再開前に3歳世代有力馬をおさらい
来週月曜日(5月11日)から、いよいよフランスの競馬が再開する見通しだ。
フランスの競馬は、3月3日から無観客での開催になった後、国全体に厳格な外出制限令が出された3月17日以降、全面的にストップしていたから、パリロンシャンとトゥルーズの2カ所で予定されている5月11日の施行が滞りなく行われれば、およそ8週間ぶりの競馬開催になるわけだ。
当面の間は無観客での開催となり、出走馬1頭につき調教師1名、厩務員1名の帯同のみが許可されるという、制限付きでの施行となるが、経済的に大きなダメージを受けた競馬産業にとって、復興への第一歩となることは間違いない。
統括団体であるフランスギャロは、開催再開を宣言すると同時に、再編成された重賞スケジュールを発表しており、牡馬と牝馬の3歳3冠初戦のG1プールデッセデプーラン(=仏二千ギニー、芝1600m)とG1プールデッセデプーリッシュ(=仏千ギニー、芝1600m)を6月1日(月曜日、祝日=ウィットマンデー)にパリロンシャンで、2冠目のG1ジョッケクルブ賞(=仏ダービー、芝2100m)、ディアヌ賞(=仏オークス、芝2100m)を7月5日(日曜日)にシャンティイで行うとしている。
更に、再開初日となる5月11日のパリロンシャン開催には、ギニーへ向けての前哨戦となる、G3フォンテンブロー賞(芝1600m)とG3ラグロット賞(芝1600m)が組まれており、3歳クラシック戦線がいきなり動き出す予定だ。
そこでこの機会に、フランス調教の3歳世代の有力馬を改めておさらいしておこうと思う。
昨年の欧州2歳ランキングで、フランス調教馬としては最高位につけたのが、レイティング118で横並びの2位に食い込んだ、アンドレ・ファーブル厩舎のアースライト(牡3、父シャマーダル)だ。
ゴドルフィンの自家生産馬で、G1クリテリウムドサンクルー(芝2000m)勝ち馬マンディアンの甥にあたるのがアースライトだ。昨年6月19日にメゾンラフィットのメイドン(芝1100m)を制しデビュー勝ちしたのを皮切りに快進撃をスタートさせ、ドーヴィルのG1モルニー賞(芝1200m)、ニューマーケットのG1ミドルパークS(芝6F)という2つのG1を含む5連勝をマークしている。G1・2勝はいずれも2着馬との着差が首で、つまり派手さはないものの、モルニー賞が不良馬場だったのに対し、ミドルパークSは良馬場と、競走条件に左右されない強さを見せている。1200mまでしか経験はないが、5戦全てで手綱をとったM.バルザローナは「距離延長は問題ない」とコメントしており、G1英二千ギニーの前売りでも、圧倒的1番人気のピナトゥボ(牡3、父シャマーダル)に次ぐ2番人気(オッズ8〜9倍)に推されている。
レイティング114でフランス調教馬としては第2位となったのが、アースライトと同馬主・同厩舎の上に、父親まで一緒のヴィクタールドラム(牡3、父シャマーダル)だ。そして、この2頭には2歳時無敗という共通項まであるのだが、歩んだ距離カテゴリーは異なり、ヴィクタールドラムは1600m戦ばかり3戦して3連勝。その3連勝めとなったのが、パリロンシャンのG1ジャンルクラガルデル賞(芝1600m)だった。
シェイク・モハメドの所有馬として走った母アンティキティーズは、G3クレオパトラ賞(芝2100m)2着馬で、ヴィクタールドラムはその5番仔となる。2歳年上の半姉に、G1愛オークス(芝12F)3着馬メアリーチューダー(父ドーンアプローチ)がいる。すなわち、血統的に見て、少なくとも10Fまでは許容範囲にある馬で、仏ダービーが視野に入っている1頭と言えそうだ。
レイティング112でフランス調教馬として第3位に入ったのが、女性調教師ピア・ブラントが管理するマクファンシー(牡3、父マクフィー)である。
