スプリント界の王者に向け、浮かび上がった懸念も
断然の1番人気に支持された4歳牡馬ライオンボス(父バトルプラン)が、5月の邁進特別、韋駄天Sにつづき直線1000mを3連勝。順当に初重賞制覇を飾った。

直線1000mを3連勝し、初重賞制覇を飾ったライオンボス(撮影:下野雄規)
2走前の邁進特別(1000万条件)は、16頭立て15番人気だった。新潟の直線1000m向きの快速タイプと思われていなかったためだが、エンパイアメーカー産駒の父バトルプラン(全4勝がダート8-9F)は典型的なアメリカタイプのダート巧者であると同時に、その母Flanders(フランダース)はダート5Fのデビュー戦を58秒17で独走した記録を持つ牝馬。シーキングザパール、マイネルラヴ、さらにはDubai Millennium(ドバイミレニアム)の父として知られるSeeking the Gold(シーキングザゴールド)【8-6-0-1】産駒。芝なら平坦コースで最大の良さを発揮するスピードを受け継いでいた。
レコードは2002年にカルストンライトオが樹立した53秒7。ライオンボスは54秒1→53秒9で連勝していたので、そろそろレコード更新もありえるのではないか、と期待されていたが、ほぼ逃げ切りで「11秒9→22秒1→32秒6→43秒3→55秒1」。
前半3ハロン32秒6が遅かったためか、考えられていたより大幅に時計を要し、この10年間ではもっとも遅いタイムだった。前日の閃光特別(1勝クラス)が54秒6。多少は降雨の影響は残ったかもしれないが、意外に平凡だった。
前日の鮫島克駿騎手の落馬負傷で、急に乗り替わった田辺裕信騎手は、短距離戦でスタートからグイグイ飛ばす騎手ではないこと。まして断然人気でもあり、ピンチヒッターで強引な騎乗はできない。前回は隣の枠で並ぶように先行(前半3ハロン31秒9)したカッパツハッチ(父キンシャサノキセキ)が内の3番枠で、最初から馬体が離れていたこと。
さらには行きたいラブカンプー(父ショウナンカンプ)は1番枠で、本調子にはなかった(結果は18着)ことなど、早めに外ラチ沿いを確保して逃げの態勢に入ったライオンボスにプレッシャーをかけてくる先行タイプが少なかったのが原因か。
ほかの距離とちがって、人間の100-200mでもそうだが、レベルの高い組み合わせの短距離戦の最大の相手は、ライバルより「タイム」。ライオンボスの勝ち時計が物足りなかったのは、前半に少しなだめた先行策を取っているうちに、トップスピードに乗る地点が微妙にずれてしまった印象がある。中身のバランスは「22秒1-(10秒5)-22秒5」=55秒1。
レコードをもつカルストンライトオは、「21秒8-(10秒2)-21秒7」=53秒7だった。
初の直線1000mだった5月の邁進特別(1000万下)も、韋駄天Sの中身も、今回よりずっと全体時計が速いのだから、能力に疑問が生じたわけでも、底を見せたわけではない。これからまだまだ強くなるだろう。
ただ、緩める部分と、エンジン全開の箇所を巧みに使い分けできないタイプの危険は生じた。そういう心配は残るだろう。1月の中京芝1200mは1分10秒0(34秒6-35秒4)。ジリ下がりの16頭立て16着だった。3連勝で重賞制覇のライオンボスに失礼かもしれないが、スプリント界のチャンピオンを目指し、このあとは中身で巻き返して欲しい。
もともと丸山元気騎手の乗り慣れた2着カッパツハッチ(コンビで3戦2勝)だったが、直線1000mでのコンビは初めて。それも歓迎できない3番枠。相手強化の重賞で内から外へ…のダッシュは、そう強気(強引)にはいかなかった。ライオンボスと4分の3馬身差は前回とそっくり同じだが、枠順を考えれば差を詰めていたともいえる。ライオンボスとリズムを合わせてしまったためか、55秒2(自身22秒1-33秒1)では強気なことはいえないが、カッパツハッチには距離1200mで3勝の強みはある。
外枠でも人気薄だった3着オールポッシブル(父ダイワメジャー)、4着トウショウピスト(父ヨハネスブルグ)が勝ち負けに加わってみせた。伏兵としての快走、健闘は見事なものだが、物足りないレースに終わった馬が多かったという理由が大きいように思える。
西田騎手で注目されたミキノドラマー(父ショウナンカンプ)は、スタートでちょっともたついてしまった。途中で馬群の密集した外に回るのを断念し、思い切って内寄りに進路を変えようとしたが、残念ながら他馬と接触してしまった。
ダイメイプリンセスは、2週連続で速いタイムで追って悪くない仕上がりだったが、同厩舎のラブカンプーとともに、ここは休み明け。決して予定通りとは思えず、狙いの直線1000mの重賞に向け、中間が順調ではなかったのだろう。残念なことに枠順も味方してくれなかった。