▲競馬に対するスタンスの変化、その背後にあったのは…
前回、ダービーなど春競馬の振り返りとともに、競馬に対するスタンスの変化を語ってくださった戸崎騎手。後編となる今回は、不調を訴えた昨年を思い返し、その背後に外国人ジョッキーの存在や自身の“ある性格”が影響していたと赤裸々に告白してくれています。
とはいえ、一度狂った歯車も徐々に噛み合い、「秋のGIが楽しみ」と手応えを窺わせてくれた戸崎騎手。既に本格的なシーズンを迎えつつある夏競馬も含め、紆余曲折を乗り越えた現在、そして待望のGI勝利へ向け、ひしひしと伝わる熱い思いをお届けします。
(取材・文=不破由妃子)
外国人ジョッキーから受けた刺激が、逆に悪い方向へ…
──先ほど、今年に入ってからレースまでの準備の在り方を見直したとおっしゃっていましたが、なにかきっかけがあったのですか?
戸崎 その前に、ここ1、2年ですかね、変わっていった自分がいて。地方時代からずっとリーディングを獲っていて、中央に移籍してからも獲ることができたわけですけど、そんなときに外国人ジョッキーがたくさん乗りにきて、まぁすごく上手な乗り方を見せつけられたわけです。それで自分自身が少しずつ変わっていって。悪いほうに。
──悪いほうに、ですか!?
戸崎 そう、なんか影響されすぎてしまって。「ここはこうじゃなきゃいけない、こうしなければ上手くならない」みたいな感じで、自分で決めつけるようになってしまったんです。数は勝たせていただいてましたけど、それはもう馬が頑張ってくれていただけで、今思えばですけど、徐々に自分の感覚が狂っていったというか。
──影響されたというのは、騎乗フォームだったり道中の判断だったりポジショニングだったり…。
戸崎 もう全部です、全部。
──感覚が狂い始めていることに気付かせてくれたものはなんだったんですか?
戸崎 んー、流れですかね、やっぱり。その前までは、毎週いくつか勝てるという状況が続いていたんですけど、ひとつも勝てない週とかが普通に出てくるようになって。それで、去年の暮れあたりから「このままじゃダメだな」って気付き始めて。
▲勝てない週が目立った昨年「このままじゃダメだな」って…
──たしかに未勝利に終わった週が何度かありましたね。戸崎さんがひとつも勝てないとなると、逆に目立ちますから。
戸崎 その頃がピークだったと思います。本当にダメでしたから。たぶん去年が一番多かったかな。どこかに奢りがあったのか、自分ならできると思っていたのか…。でも、実際は全然思うようにいかなくて。
──戸崎さんほどのトップジョッキーでも、自分の感覚が狂うほどに影響を受けてしまうことってあるんですね。ちょっと意外でした。
戸崎 僕ね、けっこう流されやすいタイプなんで(笑)。
──本当ですか!? 逆のイメージがありました。
戸崎 いやいや、あんまり“自分”というものがないんですよ。だから流されやすくて。
──流されやすいというのは、ときに悪い面ばかりではないと思いますけどね。いい影響はどんどん受けたほうがいいわけですから。
戸崎 まぁそうですね。でも、やっぱり“自分”というものを何かひとつ持っていたいなという気持ちはありますけどね。でも…やっぱりないかな(笑)。
──これから見つけていきたい?
戸崎 いや、これからも見つからないかな(笑)。
▲「“自分”というものを何かひとつ持っていたいなと思うんですけどね…(笑)」
──あきらめちゃってますね(笑)。でも、感覚の狂いに気付き、準備の在り方なども見直したことで、自分の感覚を取り戻したと。
戸崎 そうですね。今振り返ると、いろいろ学べた期間だったし、長い目で見たらとてもいい時間を過ごせたのかなという気はしています。それが気持ちの成長にもつながって、GIにもドンと構えて臨めるようになりましたから。
──なるほど。さっそくその成果がこの春に表れたわけですね。
戸崎 これでひとつでも勝っていればねぇ、もっと堂々と言えるんでしょうけど(苦笑)。ただ、気持ちや技術が噛み合ってきたことは感じていますし、僕自身、秋のGIが楽しみになってきたのは確かです。
週に4、5回のラーメンから食生活を大改善!
──楽しみといえば、パートナーのダノンキングリーも引き続き目が離せません。デビュー戦からずっと騎乗されていますが、戸崎さんにとってどんな存在ですか?
