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【大阪杯】牝馬のワンツー決着

  • 2020年04月06日(月) 18時00分
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傑出牝馬が活躍する時代はこれからも連続する


 1984年のグレード制導入後(84-2016年はGII、以降GI)、牝馬同士の1着、2着独占は1998年のエアグルーヴ、メジロドーベルに次いで2回目のこと。

 5歳牝馬ラッキーライラック(父オルフェーヴル)は、阪神JF、エリザベス女王杯に次いで3つ目のGIを制し、GI通算【3-2-1-2】(海外を含む)となり、クビ差2着の4歳クロノジェネシス(父バゴ)もGI通算【1-2-2-1】となった。

 チャンピオン牝馬リスグラシュー(GI 4勝)こそ引退したが、すでにGIを6勝の5歳アーモンドアイにつづく傑出牝馬が活躍する時代はこれからも連続する。アーモンドアイとラッキーライラックは同じ2015年生まれの5歳牝馬。これまでに対戦した2018年の牝馬3冠レースはすべてアーモンドアイが勝っているが、ラッキーライラックが覚醒したのは4歳後半からであり、海外のビッグレース日程が流動的な今年は遠征不可能の危険大なので、天皇賞(秋)2000mなどで改めての対決が実現する可能性が高くなった。

 これから秋に向けてのビッグレースには、自国の競走日程が崩れた海外のトップホースが、日本の競走日程が崩れない限り、(昨年までと異なり)遠征してくる可能性もある。新コロナウイルスの感染拡大が終息に向かえば、だが。

 予測されたようにレース全体の流れは「60秒4-58秒0」=1分58秒4のスローだった。

 例年以上に芝状態が良かったため、後半4ハロンは「11秒7-11秒3-11秒2-11秒7」=45秒9-34秒2。鋭さとスピード能力の勝負となった。

 勝ったラッキーライラックは、好スタートから前を行く人気のダノンキングリー(父ディープインパクト)を終始射程に入れて進む絶好の位置取り。4コーナー手前からブラストワンピース(父ハービンジャー)などが外から並びかけようと進出したとき、ラッキーライラックは慌てることなくインで待つ余裕さえあった。前走の中山記念とは行きっぷりからして違っていたが、敢えてインにこだわったのは、芝コンディションのいいインを譲らないためと、もうひとつ。それまでと一変したエリザベス女王杯(あのときはスミヨン)のラチ沿い強襲をイメージしたのかもしれない。

重賞レース回顧

牝馬のワンツー決着となった大阪杯(c)netkeiba.com


 先頭のダノンキングリーを交わした瞬間のラッキーライラックには、鋭さで上回ったというより、迫力勝ちの印象さえあった。ここまで1600-2400mで戦ってきたが、どうやら平均スピードに優れたこの牝馬は近年の選手権距離とされる2000-2200mが最適と思える。

 クビ差2着のクロノジェネシスは、道中ずっとラッキーライラックと前後のこちらも理想の位置取り。レース前、気合が入りすぎではないかと映るくらいの高まりを見せていたが、レースになると行きたがる場面もなく落ち着き十分。インから伸びた勝ち馬にクビだけ及ばなかったが、エリザベス女王杯の0秒3差(約2馬身)から、今回はわずかクビ差(0秒0)。上がりはインをついた勝ち馬の33秒9に対し、互角の34秒0。

 管理する斉藤崇史調教師は「ラッキーライラックとの差は詰まったと思う」と、さらなる成長を見据えて強気だった。勝ち馬は5歳、こちらは4歳。適距離もほぼ同じ。ラッキーライラックとアーモンドアイの対戦があるなら、クロノジェネシスは(同じノーザンFの生産馬で、オーナーも重なったりするが)、ぜひ、挑戦したい。

 1番人気のダノンキングリーは、無念の「クビ、クビ」差3着。マークしてきた牝馬2頭に差されたところがショックだが、スタートが良すぎて(先手を主張すると思われた馬のダッシュが悪く)、本意ではなく自身が先頭でレースを作ることになってしまった。好位で他馬のペースに合わせて進むいつもの形が、逆に、最初から他馬にマークされる展開。それだけならいいが、ジナンボー(父ディープインパクト)が少しかかり気味にピタッと横に並んでいたからたまらない。ペース自体はきつくなくとも、初めてハナに立つ形のうえに、最初からずっと自分のリズムではなかった。

 それでも押し切って欲しかったが、これでGI【0-1-2-1】。3戦3勝の1800mと求められるものはほとんど同じでも、2000mだとあとひと踏ん張りのプラスαが足りないのだろうか。初遠征が響いた昨秋のマイルチャンピオンSは5着だが、2000mに延長より、1600mに短縮の方が合っているのではないか、という見解も聞かれた。

 4着に突っ込んできたカデナ(父ディープインパクト)は、すでに6歳だけにいま成長中とはいえないが、プラス12キロの馬体は自己最高でも、動き出すと少しも余裕残しではなかった。馬場のいいインを狙って上がり33秒5は最速。惜しいというか、少しもったいない内容だった。半兄のスズカコーズウェイ(父Giant's Causeway)は、8歳時に入障して、また平地に戻るなど、9歳春まで現役だった。タフなファミリー出身の真価を発揮するチャンスはまだまだこれからもある。

 ワグネリアン(父ディープインパクト)は、一時の非力感はなくなったが、思われるより器用な脚の使えるタイプではなく、内回りのスピードレースは合わなかった。東スポ杯と、日本ダービーの東京コースのほうが合っている。

 ほぼ同じような敗因はブラストワンピースにも当てはまる。2000mの数字が示す好内容(最高時計1分57秒5。上がり33秒5)は、かなり特殊な新潟での記録で基準外。有馬記念、札幌記念、AJCCでみせた力強い後半のスパートは、鋭い切れではなく、パワフルなレースでこそ生きる底力だった。昨年より数字面では上回っているのに、レース上がり「45秒9-34秒2-11秒7」の時計勝負になっては、「精いっぱいがんばっています(川田騎手)」のコメント通り、いかんともしがたい、のが実際だったろう。同じ阪神内回りなら、稍重馬場の年が多い2200mの宝塚記念の方が合う。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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