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サウスオーストラリアンダービーで起きた歴史的快挙

  • 2020年05月13日(水) 12時00分

北半球生まれのハンデを乗り越えての完勝劇


 9日にアデレイドのモーフェットヴィル競馬場で行われたG1サウスオーストラリアンダービー(芝2500m)で、歴史的快挙が達成された。

 オッズ2.5倍の1番人気に推されたラシアンキャメロット(牡3、父キャメロット)が優勝を飾ったのだが、同馬はアイルランド産で、北半球生まれのサラブレッドがオーストラリアのダービーを制したのは、これが初めての出来事だったのである。

 言わずもがなの解説をすれば、南半球のオーストラリアでは、サラブレッドは8月1日に1歳加齢される。さらに蛇足ながら、オーストラリアは現在、季節が秋だ。すなわち、サウスオーストラリアンダービーは、シーズン後半に組まれた3歳限定戦である。

 今年は12頭立てになり、ラシアンキャメロット以外の11頭は、オーストラリア産かニュージーランド産で、2016年の8月末から11月上旬にかけて生まれたサラブレッドたちだった。そんな中、ラシアンキャメロットは2017年の3月29日が誕生日で、すなわち、ライバルたちより生まれたのが半年遅いのである。だからと言って、斤量面で優遇措置があるわけではなく、ラシアンキャメロットは56.5キロという同斤を背負って、生まれが半年早い馬たちに完勝したのだった。

 2012年の英国3歳2冠馬キャメロット(その父モンジュー)の、3世代目の産駒の1頭となるのがラシアンキャメロットだ。

 初年度産駒から、G1愛ダービー(芝12F)勝ち馬ラトローブ、G1ベルモントオークス(芝10F)勝ち馬アテナが、2世代目の産駒から、G1クリテリウムドサンクルー(芝2000m)勝ち馬ワンダーメント、G1英オークス(芝12F6y)2着馬ピンクドッグウッドらが登場し、初年度の2014年には2万5千ユーロだった種付け料が、2019年から4万ユーロに上昇しているのがキャメロットである。

 母レディバブーシュカは未出走馬だが、祖母バラライカはニューマーケットのLRダリア(芝9F)勝ち馬で、その産駒にG2だった時代のジェベルハッタ(芝1800m)や、グッドウッドのG3セレクトS(芝9F197y)を制したアルカーデムがいる。さらに、3代母のベラコロラはG2だった時代のオペラ賞(芝2000m)勝ち馬で、その産駒に、ステージクラフト、マリンズベイといった重賞勝ち馬がいるファミリーの出身だ。

 2018年のタタソールズ・オクトーバー1歳セールのブック1に、共同生産者であるカマスパーク・スタッドから上場されたラシアンキャメロットに目をつけたのが、「距離がもつ上質馬」を探していた、フレミントンを拠点とするダニー・オブライエン調教師と、彼の厩舎に馬を預けている馬主グループだった。彼らは、セールに臨場していた代理人のジェレミー・ブルミット氏に同馬の購買を依頼。首尾よく、12万ギニー(当時のレートで約1920万円)で購買に成功している。

 ダニー・オブライエン調教師は、1995年に開業。2007年にマスターオレイリーでG1コーフィールドC(芝2400m)、2013年にシェイマスアワードでG1コックスプレート(芝2040m)、そして2019年にはヴァウアンドデクレアでG1メルボルンC(芝3200m)を制したのを含めて、1000勝以上の勝ち星を挙げているトップトレーナーだ。

 オーストラリアに輸送されてきたラシアンキャメロットを見て、映像で確認した通りの素晴らしい馬という感触を得たオブライエン師だったが、仕上げを急がなかった。

 例えば、彼が拠点としているフレミントンには、メルボルンCの前週の土曜日に組まれているG1ヴィクトリアダービー(芝2500m)があるのだが、この時点でラシアンキャメロットは「2歳の秋」で、「3歳春」を迎えた南半球産馬と戦わせるのは無謀と判断。早くから、照準をシーズン後半のサウスオーストラリアンダービーや、イーグルファームのG1クイーンズランドダービー(芝2500m)に絞って、調整を続けてきた。

 デビューは2019年10月19日にバララット競馬場で行われた3歳メイドン(芝1400m)で、実際にはまだ2歳だったラシアンキャメロットは、ここを1.3/4馬身差で制して緒戦勝ちを飾っている。

 続いて駒を進めたのが、11月7日にフレミントンで行われたLRコノスールS(芝1800m)で、ここで2着となった段階で、オブライエン調教師は春のキャンペーンを終了し、夏の休養に入る決断を下している。

 4か月の休み明けとなった、3月7日にフレミントンで行われたハンデ戦(芝1400m)では、ダミアン・レーンが騎乗。ここでは4着に敗れた同馬は、続いて4月6日にパケナムで行われたハンデ戦(芝1600m)に出走。ダミアン・オリヴァーが手綱をとったラシアンキャメロットは、2着以下に7馬身差をつける圧勝劇を演じ、勇躍5月9日のG1サウスオーストラリアンダービーに挑むことになった。

 そして、ここではジョン・アレンが騎乗したラシアンキャメロットは、道中最後方待機から直線大外に持ち出して伸び、G3チェアマンズS(芝2035m)を勝っての参戦だった2番人気のダラサン(牡3、父ダラカニ)を残り100mで捉えると、最後は1.3/4馬身抜け出して優勝を飾った。

 コロナウイルス感染拡大防止のため移動制限があり、オブライエン調教師はヴィクトリア州のコーフィールド競馬場でレースの模様を見届けている。同師によると、ラシアンキャメロットはこのレースをもって今季のキャンペーンを終了し、来季(20/21年シーズン)に向けて休養に入る予定。9月12日にフレミントンで行われるG1マカイビーディーヴァS(芝1600m)あたりが、復帰戦の目標となる模様だ。

 メディアから、11月のG1メルボルンC(芝3200m)参戦の可能性を問われると、「視野には入っている」としながらも、「3200mの馬ではないかもしれない」と回答している。一方、地元ブックメーカーは既に、メルボルンCへ向けた前売りで同馬に11倍のオッズを提示し、1番人気に浮上させている。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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