さかのぼればメルセイ、ミュンシーといったG1勝ち馬と同じファミリーの出身なのだが、母が1勝馬、祖母は未出走、3代母は1勝馬と、血統的な見どころはほとんどない馬だ。だが、昨年9月27日にサンクルーで行われたメイドン(芝1600m)を3馬身差で制し、デビュー2戦目で初勝利を挙げると、10月26日に同じくサンクルーで行われたG1クリテリウムドサンクルー(芝2000m)も3馬身差で快勝し、G1制覇を果たしている。
そしてこの馬、開催がストップする直前の今年3月9日に、シャンティーで行われたLRモーリスカイヨー賞(AW1800m)で今季初出走を果たし、2着となっている。
この他、2歳時はドイツ調教馬として、G1ジャンルクラガルデル賞でヴィクタールドラムの2着になった後、2頭立てのG1クリテリウムインターナショナル(芝1400m)を制したアルソン(牡3、父アレイオン)が、今季はアンドレ・ファーブル厩舎に転厩しており、フランスの3歳クラシックを目指すものと見られている。
続いて牝馬に目を移せば、レイティング111でフランス調教2歳牝馬としてランキング最上位となったのが、トローボウ(牝3、父ショウケイシング)だ。
この馬もまたアンドレ・ファーブルの管理馬で、7月にクラレフォンテンのメイドン(芝1200m)を6.1/2馬身差で制してデビュー2戦目で初白星を飾ると、ドーヴィルでG3シックスパーフェクション賞(芝1400m)、G2カルヴァドス賞(芝1400m)を連勝。2歳最終戦となったニューマーケットのG1チーヴァリーパークS(芝6F)では、スムーズに進路を確保出来ない局面がありながら、勝ち馬ミライルから2.1/4馬身差の3着に健闘している。
1400mまではこなしている本馬だが、父ショウケイシングは、アドヴァタイズ、クワイアットリフレクションと、G1コモンウェルスC(芝6F)勝ち馬を2頭出している生粋の短距離系で、牝系も祖母フリザンテがG1ジュライC(芝6F)勝ち馬であることを鑑みると、プールデッセの1600mが守備範囲にあるかどうかは微妙なところだ。ドーヴィルのG2カルヴァドス賞でトローボウの2着になった後、凱旋門賞当日のロンシャンで行われたG1マルセルブーサック賞(芝1600m)で、愛国からの遠征馬アルビニャに続く2着に入ったのが、モーリシオ・デルシャー・サンチェス厩舎のマリエタ(牝3、父シユーニ)だ。
G3テクサニータ賞(芝1200m)3着馬シガレラの半妹で、G1オペラ賞(芝2000m)勝ち馬サトワクイーンや、G1クリテリウムドサンクルー(芝2000m)勝ち馬スパドゥーンらの近親にあたるのがマリエタである。2着となった重賞2戦はいずれも道悪だったが、8馬身差で快勝してデビュー2戦目にしての初勝利となったメゾンラフィットのメイドン(芝1200m)は良馬場だった。1000ギニー、オークスの両方が視野に入っている馬だろう。
アルビニャが勝ち、マリエタが2着となったG1マルセルブーサック賞で、1番人気に推されていたのが、日本産馬のサヴァラン(牝3、父ディープインパクト)だった。G1サンクルー大賞(芝2400m)、G1仏オークス(芝2100m)、G1サンタラリ賞(芝2000m)と3つのG1を制したサラフィナの4番仔で、生産したのは社台ファームだ。松島正昭氏と、生産者である吉田照哉氏の共同所有馬として、アンドレ・ファーブル厩舎からデビュー。
8月6日にドーヴィルのメイドン(芝1500m)を制してデビュー勝ちを飾ると、次走は9月8日にロンシャンで行われたG3オマール賞(芝1600m)に挑み、ここも勝って無敗の重賞制覇を果たしている。7着に敗退したG1マルセルブーサック賞は、不良馬場に持ち味を殺されたからで、馬場が極端に悪化しなければ、プールデッセプーリッシュでもディアヌ賞でも好勝負出来る素質馬である。当面は、現場に駆け付けて応援することがかなわないが、日本から熱いエールを送りたい1頭である。