次走ではさらなる前進と調子上昇が望める
モズアスコット(父Frankel)の、連闘で出走した安田記念を1分31秒3で差し切った底力と、調教駆けするパワフルな動きを評価しつつも、初のダート戦でいきなり重賞を勝ち切れるかには懐疑的な見方もあった。
しかし、スタートで出負けしながらグングン進出し、4コーナーではもう中位の外。そこから上がり3ハロン「34秒7-推定11秒7」でストライドを伸ばし、抜け出していた前年の勝ち馬コパノキッキング(父Spring At Last)を並ぶまもなく差し切ったモズアスコットは、芝よりもっとパワフルなレース内容だった。
ダート初挑戦でJRAの重賞を制覇した馬はそう多くはない。だが、古くは1990年のウインターS(当時)を勝ったナリタハヤブサ、2005年のガーネットSを制したメイショウボーラーは、たちまちGIフェブラリーSを制覇した。ともにレコードだった。2001年の武蔵野Sを圧勝したクロフネも、ジャパンCダート(当時)を大レコードで独走している。今回5着したワイドファラオ(父ヘニーヒューズ)もユニコーンSを制したときは初ダートだった。ダートGIで通用するくらいの圧倒的なダート適性を秘めている馬なら、少しも難しいことではない。ダート戦ではさらに前進できる。

ダート初挑戦でJRAの重賞を制覇したモズアスコット(撮影:下野雄規)
モズアスコット陣営はフェブラリーS出走を明らかにしている。初ダートの重賞を快勝したのだから、ダートでもGI級の可能性がきわめて高い。距離も1600mの方がいい、矢作調教師は今回の出負けを気にしていたが、あれは慣れないダートスタートのためだろう。フェブラリーSの東京ダート1600mは芝からのスタートになる。
この根岸Sを目標に仕上げていたわけではなく、展望を確かなものにする一戦だったのは間違いなく、次のGIではさらに調子上昇が望める。
種牡馬Frankel(フランケル)の産駒は、生産がほとんどヨーロッパタイプの良血牝馬との組み合わせなので、最初から芝のビッグレースを目標にしている。フランケル自身にダート適性があるかどうかも、さらにその産駒にダート適性を問われたケースも少ない。
現役のJRA所属馬は17頭。そのうちダート戦に出走したのは5歳牝馬クーファウェヌス、6歳牝馬クーファディーヴァ姉妹と、5歳牡馬フラテッリ、そして6歳牡馬モズアスコットの4頭だけだが、みんなダート戦で勝ち星を挙げている。
ダートでも文句なしにトップクラスを示したのはモズアスコットだけなので、Frankel産駒に高いダート適性があるとはいえないが、この4頭、そろって母の父は「Giant's Causeway(ジャイアンツコーズウェイ)と、ヘネシー」だった。ともにStorm Cat(ストームキャット)直仔であり、ジャイアンツコーズウェイは欧州の芝で大活躍した馬にしても、血統背景には非常に高いダート適性が内蔵されていたといえる。
種牡馬ジャイアンツコーズウェイ(1997年生まれ)は、もう直仔の時代ではなく、すでに後継種牡馬や母の父の時代だが、昨2019のエクリプス賞年度代表馬に輝いた直仔の6歳Bricks and Mortar(ブリックスアンドモルタル)は今春から日本で種牡馬入りする。父と同様に芝馬で、こちらは北米の芝中心に【13-0-2-0】だった。
残念ながら連覇達成はならなかったコパノキッキングは、好スタートからドリームキラリ(父Giant's Causeway)をうながすように行かせて2番手追走。昨年より自身の位置取りが前になってしまったが、昨年とほぼ同じ「前半35秒0-47秒3」の流れに乗って、自身は昨年より0秒6速い1分22秒9。力は出し切った感があった。
ベテラン8歳のスマートアヴァロンが上がり最速タイの34秒6で伸びて3着。さすが無類のタフな種牡馬だったサウスヴィグラス産駒らしいところをみせた。
2番人気のミッキーワイルド(父ロードカナロア)は、冬場にひと息入った日程が響いたか、パドックから元気がなかった。好位につけたものの「スイッチが入らなかった(Mデムーロ騎手)」。ダートで初めて凡走したのは能力ではなく、あくまで体調だろう。
武蔵野Sを1分34秒6(史上3位)の好時計で差し切ったワンダーリーデル(父スタチューオブリバティ)は、スマートアヴァロンが進出したときに一緒にスパートできなかった。7歳馬だが馬体はすばらしく、まだまだ見限れない。