ゴールの瞬間――競馬の最高潮の一瞬を切り取るレース写真。勝負の迫力を表現することこそ、プロのカメラマンの腕の見せ所です。しかし、人気馬が勝つとも限らないのが競馬の難しさ。ファインダーからは見えないノーマークの馬が差し切った……などなど、プロ泣かせのレース展開も多々あります。
そこで今回、4名のカメラマンが週替わりで登場。普段は目にすることのない、痛恨の失敗作をご紹介いただきます。成功写真の陰にある、涙ぐましい努力の欠片たち。競馬の最前線の熱量を、ぜひ感じてください!
【ルール】
ご紹介いただく写真は、下記のテーマに沿った3本
(1) GIレースで失敗してしまった1枚
(2) 秋競馬のレースで失敗してしまった1枚
(3) 逆に、自分だけが撮れた会心の成功作を1枚
【今週登場するのは…】
netkeiba.comで地方競馬、中央競馬を幅広くフォローしている武田明彦カメラマン
(1.GIの失敗作) ディープブリランテが勝った2012年の日本ダービー
【失敗作】あえて正面からの撮影を試みたが…勝ち馬はフレーム外
GIレース開催日はプレスが非常に多く、自分も普段の撮影位置とは違ってゴール板から離れた後ろの方で撮ることになります。
その際、自分の仕事内容によってはゴール前ではなく、イイ写真を求めて4コーナーや正面に入ることがあり、この時は(馬の)正面に陣取りました。
正面に入るとターフビジョンも見づらくなり、また焦点距離を伸ばすため視野は狭く、圧縮効果で距離感も掴めなくなります。
そんな中で内と外の接戦になり、外のフェノーメノを撮影すると…2着でした。
ダービー馬のレース写真がないという痛恨の一枚ですが、この時は勝ち馬ディープブリランテが芝コースのウイニングランをしなかったこともあり、とにかくダービー馬の写真がないという記憶に残るダービーになりました。
(2.秋競馬での失敗作) 2019年9月16日中山2R、2歳未勝利戦
【失敗作】終始カラ馬が勝ち馬に被ってしまい…
これは9月の中山開催でのもので撮れたてホヤホヤです(笑)。
ご覧の通り、写っているのはジョッキーが騎乗していないカラ馬(ファートゥア)。奥に見える青の勝負服(ゴドルフィン)が1着で、本来はこの馬を撮影しなければボクたちは仕事になりません。
レース中のアクシデントで落馬してしまい、カラ馬のまま走ってくる馬はそう珍しくはありませんが、この時はまさかのタイミングでゴール前を通過。
終始勝ち馬に被ってこのような写真しか撮ることができませんでした。
早い時間帯の2レース、それも雨まで降っていたとあって、撮影をしているプレス自体が少なかったこともあり、自分が確認した限り勝ち馬の撮影ができたカメラマンは一人もいませんでした。
自分の経験では平地戦でカラ馬が邪魔になり勝ち馬の撮影が出来なかったのは2008年のエリザベス女王杯以来(勝ち馬リトルアマポーラ)なので、確率的には十年に一度あるかどうかのケースではありますが、とにかく大失敗と言える撮影でした。
(3.会心の成功作) ミリッサが勝った2018年の初音S
【会心作】キャロットクラブオフィシャルカメラマンの意地!
自分はキャロットクラブのオフィシャルカメラマンをさせていただいているので、クラブ馬が出走した場合は人気に関わらず注視しながらレースに臨みます。
この時のミリッサは中団のインに控えていましたが、直線は馬群に囲まれ出すところがなく、前が開いたのはラスト200mから。
そこから内へ突っ込みインを抜け出してわずかに先頭ゴール。
もともと内を差してくる馬は対応しづらいですが、この時は詰まっていた時点で見切った人も多いでしょうし、その後もインヘ潜り他馬の陰になるので単純に見づらく、レース後は多くのプレスが撮影できなかったと話していました。
とはいえ自分もミリッサがキャロットクラブの馬でなければ撮影は出来なかったような気はしています(笑)。