▲ステイゴールドとの2度の宝塚記念を熊沢騎手が語る (C)netkeiba.com
春のGIを締めくくるグランプリ、宝塚記念。過去10年でステイゴールド産駒が5勝と、圧倒的な活躍を見せています。ステイゴールドを誰よりも知る熊沢重文騎手が、ステイゴールドで挑んだ2度の宝塚記念を振り返りながら、熊沢騎手から見た産駒たちの印象を語ります。
(取材・文=不破由妃子)
サイレンススズカ、グラスワンダーやスペシャルウィークと対戦
──宝塚記念は、過去10年でステイゴールド産駒が5勝(2009年ドリームジャーニー、2010年ナカヤマフェスタ、2012年オルフェーヴル、2013年・2014年ゴールドシップ)。今年もエタリオウとスティッフェリオらがエントリーしています。ステイ自身も、熊沢さんの手綱で98年2着、99年3着。宝塚記念にはどんな思い出がありますか?
熊沢 98年はサイレンススズカという抜けた存在がいてね。もっと(ペースが)流れて追走に苦労するイメージで乗ってたんだけど、南井先生(当時騎手)が思った以上にしっかり折り合いをつけて乗ってらして。
──1000m通過は58秒6。たしかにサイレンススズカにしては落ち着いた流れでしたね。
熊沢 常識的には十分速いんだけどね。ずいぶん余裕を持って逃げているように見えたので、早めに動いていったんですけど。
──中団追走から3コーナー過ぎに外から上がっていきましたよね。4コーナーでは2番手まで押し上げて。
熊沢 そうでしたね。一瞬、捕まえられるかな、なんとかなるかな…と思ったんだけどね。あのときの感情は今でもよく覚えています。
▲1998年の宝塚記念、サイレンススズカに3/4馬身差及ばず2着 (C)netkeiba.com
──99年は、グラスワンダーとスペシャルウィークの2強対決に注目が集まった一戦でした。スタートから促して好位を取りにいき、4コーナーでは2強を追いかけるように上がっていって。
熊沢 あの2頭もホントに強かったよねぇ。それでも自分の競馬をするしかないと思っていたし、ステイの闘争心というかね、気の強さを上手く引き出せればいい勝負になるんじゃないかと思っていた。
あのときはペースが遅かったこともあるし、なにしろ前にあの2頭がいたんでね。4コーナーで勝負にいったんですけど、やっぱりちょっと次元が違いましたね。
──どちらの年も、スタートから出ムチを入れて、道中も終始熊沢さんの手が動いていて。そうかと思えば、直線もしっかり脚を使ってくるんですよね。
熊沢 その頃はまだ、気持ちが乗ってくるまでに時間がかかる馬だったんですよ。だから終始促しながらの競馬になって。僕がナメられていたのかもしれないけど(苦笑)、一瞬しかやる気を出してくれない馬でね。ま、あの馬はそういう馬だから(笑)。
──賢い証拠ですよね。
熊沢 そうだね。でも、それでいてあれだけ走ってくれたから。ナメられているなと思いながらも、僕なりに理解して競馬ができていたかなという思いはありますね。
──本当に名コンビでしたよね。常に熊沢さんが「頑張れ、頑張れ」という感じでステイゴールドのやる気を促しているように見えました。一方で、追い通しなので大変そうだなぁと。
熊沢 いやいや、僕は彼の“しもべ”でしたから(笑)。いつも「お願いですから走ってください!」と思いながら、必死に手を動かしていましたよ。とにかくあの馬は、一度ヘソを曲げたら気持ちが戻ってこなかったので。怒らせないように…というのが一番でしたね。
──そのためには、どんなことに気を遣っていたんですか?
熊沢 彼の気持ちを読みながら…という感じかな。完全に読み切れてはいなかったと思うけど、ある程度、ご機嫌を予測しながら乗っていた感じです。耳の動きのほか、背中からもそういう感情は伝わってくるから。そのあたりは、何度も乗っている者ならではの感覚ですね。
──ちなみに、ステイが怒るとどんな感じになったんですか?
熊沢 レースでは比較的素直だったけど、調教では本当に苦労しましたよ。立つし、跳ねるし、本気で怒ったら僕が落ちるまで暴れていたから(笑)。ホント、面白い馬でしたよね。
レースでも、僕らの想像以上の脚を使ったりだとか、想像以上にスタミナがあったりだとか。血統からくる底力もあるでしょうけど、やっぱり気の強さがその源だったのかなと思ったり。
──98年の宝塚記念もそうですが、2着に好走した98年、99年の天皇賞(秋)にしても、とにかくハイペースで持ち味を発揮するというイメージが強いです。スタミナがあってこそですよね。
熊沢 スタミナだけはね、常に自信を持って乗れた馬でしたね。間違いなく、タフさを要求されるレースのほうがあの馬の持ち味が生きた。ただ、そのぶんというか、僕が乗っていた頃はスパッと切れる脚はなかったけど。
──宝塚記念の舞台である阪神の2200mは、比較的淀みなく流れるというか、タフな競馬になりやすいですよね。そのあたりもステイに合っていたのかなと。
熊沢 うん、2200mという中距離の割には流れるコースかもしれませんね。まぁ流れひとつでどの位置からも競馬ができる馬だったけど、そういうコース形態も合っていたのかな。
ステイと比べると全部可愛く思える(笑)
──今年、ステイゴールド産駒では、エタリオウとスティッフェリオらが参戦予定です。どんなイメージを持っていらっしゃいますか?
熊沢 エタリオウは、ステイと似たタイプの競馬をする馬だよね。我が強いというか、ちょっとどこかで遊んでみたり、鞍上の意のままに動いてないなっていうのは見ていてもわかります。行きたいところでサッと動けなかったりするあたりも、ステイっぽいというか。
スティッフェリオは、器用な優等生というイメージが強いなぁ。本来ステイ産駒は、器用な馬が多いと思いますよ。レースに合わせて動けるというかね。ステイ自身がそうだったから。
▲産駒のエタリオウ(未勝利戦優勝時、(C)netkeiba.com)
▲産駒のスティッフェリオ(2019年小倉大賞典優勝時、(C)netkeiba.com)
──最終的に回避となりましたが、出走を視野に入れていたオジュウチョウサンもステイ産駒ですね。近くでその走りを見る機会も多いと思いますが、オジュウにはどんなイメージがありますか?
熊沢 障害だからなんだろうけど、レースではホントにどこからでも競馬ができるし、優等生のイメージはあるけどね。ただ、調教では気性の激しさを見せているみたいだから、そのあたりはステイの血なのかなと。石神も相当手を焼いているっていう話だからね。
──ちなみに、熊沢さんが騎乗されてきたなかで、印象的なステイ産駒というと?
熊沢 ん〜、何頭か乗せてもらっているけど、ステイのイメージを物差しにしてしまうと、とくに記憶に残る馬はいないなぁ。ステイに乗ったことがある人間としてはね、ステイと比べると全部可愛く思えるから(笑)。もちろんなかにはヤンチャな子もいるけど、お父さんと比べたらみんな本当に可愛いもんだよ。
──そうなんですね(笑)。熊沢さんにしか言えないセリフかもしれません。
熊沢 あんなに強烈な馬には後にも先にも乗ったことがないからね。ステイゴールドでの経験は、僕にとって本当に大きな財産ですよ。