッパもオーストラリアもそんな感じだからな。

佑介 最初にもおっしゃってましたけど、先生は以前から日本人ジョッキーが育つ土壌について問題意識を持っていたんですね。模索し続けた結果、まずは瑠星を1年間も海外に送り出した。

矢作 そうだね。競馬学校の在り方や免許制度についても難しいことは承知しているけど、世界で通用するジョッキーを育てるというのは、俺の夢でもある。その夢を語るとすれば、行きつくのはそこしかないなと思うんだよね。

(文中敬称略、次回へつづく)
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JRAジョッキーの藤岡佑介がホスト役となり、騎手仲間や調教師、厩舎スタッフなど、ホースマンの本音に斬り込む対談企画。関係者からの人望も厚い藤岡佑介が、毎月ゲストの素顔や新たな一面をグイグイ引き出し、“ここでしか読めない”深い競馬トークを繰り広げます。

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1986年3月17日、滋賀県生まれ。父・健一はJRAの調教師、弟・康太もJRAジョッキーという競馬一家。2004年にデビュー。同期は川田将雅、吉田隼人、津村明秀ら。同年に35勝を挙げJRA賞最多勝利新人騎手を獲得。2005年、アズマサンダースで京都牝馬Sを勝利し重賞初制覇。2013年の長期フランス遠征で、海外初勝利をマーク。2018年には、ケイアイノーテックでNHKマイルCに勝利。GI初制覇を飾った。

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