▲今回はこの真っ白な砂について取り上げます!(提供写真)
園田競馬場のダートが突然、真っ白になりました。南国のビーチを見ているような錯覚を起こしますが、実はオーストラリア産の砂に全面的に入れ替えられて、先週7日からレースが行われるようになりました。
なぜいま、全ての砂が入れ替えられたのでしょうか。そこには守らなければならない人馬の安全がありました。そして、真っ白な砂に変わったことでレース展開や馬によっての得意・不得意など、どのような変化があったのか、ジョッキー達に聞きました。
※新型コロナウイルス感染拡大防止のため電話取材に応じてくださった騎手のみなさま、ありがとうございます。写真は過去撮影分や提供写真となります。
「ゴーグルを着けないと眩しい」という白砂
▲従来の園田競馬場、砂は茶色い
園田競馬場の砂が全面入れ替えられたのは4月3日から6日にかけて。路盤の上を覆うクッション砂部分の入れ替えで、砂厚は従来通りの11cmです。これまでの砂はJRAと同じ青森県六ケ所村の海砂でしたが、新しい砂はオーストラリアの西オーストラリア州アルバニーの海砂。オーストラリア政府観光局HPのアルバニーのページでは「必ずやっておきたいこと」リストのトップに「西オーストラリア州で最高のビーチでひと泳ぎをする」と書かれているほど、白くて綺麗な砂浜の写真が掲載されています。
ジョッキーたちが「晴れている日にゴーグルを着けずに返し馬をしたら眩しかった」と話すのも頷けます。
▲ゴーグルを着けずにはいられないまぶしさ!(提供写真)
ではなぜ、このタイミングで園田競馬場の砂が全面的に入れ替えられたのでしょうか。
それは、年末年始の落馬事故にありました。
冬場は馬場が乾きにくく、重や不良馬場が多くなるというのは地方競馬ではよくあることなのですが、今年は特に馬場状態が悪く、ジョッキーは口々に「田んぼみたいなぬかるんだ馬場」「馬の後ろ脚が抜けなくて、中で滑る」など危険性を指摘。それが原因と見られる落馬が年末にもあったのですが、さらに1月8日の3レースでは3〜4コーナーで2番手を走っていた吉村智洋騎手が落馬。後続2頭を巻き込んでの事故となり、この日はそれ以降すべてのレースを中止するという事態に発展しました。
▲毎週休むことなくレースを開催し続けてきた園田競馬場(提供写真)
なぜそこまで馬場が悪化したかというと、7年半もの間、園田競馬場では毎週休むことなくレースが開催されてきたことが一因でしょう。
本来は年に何開催かは姫路競馬場で行っていたため、馬場を休ませたり改修することも可能でしたが、売り上げ低迷や姫路競馬場内馬場の調節池造成工事のため、姫路が開催できない状況に。都市部から近く、売り上げが見込める園田競馬場で毎週3日間の開催を続けた結果、馬場は悲鳴を上げていたのです。
そこで、今年1月15日から1カ月にわたる姫路開催の期間中、特に水はけが悪くなっていた箇所の路盤工事と砂の全面入れ替えが行われました。とはいえ、それは応急処置。さらにいい状態を求めて、今回、新たな砂の導入となったわけです。
鉄則は“前付けイン”ただし○○な馬は注意が必要!?
▲こちらは笠松競馬場の白砂
ところで、この真っ白な砂。地方競馬好きなみなさんはどこかで見覚えがありませんか?
