▲ジョッキー同士だからこそ見える、お互いの武器とは (C)netkeiba.com
以前のふたりの対談で「自分にはアピールポイントがない」と話していた松山騎手。それから6年が経ち、自分の中で見えてきたものもあると言います。今回は、佑介騎手も恐れる松山騎手のレースでの武器、松山騎手が尊敬する佑介騎手の武器について語り合います。
(取材・文=不破由妃子)
「人気馬はもちろん、人気がない馬でも燃えるんです」
佑介 前に対談したとき、「自分にはアピールポイントがない」って話していたけど、実績を積むなかで見えてきたものはある?
松山 そんなこと言ってましたねぇ。たしか「次の取材までには、自分だけの武器を見つけられるように頑張ります」と答えた記憶が(笑)。実際、自分のアピールポイントはこういうところかなと思える部分も出てきたんですけど…。
佑介 いいねぇ。教えてよ。
松山 ん〜、あんまり言いたくないです(苦笑)。
佑介 そうなんや(笑)。俺から見ると、弘平の競馬には隙がない。気を緩める瞬間がまったくといっていいほどないから、こっちからすると仕掛けづらいんだよね。それは大きな武器だと思うよ。
松山 ありがとうございます!
佑介 あとは、先行する意識が強くて、馬が苦しくなってからもうひと頑張りさせる。そうやって毎レース、少し足りないかなと思う馬も含めて一生懸命に乗ってくる。ジョッキーなら当たり前やと思う人もいるかもしれないけど、それを毎週20頭近く繰り返すには、相当な気力、体力、集中力が必要で。
松山 たとえ人気がない馬でも、「俺なら5着に持ってこられるんじゃないか」と思ったり(笑)。人気馬を勝たせたいのはもちろんなんですが、人気がない馬でも燃えるんです。とにかく負けず嫌いなんですよね。
▲松山騎手「人気がない馬でも燃える、とにかく負けず嫌いなんですよね」 (C)netkeiba.com
佑介 たしかに負けたときむちゃくちゃ悔しがってるもんな。上がってくるなり、叫んでることもある(笑)。
──そういえば松山さんは以前、気持ちの切り替えがあまり上手ではないとおっしゃっていましたよね。
松山 そうですね。そういうときは、すぐ佑介さんとかに「いやぁ、全然ダメです…」とか言っちゃいます。昔に比べたらだいぶマシになったとは思うんですけど、それでも人よりはグチグチ言ってるかもしれない(笑)。話しやすい先輩にはつい甘えてしまうというか、弱音を吐いてしまうんですよね。
佑介 でも、弘平の場合は愚痴とは違うからね。あくまで弘平自身の話だし、聞かされた俺も「また言ってんな」くらいなもんで。「全然ダメですぅ…」とか言いながら、すぐに勝つしね(笑)。
松山 実はそれも作戦です。油断させてるんです(笑)。
佑介 そうだったんや! 賞金争いをしている身としては聞き捨てならない(笑)。まぁなんだかんだ言いながらも、最近の弘平を見ていると自信がついてきたのかなと思うよ。特に関西圏での弘平は、すごく自信を持って乗っているように見える。
あとは場数というか、経験値的なものが増えてくると、大きいレースでももっとドシッと乗れるようになるんじゃないかって。大きいレースの経験値が足りないと、どうしても自分のなかで変に盛り上がっていっちゃうというか、不必要に高まっていっちゃうところがあるから。
松山 そうですよね。それは絶対にあります。関東に乗りに行ったときでさえ、乗り慣れたコースじゃないからか、どうしても頭で考えすぎてしまうところがありますから。
GIに限らず、いつもと競馬場が違うというだけでもそうですからね。いつも通りに乗ることがいかに難しいことか実感する一方で、ものすごく必要な要素だなと思ってます。
佑介 そのためには、やっぱり場数を踏むことが必要だよね。俺ももっともっと経験値がほしい。あとは弘平の場合、すでにベースは固まっているわけだから、もうひとつの側面というか、もっと狡猾な部分を見せていってもいいんじゃないかなと思って。
たとえば自分のアピールにつながるような競馬に徹するとか、GIでもこういう競馬ができるんだぞっていうような思い切った競馬をするとか。
▲佑介騎手「もっと狡猾な部分を見せていってもいいんじゃないかなと思って」 (C)netkeiba.com
松山 なるほど。たしかにそうやってアピールすることは大事かもしれませんね。
佑介 ひとつでも上の着順に…という乗り方とは、どうしても相反する競馬になってしまうけどね。何が正解かはわからないけど、俺はできるだけそういうふうに乗るようにしてる。それで結果が出たら最高だし、たとえダメでも何かしらアピールしたいから。
松山 佑介さんは本当にそうですよね。競馬を見ているだけで「勝ちにいくぞ!」という気持ちがすごく伝わってきます。
──たしかに4コーナーで「佑介さんキター!!!!」と思うレースが多いです。たとえそのあと止まってしまったとしても、すごくワクワクするというか。
佑介 大抵止まっちゃうんですけどね(苦笑)。
松山 去年の京都新聞杯のステイフーリッシュは、すごいなと思いましたね。僕、逃げていたんですけど(メイショウテッコン5着)、「もうきた!」と思いましたもん。
阪急杯のスマートオーディンのような後方からの競馬も、ビタッと決めてきますし。スマートオーディンには僕も乗せてもらったことがあるのでわかるんですけど、難しいんですよね、あの馬。勝つにはあの競馬しかなかったというのもわかりますけど、それをやってのけてしまうのがすごいなって。
▲スマートオーディンにとって2年9か月ぶりの勝利となった阪急杯 (C)netkeiba.com
佑介 阪急杯は、返し馬にいった時点で絶対に勝てるなと思った。
松山 ホントですか!? たしか11番人気とかでしたよね?
佑介 うん。たまにそういうことがあるんだよね。上手くいかないときももちろんあるけど、あのときはゲート裏で厩務員さんに「どう?」って聞かれて、「勝つ気しかしないです」って答えた。「お前、ホンマかよ!?」って言われたけどね(笑)。
調教もよかったし、1400mもよかったし、大外枠もよかった。あとから考えたら、あのレースからハミを替えたりもしているから、いろんな意味で条件が整っていたんだろうね。
(文中敬称略、次回へつづく)