戸崎 デビュー戦から乗せていただいて、しかもポテンシャルを感じさせる勝ちっぷりでね。この春でいえば、こういう馬でクラシックに臨めることはすごく幸せなことなんだなと感じさせてくれた馬です。巡り合わせですからね。
──改めてダノンキングリーの可能性についてうかがいたいのですが、やはり最初から光るものがあったのですか? たしかデビュー前の調教から騎乗されていましたよね?
戸崎 はい。でも、そのときは正直…。兄弟がね、みんな短距離のダート馬なんですよ。だから、背中はすごくよかったんですけど、やっぱりちょっと脚さばきが硬くて。なので、萩原先生とも「芝でデビューしますけど、のちのちはダートになりそうですね」という話をしていて。新馬を勝ったあとも、その感覚は変わらなかったんです。でも、2戦目のひいらぎ賞を使う段階になって、「馬がすごくよくなったぞ」と先生がおっしゃって。だから、僕もすごく楽しみにしていたんですけど、実際フットワークが初戦とは全然違ったんです。
──2カ月ちょっとのあいだに急激に成長したわけですね。
戸崎 成長もあると思うんですけど、やっぱり走る馬ってそういう何かを持っているんですよね。ホントにガラッと変わってきましたから。これはもう芝で上を目指せると思いました。
▲2戦目のひいらぎ賞では、大外枠から3馬身半差で快勝したダノンキングリー(撮影:下野雄規)
──実際、皐月賞3着、ダービー2着。期待通りの成長を見せてくれたわけですね。
戸崎 そうですね。ただ、皐月賞のあたりから、ハミの取り方が変わったというか、前向きな面が徐々に強くなってきたなっていうのがありまして。
──走る馬ならではの変化ともいえますね。
戸崎 そうなんですよ。いいことでもあるんですけど、2400mとなるダービーを皐月賞と同じスタイルで乗ったらちょっと厳しいなという思いはありました。だから、先生と相談しながら、距離が持つように調教や装具なども工夫して。ダービーまではそうやっていろいろやってきたという経緯がありました。
──そういった経緯を踏まえると、やはり秋の目標は天皇賞ということになりますか?
戸崎 毎日王冠からが濃厚だと聞いているので、そうだと思います。まだまだ強くなりそうなので、秋が本当に楽しみです。
──その前に、まずは夏競馬です。2年連続新潟リーディングを獲得されていますから、当然今年もファンの期待は大きいはずです。
戸崎 今年もただひたすら勝つことしか考えてないですね。年間の勝ち鞍を増やすという意味では、52キロに乗れるというのも大きいと思っています。ミルコは52キロも乗ってますけど、クリストフは乗らないでしょうからね。
▲2016、17年と2年連続で夏の新潟リーディングに!(写真は2017年時、撮影:下野雄規)
──それは大きなアドバンテージですよね。
戸崎 そう思ってます。もともと暑さにはあまり強いほうじゃなかったんですけど、食事をちょっと気を付けるようになってから夏場が楽になったことも僕のなかでは大きくて。
──どんな食事をされているんですか? 企業秘密でなければ教えてください。
戸崎 2年くらい前からグルテンフリーを心掛けるようになったんです。基本的に麺、パン、揚げ物はダメなんですけど、米、肉、魚はOKなので。
──食生活を見直すにあたって、なにかきっかけがあったんですか?
戸崎 2年少し前に、ちょっと体調を崩しまして。それで、トレーナーを介して栄養学の専門の人を紹介してもらったら、それは腸内の問題だと。腸内環境を整えるために、まずはグルテンを抜いてみようということでやり始めたんですけど。
──もともと健康に関しては意識高い系だったんですか?
戸崎 全然(笑)。体調を崩した時期は、ラーメンを週に4、5回食べたり、焼肉も毎週のように行ってました(笑)。
──それは……ジョッキーの食生活じゃないかも(苦笑)。
戸崎 そうそう、そりゃあ体調崩しますよねっていう感じで(笑)。今ももちろん暑さは感じますけど、昔のように「ああ、しんどいなぁ」っていうのはなくなりましたね。
──体質改善に成功し、気持ちと技術もガッチリと噛み合い、GIにもドンと構えて臨めるようになった。ある意味、これからの戸崎さんが怖いです。
戸崎 いやいや、全然怖くない(笑)。ただ、春にたくさん悔しい思いをしたぶん、早くGIを勝って大喜びしたいです。次の1勝は、めちゃくちゃ嬉しいはずですからね。この春を振り返ると、何度も僅差で負けたのに、周りの方からすごく温かい言葉を掛けていただいた。だからこそ、秋こそはGIを勝って、そういう方たちと一緒に喜べたら最高だなと思っています。
▲「応援してくれる方々と一緒に大舞台で喜べたら」
(了)