1〜3着時の上がり3ハロンタイム平均トップのフィエールマン(c)netkeiba.com、撮影:高橋正和
過去には純粋なスタミナくらべと言われていた天皇賞(春)ですが、2000年以降辺りからは『スローからの瞬発力勝負になった』と言われるようになりました。しかしその認識は正しくないかもしれません。現在の天皇賞(春)は『スローからの瞬発力勝負』ではなく、『単に上がりの速い勝負』なのです。30年前、20年前の天皇賞(春)と比較して、前半(たとえば前半1000m)がスローになったという事実はどこにもありません。
もちろんそれは天皇賞(春)に限らず、ありとあらゆる競馬レースすべてにおいて言えることでもあります。まず第一に競走馬の全体的なレベルアップ、そして体調管理や調教技術の進歩、加えて芝コースの整備など。こういった事象、とりわけ注目されるのは上がり3ハロンのタイムなのですが、上がり3ハロンに限らず、競馬のレースはすべて、タイムは昔より格段に速くなっています。
それらを考慮した上で、現代の天皇賞(春)が昔と同程度の前半1000mタイムであれば、それは現代においてのスローペースだと言えるのでしょう。しかしそれも違います。30年前、20年前の天皇賞(春)と比較して、前半タイムだけを比較しても天皇賞(春)は格段に速くなっているのです。5年ごとに過去10年を平均して約0.5秒ずつのペースアップ。これこそが現代の天皇賞(春)。決して『スローからの瞬発力勝負』ではないのです。
■天皇賞(春)、前半1000mの通過タイム
1986年 62秒5
1987年 62秒1
1988年 61秒6
1998年 61秒7
1990年 64秒6
1991年 62秒5
1992年 62秒3
1993年 61秒9
1994年 64秒1
1995年 63秒7
1996年 61秒7
1997年 62秒0
1998年 63秒4
1999年 60秒9
2000年 60秒9
2001年 58秒3
2002年 65秒7
2003年 61秒4
2004年 61秒9
2005年 62秒8
2006年 60秒3
2007年 60秒3
2008年 61秒1
2009年 60秒2
2010年 60秒7
2011年 64秒2
2012年 60秒0
2013年 59秒4
2014年 61秒7
2015年 61秒4
2016年 61秒8
2017年 58秒3
2018年 60秒1
2019年 59秒8
※1994年は阪神競馬場での施行。
しかし前半のタイムが速くなったこと以上に、上がりの時計が速くなっているのが、近年の天皇賞(春)の特徴。京都競馬場芝コース外回りは、3コーナーから4コーナーにかけて上り坂と下り坂があり、かつては『京都の坂はゆっくり上って、ゆっくり下れ』という話もあったのですが、その格言は過去のモノになっているということですね。
スローペースでもなく、瞬発力勝負でもなく、それでいて『スローからの瞬発力勝負』ではないかと囁かれるほどの上がりの速さ。つまりはこの『上がりの速さ』こそが現代の天皇賞(春)を予想する上での核になると考えています。
実際に1992年、メジロマックイーンが連覇していたころの天皇賞(春)は純粋なスタミナくらべのレースでした。それ以前、ミホシンザンやタマモクロスの時代もふくめて、天皇賞(春)は36秒台の上がりタイムを要するレース。すこし馬場が渋れば、たとえ現役最強級の馬でも38秒以上の上がりを要するレースだったのです。
しかし時は流れ、現代の天皇賞(春)。たとえどんなペースで流れようと、36秒台で上がってくるような馬では話になりません。たとえば過去10年の天皇賞(春)、勝ち馬の『レース前1〜3着時の上がり3ハロン平均』は34秒7となっています。
この『1〜3着時の上がり3ハロン平均』、1992年メジロマックイーンの頃は平均が36秒台だったのですが、2000年テイエムオペラオーの頃は35秒台後半、2007年メイショウサムソンの頃は35秒台前半と高速化が進み、2010年からの過去10年ではついに34秒台の34秒7ということになりました。前半1000mのペースが5年ごとに平均して約0.5秒ずつアップしているのに加え、上がり3ハロンのタイムはそれを上回る速度で高速化しているということです。
■歴代天皇賞(春)勝ち馬、出走前1〜3着時の上がり3ハロンタイム平均
1990年 スーパークリーク 36秒0
1991年 メジロマックイーン 36秒8
1992年 メジロマックイーン 36秒5
1993年 ライスシャワー 36秒7
1994年 ビワハヤヒデ 35秒5
