今年3月、美浦に厩舎を開業した宮田敬介調教師(39)。2006年に厩務員としてこの世界に飛び込み、栗田博厩舎、田島厩舎、国枝厩舎で調教助手などを務め経験を積み、2019年に調教師免許を習得。そして4月5日の中山6R、ダンシングプリンスでJRA初勝利を挙げました。なんとこのレースは圧巻の10馬身差で完勝。厩舎期待の星ダンシングプリンスについて、調教師としてのこれからの意気込みなどをお話しいただきました。
(取材・文=佐々木祥恵)
※当記事は2020年4月19日配信分の再掲です。
すごい馬を預かってしまった…!
――ダンシングプリンスでの厩舎開業初勝利、おめでとうございます。まず初勝利された時のお気持ちを教えてください。
宮田敬介調教師(以下、宮田師) 勝ったら嬉しいのだろうなと思っていたのですが、レースは意外と冷静に見ていました。ただ勝った後は、あまりに強過ぎて、逆に手放しで喜べないと言いますか、すごい馬を預かってしまって責任が大きくなったように感じました。
――三浦皇成騎手はレース後、どのようにコメントしていましたか?
宮田師 もう“言うことなし”という感じでした。ただ走りたいという気持ちがとても強い馬なので、返し馬で引っかかっていたんですよ。だから次は先出しするなど何か工夫をしようかということは話していましたね。
――地方から中央への再転入初戦だったわけですが、宮田厩舎に入厩した経緯を教えてください。
宮田師 社台ファームさんなどに開業前に挨拶に伺った時に、地方から中央に戻ってくる良い馬がいると牧場の方がずっと話されていたのですが、当時はどの馬かはわからなかったのですよね。地方で3勝目を挙げたのが1月半ばくらいだったのですが、(吉田)照哉社長がこの馬はすごいなと仰っていたのですが、丁度その頃、自分の厩舎に馬を入れていただけるように営業をしていましたので、タイミング良く預からせて頂くことになりました。
宮田敬介調教師、美浦トレセンにて(撮影:藤井真俊)
――実際にダンシングプリンスが入厩してきて、手応えは感じましたか?
宮田師 地方から転入してきて中央でどこまで戦えるか、最初は半信半疑のところはあったのですけど、坂路での追い切りで全く促さずに終い12秒を切っていたので、すごい馬だなと思いました。
――以前中央にいた時には芝で3戦していますが、地方ではダートで3連勝してきました。この先もダート路線でいく予定ですか?
宮田師 あのスピードは芝でもやれそうな感じはしますよね。あと中央時代、デビュー2戦目の小倉で2着になったのですが「負けたけどこの馬はすごい競馬をした」といろいろな記者の方に言われるんですよ。出遅れてすごい脚で最後伸びてきたので、印象に残っている方が多かったのでしょうね。それも含めて芝でもやれそうな感じはしますけど、まだ弱さがありますからね。エンジンはスーパーカーですけど、体自体がまだエンジンに追いついていないので、それを考えると今はダートの方が良いのかなと思います。
――この馬の長所は何でしょう?
宮田師 長所に関しては本当に桁違いのエンジン性能ですね。それは皆さんもご覧になって感じたのではないかと思いますし、持ったままで時計も1分10秒3ですから、普通はあのような走りはできないと思います。性格が良くて、普段は手がかからない馬です。
桁違いのエンジンで圧巻の走りをみせた(撮影:下野雄規)
――では課題はありますか?
宮田師 先ほどもお話したようにまだ弱い面があって、競馬の後に反動が出てしまいます。競馬から戻ってきて初日、2日目はシャンシャン歩いているのですが、その後に歩様の硬さが出てくるところがありますね。そのあたりをしっかりケアしていきたいと思っています。
――次走の予定が決まっていたら教えてください。
宮田師 競馬後の状態を見極めながらにはなりますが、目標は5月2日(土)2勝クラスの東京ダート1300mです。
――今後、どのような馬に育てていきたいですか?
宮田師 繰り返しになりますけど、エンジン性能、スピードは素晴らしいですが、まだ体が伴わない面がありますので、まずは馬の状態をしっかり見極めて管理していかなければならないと思っています。それでポンポンポンとこの先も行ければ良いのですけどね。ダートに関しては世代交代はそんなに早くないですから、ケアをしっかりして馬を壊さずに持っていければ、末永く走ってくれるのではないかなと思っています。
――重賞や海外も目指せそうですよね?
宮田師 実はこの馬が勝った瞬間、来年のドバイのゴールデンシャヒーンに行きたいなと思いました。
――夢は大きくですね。
宮田師 そうですね。経験豊富な調教師や厩舎というのは、大目標のレースに向けてどうやって持っていこうかと、逆算して考えられると思うんですよ。
――なるほど、そう言われてみればそうですね。
宮田師 こちらはまだ漠然とはしているんですけど、来年ではなくても再来年でも夢を実現できればと思います。
――では最後に今後どのような厩舎にしていきたいかを教えてください。
宮田師 師匠である国枝先生はスタッフに任せるスタイルでやっていましたし、厩舎全体が経験を積み重ねるうちに馬作りの技術もどんどん上達していったように思います。私も、馬はもちろんですが、先生のように人を育てられる厩舎を作りたいです。その中で海外に出ていけるような馬を作っていければと思います。
宮田師「馬はもちろん、人を育てられる厩舎を作りたい」(撮影:藤井真俊)