▲約10カ月のオーストラリア遠征を終えたばかりのYJS初代王者・臼井健太郎騎手
若手騎手たちの祭典・ヤングジョッキーズシリーズ(YJS)が開幕!前回までは地方勢のシリーズ連覇に終わり、第3回を迎える今年は藤田菜七子騎手らJRA勢たちの逆襲なるか?未来のスタージョッキーたちが全国の競馬場でしのぎを削ります。そこで今回はYJS開幕を記念し、初代王者で長期海外遠征から帰国したばかりの臼井健太郎騎手(船橋)を取材。このタイミングで凱旋したのは、地元船橋から東日本トライアルが始まるYJSのため。約10ヶ月ぶりとなるホームから2度目の頂点を目指します。(取材・文=赤見千尋)
豪州行きを決断させたYJS優勝後の現実
― 昨年の8月からオーストラリアへ渡って武者修行していましたが、6月4日に帰国。このタイミングで帰国した理由は何ですか?
臼井 ヤングジョッキーズシリーズ(YJS)があるからです。去年は減量がなくなってしまったので出場できなかったのですが、今年から減量ルールがデビュー3年未満から5年未満に延びたことで、僕にも適用されることになって。それでまたYJSに出られることになりました。
本当は7月までオーストラリアに居る予定だったんですけど、東日本のトライアル(以下TR)の初戦が地元の船橋開催からということなので、「絶対出たい!」と思って帰って来ました。
― 一昨年、初開催だったYJSで総合優勝を果たしたわけですが、最初はどんな気持ちで挑んだのですか?
臼井 僕は2015年にデビューしたんですけど、それほど目立った成績を挙げられていなかったので、これを期にという気持ちが強かったです。あの時TRで乗せてもらったのが、川崎、船橋、浦和の3場で、これまで何度も行かせてもらっている競馬場だったし、この時は減量ルールが3年未満だったので地方の中では最年長でした。だから、南関東で初めて乗るジョッキーたちや、僕よりも若い子たちに負けていられないなって。かなり強い気持ちを持っていました。
▲第1回大会では藤田菜七子騎手と選手宣誓のシーンも(撮影:高橋正和)
― TRから東日本地区地方所属第1位でしたね。
臼井 本当にたまたまで、強い馬に乗せていただいたことが大きいです。初戦の川崎は気合が入りましたが、普段以上に冷静に乗ることが出来ました。1戦目はチャンスのある馬で3着になって、正直ここでファイナルいけるなって。
― 初戦で確信したんですか?
臼井 とにかく初戦で上位に入れれば、その後気持ちが楽に進められるなと。しかも川崎の2戦目は1番人気になるくらいすごくいい馬で、僕の騎乗ミスで2着になっちゃいましたけど、1戦目を終えた時点で川崎を上位で通過出来るなと思いました。
― 続く船橋では1着3着。地元でさらに高ポイントを獲得しました。
臼井 本当にいい馬に当たりました。YJSの中ではこの時勝ったレースが一番内容的にも良かったと思います。前が速くなるだろうと思っていて、イメージ通りに展開が進んで、馬も僕の合図でしっかり伸びてくれましたから。2戦目の馬も行ければチャンスあるなと思っていて、ちょっとつつかれちゃったけれど、よく粘ってくれました。
▲地元船橋でも勝利「YJSの中ではこのレースが一番内容的にも良かった」(撮影:武田明彦)
― そしてファイナルでは、大井初戦で見事勝利!
臼井 いやいや、全然見事じゃないです(苦笑)。乗せていただいた馬が本当に強くて。僕自身は引っ掛かって焦ってしまったし、普段のレースでトップジョッキーが相手だったら負けていたと思います。今見てもすごく恥ずかしい、失敗のレースなんです。でも4戦しかないので落ち込んでいられないし、気持ちを切り替えました。
― 初めての中山はいかがでしたか?
臼井 子供の頃に父に連れて行ってもらって、ジョッキーになりたいと思った憧れの場所で、家族や友達も応援に来てくれた中でレースに乗ることが出来て、本当に嬉しかったです。
― しかも総合優勝!
