ディープ、キンカメという両巨頭を失った生産界での輸入種牡馬たちの存在(村本浩平)
今後も世界レベルの競走馬が次々と送り出されていくだろう
生産界が新種牡馬の導入ラッシュに沸いている。
その中でも目立っているのが、輸入種牡馬たちの存在だ。社台スタリオンステーションには、デビューから連勝を重ねながらフロリダダービーを優勝し、ケンタッキーダービーでも1位入線(着順は17着)となった、Maximum Securityの父であるニューイヤーズデイ。そして、今年に入ってから6戦6勝、うちGI5勝の成績を残し、本年度の北米年度代表馬にも有力視されている、ブリックスアンドモルタルがスタッドイン。
アロースタッドには2014年、2016年と2度に渡って北米年度代表馬に選出され、通算成績でも27戦16勝(うちGI7勝)の実績を残して、当時の米国年度賞金王にも輝いたカリフォルニアクロームの繋養が決定。JBBA静内種馬場には2011年のケンタッキーダービーの勝ち馬で、オーストラリアでは既にGI馬も送り出しているアニマルキングダムが、12月14日に到着を予定している。
また、ダーレー・ジャパン・スタリオン・コンプレックスでは、芝とダートのGIレースで4勝をあげているサンダースノー。そして、18年のドバイシーマクラシックでは、レイデオロ、モズカッチャン、サトノクラウンといった日本馬を退けて優勝を果たしたホークビルが揃って繋養される。
競走成績、あるいは種牡馬成績が優れている輸入種牡馬は、毎年のように生産地に導入され続けてきたが、それでも同じ年に、これだけネームバリューのある輸入種牡馬が繋養されるのは初めてではないだろうか。しかも、これまでの日本競馬界で主役を務めてきた、ディープインパクト、キングカメハメハという両巨頭を失った生産界にとって、この6頭は無くてはならない存在ともなっていきそうだ。
輸入種牡馬は現在の日本生産界の状況と照らし合わせた場合に、アウトクロスが作りやすい、もしくはクロスが出来た場合でも、あまり血が濃くならないというメリットがある。現在の生産界だが、多くの種牡馬を送り出してきただけでなく、母父としても優れた成績を残してきたサンデーサイレンスのクロスが、多少後ろにずれ込んできている。
それはサンデーサイレンスとの相性が良く、今では後継種牡馬を次々と送り出しているキングカメハメハの存在に他ならない。実際にキングカメハメハを失った生産界であるが、ロードカナロアやルーラーシップ、ホッコータルマエのように、血統内にサンデーサイレンスを持たない種牡馬が、今シーズンも多くの繁殖牝馬を集めていた。しかし、それは今後、キングカメハメハのクロスを考慮する必要が出てきているとも言えるのだ。
そのためにも輸入種牡馬の導入は必要不可欠となっていたのだが、近年の日本競馬界は、あまりにもサンデーサイレンス系種牡馬や、キングカメハメハ系種牡馬が大成功をおさめたばかりに、輸入種牡馬の成績が振るわなかったのも事実である。昨年のリーディングサイアーランキングでは、ハービンジャーが5位にランキングしているが、欧州から導入された種牡馬でトップ5入りを果たしたのは、トニービン以来となったことにもそれが証明されている。
勿論、輸入種牡馬が成功するには、その特性を見抜いた配合や、育成を含めた管理、そして使い出しや適条件といったビジョンが必要不可欠となっていくのだが、数年前の生産界とは違い、現在の生産界はその時よりも繁殖レベルが格段に上がっている。
それは競走成績、繁殖成績と優秀な繁殖牝馬を次々と導入してきただけでなく、その繁殖牝馬にサンデーサイレンス、キングカメハメハを配合してきたことで、日本競馬向きと言える「和合性」や、こうした産駒を扱う「ノウハウ」が蓄積されてきたことも関係しているのだろう。
そして、日本のホースマンのレベルも数年前よりは格段に上がっている。そう考えると、これら輸入種牡馬と、サンデーサイレンスやキングカメハメハを持った繁殖牝馬との配合馬を日本のホースマンが手がけることで、今後も世界レベルの競走馬が次々と送り出されていくことは想像にしがたくない。
それは、数年後のクラシック戦線の結果としても証明されていくのだろうが、POGの指名馬においても、率先して輸入種牡馬の産駒を選んでいく、という未来が待っているのかもしれない。