▲今週はみやこSで重賞初制覇したヴェンジェンスのお話です(c)netkeiba.com
好メンバーが揃った今年のみやこSを勝ったのはヴェンジェンスでした。管理する大根田裕之厩舎にとっては厩舎生え抜き馬での嬉しい重賞初制覇。また幸英明騎手は昨秋の右肘開放粉砕骨折から復帰後、初の重賞制覇と、携わる人々それぞれに思い出深い勝利となりました。さらに、「最近はちょっとできるようになりました」という“あること”とは。
大怪我からの復帰後、重賞初制覇
離れていても馬の激しい息遣いが聞こえてきそうなレース直後の検量室前。たった今、みやこSを勝ったばかりのヴェンジェンスを出迎えた大根田調教師は、周囲から祝福の声をかけられるとホクホク笑顔で答えました。
「2歳の時は骨が弱くて、骨折で1年7カ月の休養もありましたが、オーナーが『いい馬だから』と待ってくださいました」
厩舎として重賞6勝目。
「カジノドライヴ産駒の重賞初制覇でもあるんですよ」
そう付け加えるとふたたび笑顔になった大根田調教師。
これまで1200m〜1400mを主戦場としてきましたが、前走の太秦Sからは1800mに距離を延ばし2着。6歳にして新境地を開拓しました。
「太秦Sでは幸騎手も『距離は長くない』と話していましたし、若い頃なら力んでいたでしょうが、最近はガツンといかないので距離さえもてば1800mの方が形をつくれるんじゃないかなと思います」
一方、幸英明騎手にとってもみやこSは嬉しい1勝で、「ヴェンジェンスが重賞を初めて勝てたことが何より嬉しいです」と、全25戦中19戦でコンビを組んできた主戦は、パートナーの初タイトルを喜びました。
▲主戦の幸騎手にとっても嬉しい重賞制覇となりました(c)netkeiba.com
「そして僕自身は昨年11月11日に怪我をして以来、重賞を勝てていなかったので嬉しいです。さらに上を目指して頑張れる馬。一緒に頑張りたいです」
そんな幸騎手とレース後、ガッチリ握手を交わした大内悠紀調教助手も「幸さんが喜んでくれていて、それも嬉しかったですね」と喜びます。
シャワー特訓
遡ること8カ月前、阪神競馬場でポラリスSを勝った時に幸騎手はこんな話をしていました。
「担当の大内助手が毎日顔にシャワーをかけて慣らそうとしてくれているようです」
これ、何のことかというと、ヴェンジェンスはレースで砂を被るのがあまり好きではなく、その課題克服の一環についてでした。
私たち人間も顔に雨や泥がかかると嫌なように、多くの馬もはじめのうちはダート戦で顔に砂がかかるのを嫌がります。「嫌なものは嫌」と年齢を重ねても嫌がる性格の馬もいますが、慣れてきて砂を被っても嫌がらなくなれば馬群でも競馬ができレース内容に幅が広がるため、調教で他馬の後ろでウッドチップを被らせる特訓をしたり、こういった“シャワー特訓”をすることがあります。
「最初はあまりにも嫌がっていたので止めようかなと思った時もあったのですが、今ではちょっとできるようになりました。それで砂が大丈夫になるというわけではないでしょうが、水が無理なら砂もダメでしょうし、何かできることをやってみようかなと」と大内助手。
小さな積み重ねを続けてきました。
ちなみに大内助手にとってトレセンに入って1年8カ月目でようやく手にした初勝利がヴェンジェンスで、もちろん重賞も今回が初制覇。
「思い入れは強いですね。幸さんは『ヴェンちゃん』と呼んだりしていますが、僕はそのまま『ヴェンジェンス』と呼んでいます。基本的には可愛いんですが、ヴェンジェンスが嫌がるのであまり可愛がれないんです(苦笑)。
父の実家が福島で、相馬野馬追に出場する馬などを飼っていました。父も昔は出ていたようです。ヴェンジェンスのオーナーは福島の方のようで、まだ僕がトレセンに入る前の牧場時代、オーナーの所有馬のファインチョイスやオールアズワン、アットウィル、ウィキマジックなどに乗せていただくことが多くて、一方的に縁を感じています」
三者三様ではあるものの、ヴェンジェンスに携わる人たちにとってみやこSは思い入れの深い勝利。次走はチャンピオンズカップ(GI・中京ダート1800m)が予定されています。
「左回りは2歳で中京を走った時、右に行きたがったので避けていましたが、1400m戦ほどはコーナーをトップスピードで回らないので、大丈夫じゃないかと思います。この秋は2、1着ときて状態は悪くないと思いますし、これまで使い込んでいないのがいいと思います」(大根田調教師)
それぞれが大切に育ててきた1頭。来週、GIに挑みます。
▲来週、いよいよGIへ挑みます!