偉大な種牡馬の死から始まる“ポストディープインパクト”(村本浩平)
後継種牡馬たちが、良質の繁殖牝馬を生かせるかどうか
ディープインパクトが亡くなった。不世出の名馬であり、そして、日本生産界の血統レベルを世界基準まで高めた名種牡馬であることは、誰も疑いようが無いだろう。
亡くなったことだけでなく、2023年以降のPOG取材からは、ディープインパクトの産駒が全くいないことも信じられないでいる。それだけ近年のPOGにおいて、ディープインパクトは絶対的な存在だったとも言えるだろう。
ここで出てくるのが「ポストディープインパクト」問題である。先日のセレクトセールでも、その流れを見越したようにロードカナロア、ドゥラメンテといったキングカメハメハ産駒の後継種牡馬の産駒を落札したバイヤーから、
「活躍の暁には種牡馬としての期待もあります」
との声も聞かれていたが、その一方でディープインパクト産駒の後継種牡馬たちは、比較的落ち着いた評価額で取引されていた。
こうした状況もあってか、ディープインパクトの後継種牡馬に対する不安などが、様々な媒体で取り上げられているが、そう言い切ってしまうのはまだ早急だと思う。なぜなら、ディープインパクトの後継種牡馬たちには、これまでディープインパクトに配合されてきたような、トップクラスの繁殖牝馬を配合されていなかったからだ。
種牡馬としてのディープインパクトの凄さは、その産駒実績だけでなく、競走成績、繁殖実績などで優れた繁殖牝馬との配合で、次々と活躍馬を送り出したことにある。だからこそ、セレクトセールにおいてもバイヤーは納得をした上で、ディープインパクト産駒のセリへと参加。それがミリオンを遙かに超えるような高額落札馬の誕生へと繋がっていった。
サンデーサイレンスが亡くなった後にも、似たような状況はあった。当時のセレクトセールでは、それまでサンデーサイレンスに配合されてきたような繁殖牝馬が、後継種牡馬のダンスインザダークなどにこぞって流れたが、サンデーサイレンスほどの高いアベレージでの産駒は残せなかった。
その後のリーディングサイアーの成績にも証明されたように、「ポストサンデーサイレンス」争いは数年混沌としてきたが、そこで良質の繁殖牝馬を生かせる存在として現れたのがディープインパクトであり、結果的には父であるサンデーサイレンスに並び立つような種牡馬成績を残していくことになる。
現在、ノーザンファームに代表される社台グループの隆盛は、繁殖牝馬レベルの向上によってもたらされたところも大きい。その繁殖牝馬たちを生かせる種牡馬がディープインパクトだったのは疑いようのないところだったが、今後、ディープインパクトの後継種牡馬たちに、これまで以上に良質な繁殖牝馬たちが配合されていくことで、更に種牡馬成績が上がっていくどころか、その中からはGI馬も誕生し、いずれは「ディープインパクトの孫の代から種牡馬が誕生」となっている可能性もある。
勿論、こうした良質の繁殖牝馬は先述のロードカナロアやドゥラメンテ、そして輸入種牡馬ではハービンジャーやドレフォンなどにも配合されていくはず。
来年の春、社台スタリオンステーションが関係者向けに作る配合馬リストや、サラブレッド血統センターが発刊しているスタリオンレビュー(非売品)を見れば、どの繁殖牝馬に、どの種牡馬が配合されたのかを確認することができる。一般的に手に入れたい場合は、馬事通信から毎年春に発刊されている「種牡馬特集号」で、主立った種牡馬に前年配合された繁殖名が書かれているので、興味のある方は是非ともご一読願いたい。
いずれにせよ、「ポストディープインパクト」は、偉大な種牡馬の死を受けてから始まっていくことは間違いない。我々人間が、サラブレッドより寿命の長い動物である以上、こうした悲しい出来事を経験せざるを得ないのも、移り変わりの激しい競馬の流れが証明している。
だからこそ「ディープインパクト」という名前が血統内に燦然と残り、未来の競馬界の核となっていることを信じることが、競馬ファンにとって一つの弔いではないかとも思う。