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被害続出!詐欺師健在

  • 2005年11月15日(火) 23時50分
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 生産者を次々に罠にかけ、そのまま立ち去る詐欺師。A県在住のKという人物による架空取引事件はその後も被害者が現れ、全く止まる気配がない。
 
 去る10月末、今度は門別町内の生産者T牧場が被害に遭った。Kが電話をかけてきてオータムセールに上場したT牧場の主取り馬を「まとめて買いたい」と持ちかけ、今日に至っている。
 
 計3頭の被害である。厳密に言えば、まだ代金決済日が来ていないので「被害」と断定はできないのだが、これまでの他牧場との取引のありようから推測しても、まず100%代金は振り込まれず、架空取引に終わることだろう。全く判で押したように、セール終了後には、どこかの牧場に電話をかけてきて取引を持ちかけるという超ワンパターンの手口。しかも、ご丁寧に契約成立後、ほどなくA県から送られる様々な品物。先週のA牧場と同様に、T牧場もまた、山のような果物を受け取っていた。
 
 果物の発送元は、A県Y市のS商店、となっている。先週末、ラベルにあるS商店の電話番号に連絡をしてみた。依頼主はK本人なのか、そして肝心の代金を受け取っているかどうかを確認するためである。
 
 その結果判明したのは、S商店より北海道の2軒の牧場へ送付した果物代が送料込みで7万6千円余、それとは別にKの会社があるとされるA市内の雑居ビルに約13万円余、そして、Kの妻の実家(A県内)にも10万円余。計約30万円分もの売掛金となっている事実がある。
 
 しかも、いずれも10月中にK本人から依頼を受けS商店が発送したものだが、月末に至り、代金支払いを要求すると、悪びれる様子もなく平然としてKは「うちの会社は月末までの分を翌月20日に支払う決まりだ。従って支払いは11月20日になる」と言ってのけたという。
 
 いかんせん、果物は生モノである。すでに発送してしまった以上、取り返すのは無理で、S商店では祈るような思いで11月20日になるのを首を長くして待っている状況なのだ。
 
 なお、S商店にKが初めて現れたのは10月初旬のことだったという。最初はリンゴと梨を各々1箱ずつ“値切って”買うようなセコい客だったというが、隣県の競馬場まで続くバイパス沿いに店舗を構えるS商店に狙いを定めたKは、以後、度々「競馬の帰り」だと称して立ち寄るようになった。S商店のあるY市には、隣県の競馬場が場外売り場を進出させている。しかし店主は競馬のことを知らず、Kの法螺(ほら)話を丸ごと信用するようになってしまった。
 
 Kは年代ものの中古ベンツでこの店に立ち寄り、「馬を10頭、競馬で使っている」(実際は所有馬なし)、あるいは「先日の菊花賞で俺の馬が3着に入り、2500万ほど賞金が入ってくることになっている」(もちろん、そんな事実なし)などと、競馬音痴のS商店主人に言いたい放題の与太話を吹き込んでいたことが分っている。
 
 同じ嘘でも、もう少しリアリティのある嘘がつけないものか、と腹立たしいくらいだが、KはS商店から果物を限度一杯まで発送させ、30万円もの損害を負わせて(たぶん)逃げ切るつもりでいる。
 
 同じA県のO市にあるH屋は、名産のキリタンポを扱う業者である。9月以来、この店から北海道の各牧場や海産物店へKの依頼で計7万2千円分ものキリタンポが発送されている。これも未だに代金は支払われていない。そして、送り先の一軒になっている静内の海産物店A物産もまた、Kからの依頼で計30万円近い品物を騙し取られている。
 
 A物産によれば、Kが店を訪れたのは9月中旬から下旬にかけて。そして大量の注文に応じて、A県内の各地に海産物を発送してしまっている。短期間に集中攻撃をかけ、一気呵成に品物をせしめるのがKの手口である。A物産に送らせた海産物が、前述のY市にあるS商店(青果商)などにKが立ち寄る際のお土産とし使われていたことも判明している。
 
 全く無意味なまでに、A県と北海道の間を、それぞれの産品が大量に行き来していたことになる。なぜ、無意味なのかは言うまでもない。誰一人として、それを欲しいとKにリクエストした人間などいないからである。
 
 おそらく、まだまだ、Kにまつわる詐欺話は芋づる式に出てくるだろう。もはやKの暴走を止められるのは警察しかいない。前回も触れたように、地方競馬全国協会審査部が、Kの北海道における行状に注目し、本人に対しきつく警告を発したのが10月14日のことである。
 
 しかし、同日夜に、Kは生産者A氏の元へ電話をかけ、売れ残り馬の取引を持ちかけているのである。これを「挑戦」「挑発」と言わずして何と表現すべきか。やはりKにとっては、地方競馬の馬主資格を失うことなど、まるで痛手にはならないのだろう。仮に馬主資格を維持できたとしても、すでに競走馬を所有し厩舎に預託料を支払う経済力はとうの昔になくしてしまっているのだから。
 
 そして、牧場と同様に、日高やA県内の様々な業者が、Kによる詐欺行為の犠牲になっていることが徐々に明らかになってきた。まだまだ、この人物の周辺には泣かされている人々が群れをなしているに違いない(私が9月初めに受け取った米40kgも、たぶん詐取したものだろうということがこれで確信に変わった。もっとも、すでにおすそ分けしたり、また胃袋に収めてしまったりで、いまさら返品できないのが何とも悔やまれる)。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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