▲現役時代を振り返りながら、テン乗りの戦い方を語る (C)netkeiba.com
ここ数年でジョッキーの起用法に変化が現れ、テン乗りや乗り替わりが当たり前の時代となりました。それと同時に、1頭の馬に一人のジョッキーが乗り続けることが貴重となり、そのコントラストは年々強くなっています。
その是非はともかく、やはりジョッキーたちのレースに対する向き合い方も変わってきているはずです。そこで今回は、テン乗りと連続騎乗のメリットとデメリットをどう捉え、どう戦っているのか、様々な立場・年代の現役ジョッキー4人を含む5人のホースマンに直撃取材を敢行。それぞれの感性とスタンスを通して、今を戦うジョッキーたちのリアルに迫ります。
最終回は、引き続きの登場となる佐藤哲三氏の後編。現役時代を振り返り、佐藤氏ならではのテン乗りの戦い方を明かしながら、「テン乗りは最大のチャンス」と断言。また、客観的視点から現在のジョッキーが置かれた立場を憂いつつ、そのなかでも「挑戦し続けること」の意味と大切さを語ってくれました。
(取材・文=不破由妃子)
“馬の癖を利用する”という考え方
──現役時代の哲三さんはまさに“職人”という感じで、レースについても馬作りについても、独自のスタンスを確立されていたように思います。今回のテーマのひとつであるテン乗りについては、どういったこだわりを持っていらっしゃいましたか?
哲三 みんな以前に乗ったジョッキーに癖を聞いたりするじゃないですか。でも、僕はあえて聞きませんでしたね。
──情報を収集しない派だったんですね。あえてというのが哲三さんらしいです。
哲三 僕は、癖こそがその馬の一番の武器になると思っていたので、その癖を大事にしたかった。要は修正ひとつですからね。
──他の人がマイナスととらえている癖でも自分がどう感じるかはわからない、ということですね。
哲三 そうですね。事前にマイナス材料ばかり情報として入れてしまうと、どうしてもまずはそこを削ろうとしてしまうじゃないですか。でも、僕の感性がどう捉えるかはわからないので、そこは知らないほうがいい。
みんながマイナス材料だと思っている癖をプラスにしようとまでは思わなかったけど、少しでもマイナス幅を小さくして、その馬の実力、スキルを上げていくのが僕の仕事だと思っていました。佐々木晶三厩舎や安達厩舎は別として、そもそも評判馬を最初から頼まれるケースはあまりありませんでしたからね。
逆に多かったのが、「前は力があったのに、なんか最近おかしいんだよね。何とかできない?」っていう依頼(笑)。そういう馬は大抵癖やマイナス材料があるわけで、それを利用するという僕の考え方は、テン乗りでこそ生きたのかもしれませんね。実際、テン乗りのほうが面白かったような気がします。