37年間の歴史を塗り替えた牝馬の底力
快勝したのは5歳牝馬プリモシーン(父ディープインパクト)、2着に突っ込んだのも4歳牝馬シャドウディーヴァ(父ハーツクライ)だった。
伏兵評価だった牝馬の快走を前に、人気の牡馬陣の案外な内容にがっかりしたのは確かだが、牡馬なら58キロに相当する別定56キロを背負い、鋭く抜け出した勝ち馬プリモシーンの底力と、古馬になって格上がりの形になった別定の重賞を上がり33秒3で突っ込んで2着に入ったシャドウディーヴァの上昇ぶりをストレートに評価したい。

別定56キロを背負い、鋭く抜け出した勝ち馬プリモシーン(撮影:下野雄規)
東京新聞杯は距離の変遷があり、また、ハンデ戦の時代もあって、現在の距離1600mの別定重量戦に変わったのは1984年からのこと。マイル戦なので牝馬の勝ち馬は珍しくはないが、「牝馬=牝馬」の1、2着独占は37年間で初めてだった。
レースの流れは、かかり気味になったモルフェオルフェ(父オルフェーヴル)が飛ばしたため速い流れに映ったが、2番手の12番人気だったクルーガー(父キングカメハメハ)は「58秒9-34秒3」=1分33秒2のバランスで、0秒2差5着に粘っている。3番手以下の馬にとってはマイル重賞とするとかなり楽なペースだった。
テン乗りだったプリモシーンを好位6番手のインで流れに乗せ、直線は押し込められないようにラチ沿いから少し外に回って切れ味を全開させたM.デムーロ騎手の好騎乗が光った。置かれることも珍しくない差しタイプを、東京のマイル戦では必ずしも有利ではない最内枠1番からもまれないようにリードしたのはさすがだった。多頭数の激戦になるマイルの東京新聞杯を馬番1番の馬が勝ったのは37回の歴史のなか、初めてだった。
2着シャドウディーヴァは、今回が初の1600m。半姉の6歳牝馬ハウメアはマイル戦以下に良績の集中するスピード系であり、また、母ダイヤモンドディーバ(父Dansili)の勝ち鞍6勝も8ハロン以下なので、高い適性を秘めていたのは確かでも、今回はやはり後方に置かれた。
だが、プリモシーンが少し外に回ったため馬場の内側がガラッと空いたところに突っ込めた。先週と同様、直線はラチ沿いを避ける馬が多いのを見越していたような巧みなコース取りだった。「59秒8-33秒3」=1分33秒1の内容から、まだ高速のマイルも大丈夫とはいえないが、これで東京芝【1-4-1-1】。上昇中の4歳馬。東京コースの1600-2000mなら大仕事ができるかもしれない。
4歳クリノガウディー(父スクリーンヒーロー)が3着。スタートしていくらもたたないうちにインに潜り込み、コースロスを避けて末脚温存を図った。そのまま内ラチ沿いに突っ込んだのではなく、坂上で少し外に出ようとする瞬間もあった。外に他馬がいて、再び最内に進路を変えたあたり、芝コースの内ラチ沿いはやはりコンディション一歩なのだろう。
56キロの牝馬プリモシーン、同じ4歳牝馬シャドウディーヴァに鋭さ負けしてしまったあたり、マイル戦に狙いを定めている同馬としてはちょっと物足りないが、まだ4歳の春、もうひと回りのスケールアップに期待したい。
うまく流れに乗り、坂上では勝ち負け必至と映った6歳牡馬サトノアーサー(父ディープインパクト)と、4歳牡馬レイエンダ(父キングカメハメハ)は、そう差はなかったとはいえ、4着(0秒2差)と、8着(0秒5差)。好走の形になっていただけに案外だった。サトノアーサーは心もち余裕残りの馬体だったか。
レイエンダは失速するようなペースではないはずだが、昨年の東京新聞杯も8着(0秒6差)。この時期が合わないのだろうか。たまたまだろうが、上のレイデオロも、下のアブソルティスモも、この季節に良績がない。
案外すぎたのは、1番人気で9着に沈んだ5歳牡馬レッドヴェイロン(父キングカメハメハ)。パドックでは落ち着き払っていた。本馬場に入ってちょっと元気がないように映ったが、道中はシャドウディーヴァと同じ位置。でも、こちらはエンジンがかからなかった。
2番人気のヴァンドギャルド(父ディープインパクト)は、全体に落ち着いたペースになってくれたのでムリなく中団に押し上げ、出負けのロスは少なかった。最後まで脚を使って伸びて上がり33秒6は自己最速タイム。切れ味勝負型ではない印象を残した。