▲地方競馬全国協会(NAR)の公正・システム・活性化部門を担当する生野等理事を取材
「地方競馬をより面白く!」をコンセプトに立ち上がったNAR×netkeiba.comの連載企画『地方競馬ネット会議室』。読者の皆様からも地方競馬を発展させるためのアイデアを募るなどご協力を頂くなかで、昨年は禁止薬物陽性馬の発生をはじめ、着順誤審や放馬事故など公正確保を揺るがす事案が多数起こりました。そこで今回は当初の予定を変更し、公正・システム・活性化の3部門を担当する生野等理事が取材に出席。ファンの皆様へのお詫びから各事案が発生した経緯と現状を伺います。(取材:矢野吉彦)
公正確保を揺るがす事案の多発に「まさしく異常事態」
矢野 さっそくですが、去年、大きく言えば3件、残念な事態が立て続けに発生してしまいました。岩手と浦和の禁止薬物と門別の誤審です。それらについては、NARのホームページにアップされた理事長の年頭ご挨拶でも触れられていましたが、公正のご担当としてどんな見解をお持ちでしょうか? 多分ファンの方々が一番気にしているのがそこだと思うので、いきなりお伺いします。
生野 そうですね、これまでこの『地方競馬ネット会議室』では、2回ほど、理事長と理事の川崎がお話をさせていただいております。そこでは、"地方競馬をより面白く!"といったコンセプトで取材をされて、お話をさせていただきました。ところが今回は、まったく違うお話をしなければなりません。
私は昨年11月に公正担当の理事に就任いたしましたが、今の状況は、競馬の公正確保という観点で言えばまさしく“異常事態”です。
例えば岩手の話がございましたが、いわゆる治療薬ではないアナボリックステロイド、筋肉増強剤といったものが複数回検出されました。これまでにこういったケースはなかったと記憶しています。
また、浦和の件についても、同じ厩舎ではありますが、続けて発生している状況でありまして、ここは我々も危機感を持って対応しなくてはいけないと思っており、主催者と緊密に連携をしながら対応しているという状況でございます。
さらに、誤審、放馬事故など、公正確保を揺るがすような事故が多発しています。netkeibaさんをご覧いただいている皆様はもちろん、地方競馬を楽しんでいただいているファンの皆様や、関係するたくさんの方々に大変ご迷惑をおかけしている次第です。こういった公正確保の根本を揺るがすような事象が立て続けに発生している状況について、心からお詫びを申し上げます。
また、これらは地方競馬で起こった事象でございますが、起こっている事象自体は、地方競馬に留まらず日本の競馬に対するお客様の信頼を著しく損なう事象だというふうに認識しています。今年はお客様の信頼回復を早期に図らなくてはいけないということで、地方競馬一丸となって再発防止に努めていくとともに、公正確保の徹底を図っていく所存でございます。
▲NARも“異常事態”と認識「一丸となって公正確保の徹底を図っていく所存」
矢野 公正確保の面で言う地方競馬全国協会(NAR)の役割について、生野理事はその統括責任者でいらっしゃるんで、まずそれをご説明いただきたいんです。
生野 NARは、公正関係の業務としまして、競馬開催にあたって、開催執務委員を派遣しております。具体的には裁決委員だったり、発走委員であったり、そういった開催の専門職員を派遣して、主催者とともに開催業務にあたり公正確保に努めております。
また、公正確保上の問題が発生した場合には、速やかに各競馬場に横展開をして担当者間で情報共有しなければならない。さらに、その状況を正しく競馬場のトップに理解をしていただかなくてはいけない、ということで、公正確保対策推進会議というものを設けておりまして、ここには各主催者の責任者の方がいらっしゃいますので、再発防止策を含めて情報の提供あるいは情報の共有等を図っている状況です。
矢野 その推進会議というのは、今この事象が起きたから立ち上げられたものではなくて、既にある組織ですね。
生野 そうですね。一昨年に立ち上げています。
矢野 そこと、それぞれの主催者との役割分担、これはどういうふうになっているんでしょうか。
生野 例えば、今回の禁止薬物発生に伴う再発防止策として監視カメラの設置を強化したり、様々な防止策を講じているわけですが、発生した事象に対する再発防止策、公正確保策について主催者間で協議し、情報共有を図っています。
