JRA…そして世界へ挑戦するハッピーグリンと会田裕一オーナー(オーナー様ご提供)
日本ダービー当日、香港・シャティン競馬場で新たなチャレンジが行われます。それは、地方馬ハッピーグリンによる自費での海外遠征。これまで地方馬の海外GI遠征はアジュディミツオーとコスモバルクの2頭で、いずれも招待競走でした。ところが、ハッピーグリンは輸送費などを自費で負担して5月26日のGI・チャンピオンズ&チャターカップ(芝2400m)に出走することを決めたのです。
3歳の昨年から主戦場をJRAの芝レースとしてきましたが、地方所属の立場では出走できるレースはとても限られた状態。しかし、実はそれこそがハッピーグリンの可能性を広げました。「地方馬だから仕方がない」と自ら限界を決めず、挑戦し続けるハッピーグリンについて会田裕一オーナーにお話を伺いました。
チラついたJRA移籍
19日早朝、ハッピーグリンは元気に香港に到着しました。
飛行時間は約5時間。これまでに何度も門別競馬場から関東圏へ遠征していたため、輸送には慣れているのでしょう。「帯同してくださっている方が『輸送が苦手な馬は到着した時点でゲソっとしていますが、ハッピーグリンは大丈夫です』と言ってくださっています」と会田オーナーは胸を撫で下ろしました。
海外遠征が視野に入れられたのは最近のことではありませんでした。
「以前から、チャンピオンズ&チャターカップに日本馬が遠征すればいいのに、と思っていたんです。昨年は5頭立て、一昨年は7頭立てと、ほぼ少頭数でずっと注目していたレース。オーナーである私が贔屓目で見ても、ハッピーグリンが国内GIを勝つのは壁が高いかなと感じるのですが、こうして海外に目を向けてみれば可能性は広がると思ったんです」
地方競馬所属の馬が出走できるJRAのレースはとても限られています。昨年、JRAの馬主資格を取得した会田オーナーは「正直、JRA移籍がチラついたこともありました」と葛藤を明かします。
「でも、田中淳司調教師と服部茂史騎手が腰に不安のあるハッピーグリンのちょっとした変化に気を配りながら門別競馬場の坂路で鍛えてくれました。JRAに移籍した場合の輸送負担軽減や番組選択が広がるメリットと比べて悩んでいた頃、NAR(地方競馬全国協会)から海外遠征(一部)に最大500万円の補助金が支給されると聞いて吹っ切れました」
左から田中調教師、会田オーナー、服部騎手。JCウェルカムパーティーにて(オーナー様ご提供)
さらに、香港遠征には会田オーナーの豊富な海外競馬観戦経験も後押ししました。
「私は趣味が競馬か子供と遊ぶくらいで、海外競馬も好きです。これまでに行った競馬場は世界30カ所以上。香港国際競走も過去10年で8回ほど現地観戦しています。だから、各国のレベルがある程度分かります」
こうして様々な要因が積み重なって決定した香港遠征。さらに、もう1つ大きな要因は「芝の中距離に使いたかった」ということでした。そう考えるようになった背景にあったのは「地方馬ゆえの限られたローテーション」。会田オーナーはこう振り返ります。
「昨年はずっとマイル路線に狙いを定めていたんですが、フルゲート割れで出走枠に入れたためジャパンカップ(2400m)に秋は向かいました。そしたら、アーモンドアイが驚異的なレコードタイムで優勝する中、7着。隠された才能が見つかりましたね。今年のレースを見ても、今なら2400mっていいのかなと思います。限られたレースしか出られないっていうのもそんなに悪いことじゃないんだなって感じました」
一世一代の大勝負
ところで、日本馬が海外遠征をすると「日本の代表」という雰囲気が高まり、自然と一致団結して応援することが多い気がします。そうした潜在意識もあってでしょうか、ファンから「クラウドファンディングがあれば、自分たちも関わっている気になれます」とハッピーグリンを応援したいという要望があったといいます。そこで、NARと香港ジョッキークラブの許可を得て、クラウドファンディングで遠征費用を募ることにしました。すでに200件以上の支援が集まり、25日まで受け付けるとのこと。地方馬の海外遠征の新しいモデルケースとなるかもしれません。
たくさんのファンが日本代表ハッピーグリンを応援している(写真はプリンシパルS出走時)
「田中調教師も私も一世一代の大勝負だと思っています。地方から世界に挑戦して結果を残すことができれば、地方競馬の関係者に『自分たちでもできるんだ』と勇気づけることもできるかなと思います。それに、ファンのみなさんの中には地方競馬の馬主資格なら取得できる方もいらっしゃるんじゃないでしょうか。所属を問わず活躍できることを証明できれば、地方競馬の馬主が増えて馬産地も活気づくかなと思います。みんなが“ハッピー”になれる挑戦、応援よろしくお願いします」
一世一代の大勝負。世界の大舞台へ挑みます。
笑顔を届けるために――ハッピーグリンが26日、香港で大勝負に挑みます。