1995年 ライスシャワー 36秒1
1996年 サクラローレル 35秒3
1997年 マヤノトップガン 35秒5
1998年 メジロブライト 34秒9
1999年 スペシャルウィーク 35秒6
2000年 テイエムオペラオー 35秒4
2001年 テイエムオペラオー 35秒3
2002年 マンハッタンカフェ 35秒0
2003年 ヒシミラクル 35秒9
2004年 イングランディーレ 36秒8
2005年 スズカマンボ 34秒5
2006年 ディープインパクト 33秒9
2007年 メイショウサムソン 35秒1
2008年 アドマイヤジュピタ 35秒0
2009年 マイネルキッツ 34秒9
2010年 ジャガーメイル 34秒9
2011年 ヒルノダムール 34秒6
2012年 ビートブラック 34秒7
2013年 フェノーメノ 34秒2
2014年 フェノーメノ 34秒2
2015年 ゴールドシップ 35秒2
2016年 キタサンブラック 34秒7
2017年 キタサンブラック 34秒8
2018年 レインボーライン 35秒1
2019年 フィエールマン 34秒2
※該当年天皇賞(春)出走前の成績から算出。
※芝のレースのみ集計。
※不良馬場などによる異常値を緩和するため、最速値と最遅値を除いての平均(トリム平均)
上記のとおり、近年の天皇賞(春)の勝ち馬は、2015年ゴールドシップを除くすべてが『1〜3着時の上がり3ハロン平均』34秒2〜34秒9のレンジに入っています。そして、そういった観点で近年の天皇賞(春)勝ち馬一覧を見てみると、2005年13番人気1着スズカマンボが34秒5、2009年12番人気1着マイネルキッツは34秒9、2011年7番人気1着ヒルノダムールも34秒6で、2012年14番人気1着ビートブラックにしても芝のレースに限れば34秒7。ともすれば(イメージ的に)速い上がりが使えないように見えた人気薄の馬たちでさえも、ちゃんとその辺りに好走レンジを持っていたのです。
この数値が速ければ速いほど良いというわけではないのですが、基準を下回る馬は現代の天皇賞(春)ではスピード的に厳しいと見て、初手からバッサリと切り捨てて行きたいと考えています。
■2020年 天皇賞(春)出走馬予定、1〜3着時の上がり3ハロンタイム平均
トーセンカンビーナ 34秒3 ○
フィエールマン 34秒3 ○
エタリオウ 34秒5 ○
ミッキースワロー 34秒6 ○
キセキ 34秒6 ○
ユーキャンスマイル 34秒6 ○
オセアグレイト 34秒9 ○
ダンビュライト 35秒0 ×
モズベッロ 35秒0 ×
シルヴァンシャー 35秒1 ×
ハッピーグリン 35秒2 ×
スティッフェリオ 35秒3 ×
タイセイトレイル 35秒3 ×
メロディーレーン 35秒3 ×
ミライヘノツバサ 35秒7 ×
メイショウテンゲン 35秒7 ×
※不良馬場などによる異常値を緩和するため、最速値と最遅値を除いての平均(トリム平均)
闇雲にデータだけを見るのではなく、まずは仮説を立てて、そこから裏付けとしてのデータ・リサーチ。ウマい馬券では、ここから更に踏み込んで天皇賞(春)を解析していきます。印ではなく『着眼点の提案』と『面倒な集計の代行』を職責と掲げる、岡村信将の最終結論にぜひご注目ください。
■プロフィール
岡村信将(おかむらのぶゆき)
山口県出身、フリーランス競馬ライター。関東サンケイスポーツに1997年から週末予想を連載中。自身も1994年以降ほぼすべての重賞予想をネット上に掲載している。1995年、サンデーサイレンス産駒の活躍を受け、スローペースからの瞬発力という概念を提唱。そこからラップタイムの解析を開始し、『ラップギア』と『瞬発指数』を構築し、発表。2008年、単行本『タイム理論の新革命・ラップギア』の発刊に至る。能力と適性の数値化、できるだけ分かりやすい形での表現を現在も模索している。
1995年以降、ラップタイムの増減に着目。1998年、それを基準とした指数を作成し(瞬発指数)、さらにラップタイムから適性を判断(ラップギア)、過去概念を一蹴する形式の競馬理論に発展した。『ラップギア』は全体時計を一切無視し、誰にも注目されなかった上がり3ハロンの“ラップの増減”のみに注目。▼7や△2などの簡単な記号を用い、すべての馬とコースを「瞬発型」「平坦型」「消耗型」の3タイプに分類することから始まる。瞬発型のコースでは瞬発型の馬が有利であり、平坦型のコースでは平坦型に有利な流れとなりやすい。シンプルかつ有用な馬券術である。