▲デビュー9年目でGI初騎乗のチャンスをつかんだ長岡禎仁騎手 (撮影:大恵陽子)
フェブラリーSに出走するケイティブレイブ。GI/JpnI 3勝を挙げ、昨秋にはドバイでの開腹手術を乗り越えて浦和記念(JpnII)を制覇した感動は記憶に新しいところ。そんな実績馬に長岡禎仁騎手(26歳)が騎乗することとなりました。
GI初騎乗となる長岡騎手は、約2年前からケイティブレイブの調教パートナーを務めています。インタビュー中、何度も「感謝」と「恩返しがしたい」と口にした彼。その根底には腎臓破裂により一度は考えた引退や、決意の栗東移籍がありました。
(取材・構成=大恵陽子)
順調でなかったからこそ、抱く感謝の思い
――先週末、ケイティブレイブの鞍上が長岡騎手と発表されました。初めて聞いた時はどんなお気持ちでしたか?
長岡禎仁騎手(以下、長岡騎手) ビックリしました。まさかこんなお話をいただけるとは思わなかったので、声をかけていただけたこと自体が嬉しかったです。
――ケイティブレイブがいる杉山晴紀厩舎の調教には普段から乗っていますよね。
長岡騎手 美浦所属でデビューしたのですが、2年前から栗東に来て、昨年5月に正式に栗東へ移籍して、その時から朝一番は杉山厩舎の調教に乗っています。ケイティブレイブも約2年前から追い切りに乗せていただいていました。
――どんな印象を持ちましたか?
長岡騎手 すごくいい馬でした。乗りやすくて、背中とかが「ダートのオープン馬」って感じでドッシリしています。
――GI馬でのGI初騎乗はワクワクしますね。
長岡騎手 本当にありがたいです。
▲ドバイでの手術を乗り越えて勝利した浦和記念、鞍上は御神本訓史騎手 (撮影:高橋正和)
――長岡騎手は和歌山県のご出身。JRA関係者で和歌山の方って珍しい気がしますが、どんなきっかけでジョッキーを目指したんですか?
長岡騎手 僕は元々、体を動かすのが好きなのと、馬が好きで憧れがありました。それで親が京都競馬場に連れて行ってくれました。中学生の時、フサイチパンドラが勝ったエリザベス女王杯当日です。
それを見て、「これになりたい!」と。自分の好きな馬が走っているし、体を動かす仕事やし、スポーツ目線で見ると、「こんなに観客がいてこんなに騒いで、すごいな!」って。
――いざデビューして歓声を受けると気持ち良かったのではないですか?
長岡騎手 そうですね。デビューの時にゲート裏で声援も聞こえて、「やっとレースに出られるんや」って思いました。
「netkeibaに出たいです!」まさかの逆オファー
――美浦所属でデビューしましたが、栗東に移籍した経緯というのは?
長岡騎手 2017年4月に落馬して、腎臓破裂で9月まで半年近く休まないといけないことがありました。それまでは減量がなくても週に13鞍とか乗せていただいていたんですが、騎乗馬が一気に減ってしまって。
1カ月くらいの休養なら、まだ自分の騎乗馬が確保されていて回ってきたりはしますけど、長期休養だとその間に自分が乗っていた馬は別の騎手で何回も走っていて戻ってこず、ゼロからのスタートでした。
正直、ジョッキーを辞めようかなと思うくらい落ち込みました。でも、このまま終わったら絶対に悔いが残ると思って、以前から「関西に行ってみたいな」と思っていたので、所属の小島茂之厩舎から独り立ちしてフリーになったタイミングで行くことにしました。
――2016年は19勝を挙げましたが、落馬した2017年は4勝というのが厳しい現実を物語っていますね。
長岡騎手 美浦でも支えてくれた方たちがいる中で栗東に移ることはかなり勇気がいりました。でも、栗東でもいい方々に出会えて、GI初騎乗のチャンスをいただけて恵まれています。
杉山先生を紹介してくれたのも所属していた小島厩舎で当時、調教助手をされていた方でした。いまの所属の高橋亮厩舎も、競馬学校が一緒で仲良くしていただいている調教助手さんがいる繋がりなんです。
――いろんな人との巡りあわせがあったんですね。一度は美浦でデビューしたことは無駄ではありませんでしたね。
長岡騎手 そうですね。ずっと順調だったら、感謝する気持ちも忘れていると思いますし、自分のことを過信していたかもしれません。
――美浦から栗東に移籍した騎手には中谷雄太騎手、国分優作騎手、水口優也騎手などがいますが、経験者に話を聞いたりしましたか?
長岡騎手 水口先輩や中谷先輩に「どうですか?」と聞いていました。二人ともどちらかというと栗東に来て成功していて、お話を聞いて「挑戦したい」と思いました。やらない後悔よりやる後悔の方がいいな、と。
――辛い時期に栗東に来て、手を差し伸べてくださった一人が杉山調教師だったんですね。
長岡騎手 競馬に乗れるありがたさをすごく感じました。僕は減量がもうないですし、休んで成績が落ちたジョッキーを乗せるということは、オーナーにお願いすること自体、先生や厩舎スタッフに負担があると思います。
そこまでして僕を乗せてくださるので、本当に感謝していて、自分が競馬に乗らない馬でも調教で一生懸命乗ろうとか、違う形でも恩返しできるようにと思っています。
――ケイティブレイブも調教にずっと乗っていた馬でした。調教ではどういった点を心がけていましたか?
長岡騎手 馬の気持ちも尊重しながら、馬が気持ちよく走れるバランスを心がけています。馬は4本脚なので、前が強くても後ろが強くてもいけないと思っていて、バランスを整えると、馬も全能力を出せるんじゃないかな、と。
――ところで今回のインタビューは長岡騎手の方から「原田和真騎手のnetkeibaコラムがうらやましかったです。僕も取り上げてください!」と逆オファー(笑)をいただいて実現したんですよね。
【原田和真騎手】松岡正海騎手の後押しを受けて… デビュー8年目でつかんだGI初騎乗 (無料公開)長岡騎手 彼とは同期で、すごく刺激になりました。僕が同期の中で最後のGI初騎乗なんですが、同期の菱田(裕二)も中井(裕二)もがんばっているので、同期で切磋琢磨していければいいなと思っています。
――今回の騎乗が決まって他にも取材が増えたと思いますが、緊張は高まっていますか?
長岡騎手 どちらかというと、依頼をいただいた時の方が緊張はありました。責任感がありますし、依頼していただけたことが嬉しい反面、「恩返ししたい」って気持ちが強くて。
僕だけの力ではこの舞台に立てませんでした。乗せてくれると言ってくださった瀧本オーナー、杉山先生、担当の調教助手さん、厩舎スタッフの方に少しでも結果で恩返しをしたいです。
――いまのケイティブレイブの状態はいかがですか?
長岡騎手 先週の木曜日に入厩して、翌日から土日も含めて毎日、前運動から乗っています。せっかくいただいたチャンスなので、悔いのないようにしたいです。
――逃げても差しても勝ったことのある馬です。現時点でレースのイメージはしていますか?
長岡騎手 馬がやる気を出せて、走りたいと思えるような競馬をしたいと思っています。
――最後に意気込みを聞かせてください。
長岡騎手 今回、大きなチャンスをいただいて、モノにしたいと思っていますし、GIがすごく楽しみです。トップジョッキーの中でこうして騎乗機会を与えていただいた瀧本オーナー、杉山先生、厩舎関係者スタッフの方々にとても感謝しています。恩返しできるように大切に、精一杯がんばりたいです。
(文中敬称略)