スマートフォン版へ

週刊サラブレッド・レーシング・ポスト

  • 2005年09月06日(火) 10時58分
 アイルランドにおける種付け料収入に対する課税控除処置の撤廃が、いよいよ本決まりとなったようだ。政府からまだ正式な発表はないものの、先週金曜日付けのIrish Examiner紙が「撤廃確定」と報じたのだ。現行の優遇税制こそがアイルランドにおける競馬産業を根幹で支えてきただけに、地元の生産界は大きな衝撃を受けている。

 アイルランドにおける種付け料収入に対する課税控除は、自国の競馬産業繁栄をもくろむ時の政府によって、1969年に法制化されたものだ。この結果、アイルランドで繋養される種牡馬の質が格段に上昇。生産界の発展に大きく寄与することになった。

 クールモア・スタッドが、「帝国」とまで言われる現在の生産・競馬組織を作り上げることが出来たのも、まさにこの優遇措置があったから、と言われている。例えば、クールモアで繋養されている13年連続リーディングサイヤーのサドラーズウェルズ。公示はされていないが、現在の種付け料は日本円でおよそ3000万円程度と言われている。年間100頭種付けを行ったとして、種付け料収入はサドラーズウェルズ1頭だけで年間30億円になる(全てクールモア以外の繁殖に付けたとして)。05年のシーズンにクールモアがアイルランドで供用した種牡馬は、上記のサドラーズウェルズをはじめ、種付け料5万5千ユーロのロックオブジブラルタル、4万5千ユーロのモンジューなど、21頭。いささか乱暴な計算となって恐縮だが、これら全ての種付け料収入が無税かそうでないかでは、まさにバランスシートがひっくり返るほどの差があることは御理解いただけたと思う。

 近隣諸国のサラブレッド生産者たちが羨むこの優遇税制に、異議を申し立てたのがEUだった。この免税措置は国家援助にあたり、欧州競争法に抵触するとして、今年1月、アイルランドに対して予備勧告を行ったのである。

 これに対して、アイルランドの生産者たちは、当然のように反発。ことにクールモアの総帥ジョン・マグナー氏は、80年代の一時期代議士を務め、その後も国の基幹産業を牽引する実業家として、政界におおいに顔がきく人物として知られている。彼を中心として、アイリッシュ・ターフ・クラブ、サラブレッド生産者協会、さらには国の監督省庁であるHRI(アイルランド競馬局)らが盛んにロビー活動を行ったのだが、いかなジョン・マグナーと言えども、条約を盾にとった欧州連合の圧力には抗しきれなかったようだ。

 アイルランド政府は、課税免除に代わる競馬産業支援策を検討していると言われているが、免税ほど有効な手だてが他にないことは明らか。免税撤廃が正式に発表され実施に移されれば、種牡馬の国外流出など、大きな影響が出ることが予想されている。

このコラムをお気に入り登録する

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

バックナンバー

新着コラム

アクセスランキング

注目数ランキング