臼井 まさか優勝しているとは思わなくて、レース直後は「1位誰だよ」って思ってました(笑)。自分だと聞いた時はびっくりで。その後の表彰式も華やかだったし、たくさんのファンの方々に応援していただいて嬉しかったです。あと田中将大投手が来てたじゃないですか!僕ずっと野球をやっていたので、マー君に会えて感動しました。
▲憧れの中山競馬場でYJS初代王者に輝いた臼井健太郎騎手(撮影:下野雄規)
― YJS総合優勝を果たし、NARグランプリ2017では殊勲騎手賞を受賞。注目が集まったと思った直後にオーストラリアへ武者修行に行かれましたが、まさかあのタイミングで行くとは驚きでした。
臼井 僕としても急でした(笑)。もともと海外に興味があって、"いつか行ってみたいな"って思っていて。たまたまYJSで優勝して、いいチャンスだと思って周りの方に相談してみたらとんとん拍子に話が繋がって、急きょ行けることになったんです。所属の函館先生も「行ってこい!」と送り出してくれましたし、たくさんの方のお力で実現することができたので、本当に感謝しています。
― 地元を離れる怖さというのはなかったですか?
臼井 それはなかったです。優勝できたことはとても嬉しかったですけど、その後3ヵ月くらい勝てなくて。やっぱりあれはたまたまだったんだなって。優勝できるような技術が身についていなかったのに、強い馬に乗れたおかげで勝ってしまったと実感しました。このまま同じ状況で乗っているより、どこかに行って修行したいと思って、それで周りに相談して話が進んだんです。
▲YJS優勝後の不振で豪州行きを決断「強い馬に乗れたおかげと実感しました」
― TRから1位通過で総合優勝したのに、ご自身では「たまたまだ」と思うんですね。
臼井 馬が強かったことは、乗っている自分が一番わかりますから。でも優勝できたことはとてもいい経験だし、そのおかげでオーストラリアにも行けたので。今でもトロフィーを飾っていて、それを見て自分を律するというか。オーストラリアで辛かった時期にも、あの時の映像を見ると気持ちをフラットに戻せたし、すごくいい薬になっています。
― いよいよ6月18日(火)から2度目のYJSが始まりますね。
臼井 地元の船橋開催からなので、まずそこに集中して結果を出せるよう頑張りたいです。シリーズ戦というのは難しいですし、馬のめぐり合わせもありますけど、とにかく初戦が大きいですから。普段とはまったくレースの流れも違いますし、初めて一緒に乗るジョッキーも多いので。ただその辺りはオーストラリアで勉強してきたことなので、その成果が出せればいいなと思っています。オーストラリアは競馬場も多くて、毎日違うところで開催されるので、常に初めて一緒に乗るジョッキーたちとレースしてきましたから。
― 今年は船橋、門別、浦和でTRに出場予定です。
臼井 門別は初めて行くのですごく楽しみですね。あとオーストラリアでずっと芝のレースを経験してきたので、日本でも芝のレースに乗りたくて。盛岡のTRには選ばれなかったので、これはもうファイナルに行って、中山でまた乗りたいです!
― ずばり、ライバルは誰ですか?
臼井 それはみんなですけど、特に同期には負けたくないですね。大井の藤本現暉とは仲が良くて、今年ものすごく活躍しているのでいい刺激を受けています。だからこそ現暉には負けたくないです!
▲今大会のライバルは?「特に同期、(藤本)現暉には負けたくないです!」
― では、2度目のYJSへ向けて意気込みをお願いします。
臼井 今年で減量がなくなるので、YJSに出場できるのは最後になると思います。初代チャンピオンということで取り上げてもらったり、いつも以上に注目してもらえるいい舞台なので、レースに集中して頑張ります! 前回は馬が強くてたまたま優勝出来ましたが、今回はしっかり考えて、たまたまではなく優勝したいです。YJSは騎手として大きなチャンスなので、そこを活かして飛躍したいですね。オーストラリアで学んだことと、地方競馬の良さを合わせて、森泰斗騎手のようにたくさん騎乗依頼されるジョッキーになりたいです。
(了)
『2019 ヤングジョッキーズシリーズ』の東日本地区トライアルラウンドが船橋で開幕! 当日はぜひ船橋競馬場にお越しください。
お仕事などで現地に行けない方は、『地方競馬LIVE』などのネット視聴(無料)がおすすめ。またインターネット投票は『SPAT4』はもちろん、『I-PAT』でも購入が可能です。6月18日(火)は船橋第7&第9レースが見逃せない!