ただし、それだけではなかなか解決しない問題もありますので、主催者では厩舎関係者を巻き込んだ対策チームを立ち上げて、そこで対応策を考えて実行していくというような形です。具体策を実行するのはそれぞれの主催者ですけれども、私どもも一緒に考えて、お手伝いできるところはしっかりお手伝いしながらやっていくというような状況です。
矢野 一番大きな問題は、岩手で開催中止にまで至ってしまった禁止薬物の問題ですが、この検査というのはどういう手続のもとで行われているんでしょうか。
生野 出走頭数にもよりますが、地方競馬では1着、2着及び裁決委員が指定する馬を検査の対象にしております。レース後に検体(尿)を採取し、栃木県にある競走馬理化学研究所というところで検査を行っています。
矢野 そこで、いわゆるドーピングの検査をすると。
生野 そうです。
刑事告発に発展した岩手の禁止薬物問題
矢野 今回はそこで陽性反応が立て続けに出てしまったわけですね。特に岩手はそれが繰り返され、この年末年始は開催ができなくなりました。岩手競馬の存続に相当かかわる問題になってしまいましたが、連続した間にとられてきた対応には、どのようなことがありますか? 具体的にお話しいただける範囲で結構です。
▲「岩手競馬の存続に相当かかわる問題。連続した間にとられてきた対応は?」
生野 原因が明らかになっていない中で詳しい話はできかねますが、関係者に対する注意喚起は勿論のこと、岩手競馬が発表しているように、監視カメラの設置を強化して24時間監視ができるような体制を整備する。
厩舎関係者も一緒になって、厩舎地区の巡回を強化する。そのほか、外部から侵入ができないように、塀やフェンスを整備するなどを行っています。
矢野 自治的な防衛策というような感じですね。それでもまだ問題が解決していないわけですが、今後これが長引いたときの、岩手競馬の存続に対する影響というのはどんなふうにお考えですか。
生野 存続云々は触れる立場にありませんが、管理者であります知事も会見の中で、競馬を開催することが岩手競馬組合、特別地方公共団体としての責任であり、そこに向けてしっかり対応していくとおっしゃっております。私どもとしても早期に再開できるよう最大限の協力をしていきたいと思っております。
競馬組合も、競馬法違反で警察に告発をしましたけれども(※19年1月23日に容疑者不詳のまま県警に告発状を提出)、一日も早く問題が解決されることを願っているところです。
▲「開催することが岩手競馬組合、特別地方公共団体としての責任。私どもも最大限の協力を」
矢野 これは捜査にもかかわる問題で、NARや主催者がどういう対応策を講じているか、という話をしちゃうと、相手もまたそれに反応して動いてきてしまうので、いろいろなことを軽々に言うわけにいかないというのは理解できます。でもそうすると、実際に犯人が捕まって、もうこれ以上の事件は起きないであろうというふうにならない限りは、なかなか競馬再開にはつながらないのでしょうか。
生野 そこは、先ほどの知事の発言のとおり、競馬を開催することが競馬組合の責任であり、そこに向けてしっかり対応していくしかないのではないかと思います。
矢野 一日も早く全く何の一点の曇りもない状態で競馬ができるようになることを待つしかないですね。浦和の件に関しては、ちょっと岩手とは状況が違うように思いますが。
禁止薬物問題は以前からの課題
生野 状況は違いますが、原因が究明されていないという点では、浦和も岩手も変わりありません。浦和においては、岩手の対応策を参考にしながら、再発防止を図っている状況です。
矢野 今までが緩かったからというのではなくて、どうして今こういう時期にそういうものが重なってしまったのかなという思いも当然おありだと思いますが、その辺はいかがでしょう。
生野 禁止薬物の発生はこれまでもありましたが、ここのところの状況は異常事態です。より一層厳しい態度で対応していかなくてはいけない。最優先でやっていかなくてはいけないという覚悟で取り組んでいるところです。
(⇒後編につづく)
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