そう、笠松競馬場や名古屋競馬場も真っ白な砂ですよね。
しかし、笠松も名古屋も各競馬組合の広報に問い合わせたところ「愛知県瀬戸市の砂を使用しています」とのことで、見た目こそ似ているもののまったくの別物。
「笠松の砂よりも目が細かいような気がします」
とは両競馬場でも騎乗経験のある田中学騎手。
▲「笠松よりも目が細かい」と田中騎手
また、田中騎手はタイム面でも速くなりがちな笠松との違いを指摘します。
「今のところ、速くなりすぎずいい感じになっていると思います。タイムが速いと前残りが多いってことですけど、ゴール前で接戦になることもありますからね。園田はゴール前で6頭も7頭も接戦になるのが面白いところ」
砂は替わっても、園田の醍醐味は失われていないようです。
▲直線に入っての叩き合いはレースの醍醐味(提供写真)
しかし、初日の7日は12レース中8レースが逃げ切り勝ちと、明らかな前有利な展開が見られました。その理由を教えてくれたのはリーディングの吉村騎手。
「基本的にどんな砂でも入れ替えた直後は“前付けのイン”がほぼ鉄則なんです。新しい砂に替わったことで砂質が良くなりますから。僕たちジョッキーの心理としても、脚抜きが良くなるという気持ちが働くので、みんな初日から『前に行ってインを取りたい』って考えていたと思います。7日の3レースで勝った時、逃げてゴール前で詰め寄られたように見えますが、それは砂のせいではなくて騎乗馬の気性によるものです」
▲砂入れ替え後の鉄則を教えてくれた吉村騎手
続けて、「ただ…」と現時点での馬場の癖を挙げました。
「直線はいくらか内ラチ沿いの伸びが甘いのかなって感じがします。だからってピタッと止まるほどでもありませんが。どちらにしろ、平均ペースであれば基本は逃げか2番手か、逃げ馬の後ろですね」
▲7日の1Rは2番手の馬が勝利した(提供写真)
先週3日間の勝ち馬の脚質別データ(逃げ、先行、差し、追込)を取ると(17、12、3、4)。
直線213mの小回りの競馬場では確かに前が有利ではありますが、園田はゴール直前で外からグイッと伸びて差し切る、なんてレースもよく見られたもの。改めて吉村騎手の指摘する戦法でほぼ決まっていることが分かります。
田中騎手はこう話します。
「いまの状態では先行イン有利な感じはありますけど、後ろからも届きます。砂もいいですし、今のところ大きな違いはあまり気になりません」
▲「大きな違いはあまり気にならない」と再び登場の田中騎手
たしかに細かくデータを見てみると、3日目の9日には逃げ切り勝ちが初日から半減。後方2番手から追い込み勝ちというレースも見られました。
他に興味深い話をしてくれたのは中田貴士騎手。
「スッと脚が使えなくて、向正面で強引に外からマクりきることがなかなかできません。まだ何とも言えないですが、パワーがいる馬場なのかもしれません」
▲「マクりきれない」と興味深いことを話してくれた中田騎手
となれば、小柄な馬や非力なタイプの馬よりも馬格のある馬の方がいいのかもしれません。これは今週以降、引き続き注目したいポイントですね。
もう1つ、今後の注目ポイントとしてジョッキーたちが口を揃えたのは「雨が降って馬場がどうなるか」ということ。
そう、冒頭でもお伝えした通り、以前の馬場は不良馬場になって状態が悪化しました。
「前の馬場も良馬場なら大丈夫だったんですよね。砂を入れ替えてからまだ雨が降っていなくて、今朝(10日)も砂埃が舞っていました」
とは普段の調教も園田競馬場で乗っている吉村騎手。
中田騎手は「砂が粗い気がするので、水はけがいいかもしれません」と感想を話します。
これを書いているのは13日。前日の日曜日から雨が降りました。このコラムの掲載される14日の園田競馬はどんなレースになっているでしょうか。
兵庫県競馬組合ではさらに馬場の状態を良くするため、「来年の姫路開催中に路盤工事を考えています」といいます。まだ具体的な案は決まっていませんが、売り上げが落ち込み姫路競馬場が使えない7年半もの間、必死に兵庫の競馬を支えてきた園田競馬場。ぜひ馬場も綺麗になって、人馬とも安心してレースが行えるようになってほしいと願います。