▲自身にとって大きな話題が続いた2018年を振り返る
藤田菜七子騎手にとって2018年は、大きな話題が続いた年。女性騎手最多勝利記録など、おもに記録の更新が注目されましたが、自身の中での大きな変化と語ったのが、エージェントを付けず自分で騎乗馬を管理するようになったこと。「難しいなと思うこともありますが、そのぶん遣り甲斐はあります」と言う菜七子騎手の、“プロの覚悟”に迫ります。
(取材・文=不破由妃子)
誰のせいにもできない状況にあえて身を置き
──昨年は、(JRA)女性騎手最多勝利記録の更新が大きな話題となりましたが、年間勝利数も初年度の6勝、2年目の14勝ときて、昨年は27勝(いずれもJRAのみ)。騎乗数も605回と、前年より200鞍以上増えましたね。
菜七子 はい。たくさんの馬に乗せていただきました。
──人気の馬を任される機会もグッと増えましたよね。1番人気でいうと、デビュー以来26回騎乗していますが、そのうち20回が昨年ですから。プレッシャーとの向き合い方も変わってきたのではないですか?
菜七子 以前は人気の馬に乗ると、緊張こそあまりしませんでしたが、“どうしても勝ちたい!”という思いが強すぎて、うまくいかないことが多々ありました。今考えると、力が入りすぎていたなと思います。でも最近は、やっと1番人気の馬でも平常心で乗れるようになってきたような気がします。
──人気馬への騎乗が増えるという現象は、そのままそのジョッキーへの評価ですからね。
菜七子 今、エージェントをつけていなくて、自分で騎乗馬を管理しているので、余計に責任を感じますね。人気に関係なく、直接「この馬、よろしくね」と頼んでいただくと、もっともっと結果を出さなければいけないという気持ちになりますから。
▲直接騎乗依頼を受けることで感じる、感謝と責任 (C)netkeiba.com
──騎乗数がグンと増えた今、ご自分が窓口になって管理するというのは大変な作業では?
菜七子 そうですね。電話はたくさん掛かってきますし、難しいなと思うこともありますが、そのぶん遣り甲斐はありますね。自分で乗る馬を自分で集めて番組を整理するわけですから、どういう結果が出ても自分の責任なので。
──誰のせいにもできない状況にあえて身を置かれたわけですね。
菜七子 もちろん、人のせいにできないのは、エージェントがいてもいなくても同じですけどね。でも、今はすべてが自分次第なのかなって。まだ全然うまくできていないので、騎乗馬を集めることはもちろん、もっとうまく番組を組めるようになりたいです。
──営業というか、厩舎を回ったりもされているんですか?
菜七子 そうですね、そういうときもあります。あとは電話やメールで営業したり。とはいえ、自分ひとりでやっているわけではなくて、根本先生もサポートしてくださっています。騎乗数が増えたのも、依頼をしてくださるオーナーや厩舎の方々、サポートしてくださっている方々のおかげなので、遣り甲斐を感じつつも、感謝の気持ちを常に持っていたいです。
──おもに記録の更新など、菜七子騎手にとって大きな話題が続いた2018年ですが、自分で騎乗馬を管理するようになったというのは、一番大きな変化では?
菜七子 はい。私にとって、大きな変化だったなと思います。
380キロの小柄な牝馬が秘める、パワーとバネ
──そんな変化にも対応しながら実績を積み重ねてこられたわけですが、なかでも2018年で自信になった勝利、印象に残った馬との出会いなどはありますか?
菜七子 どの勝利も印象に残っていますが、馬との出会いでいうとマルーンエンブレムですね。私のなかで、すごく大きな存在の1頭です。
──初めて騎乗された4月の福島(3歳未勝利)で、豪快な差し切り勝ちを決めた馬ですよね。
菜七子 はい。そのレースの追い切りで初めて乗せていただいたんですけど、霧がすごくて、時計がまったく取れない日だったんです。だから、数字はわからないんですが、とにかく動きがものすごく良くて。
380キロくらいしかない小柄な牝馬なんですけど、どこにこんなパワーとバネがあるんだろうと感じるくらい、すごくいい馬だったんですよね。血統がいいのも知っていたので、レースはもちろん、調教に乗るのがすごく楽しみだったんですが、思った以上でした。
▲秋華賞馬ブラックエンブレムの仔のマルーンエンブレム (写真はコンビ2勝目、撮影:下野雄規)
──それまでに感じたことのないポテンシャルを感じたんですね。
菜七子 マルーンについては、そうかもしれません。期待通り、未勝利を勝ってくれて、500万もポンポンと2回目で勝ち上がってくれて。
──1000万も昇級初戦で2着。ずっと乗ってきた馬と一緒に上を目指せるというのは、ジョッキーにとって最高ですよね。
菜七子 乗り替わりの多いこの時代に、負けてしまってもまた乗せていただけるというのは本当にありがたいことだと思います。前走の反省点を生かせますし、次はこうしてみようとか、良さを引き出すためにいろいろと探れるので。
──馬の変化や成長に合わせて、競馬も変えていけますものね。
菜七子 はい。マルーンには4回(取材時点)続けて乗せていただいてますが、やっぱり初めて乗せてもらったときと4回目では馬が全然違います。体はそれほど増えていませんが、ものすごくパワーがついたのを感じますし、もともと競馬で自分から走っていくタイプではなかったんですけど、「ここから動くんだよ」というのを1回目と2回目で教えたら、自分からハミを取っていくようになりました。基本的には走るのが好きで、すごく賢い馬なんです。
──そういうパートナーの存在は、モチベーションになりますね。
菜七子 そうですね。もっともっと変わってくれる馬だと思うので、すごく楽しみです。
(次回へつづく)
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▲(写真提供:ホリプロ)