相変わらず我慢の日々がつづいている。
私は先日、スポーツ誌「ナンバー」のダービー特集の原稿が一段落したので、積読(つんどく)になっていた本を久しぶりにひらいた。免疫力アップのためには睡眠時間をたっぷり確保しなければならないとわかっているのだが、気がついたら外が明るくなっていた。
やっぱり読書は楽しい。文庫なら数百円、単行本なら千円台で、数時間から数日、活字から立ち上げたイメージの世界に旅することができる。
しかも、今の時代はkindleをはじめとする電子書籍があるので、24時間いつでもどこでも、居ながらにして楽しめる。
先週本稿に記した、SNSなどで自分の好きな本の表紙を紹介する「7日間ブックカバーチャレンジ」のバトンは私に回ってきそうにないので、ここに「ステイホーム企画」として、「電子書籍で読むことのできる、私の好きな競馬本」を紹介したい。
競馬小説6冊(上下巻の作品もあるので正確には6タイトル)、競馬エッセイ4冊、番外編5冊の計15タイトルである。なお、カッコ内は紙の本の出版年。紹介する順番は、カテゴリーごとに著者の生年順にした。「え、この人よりあの人のほうが年上だったの?」というマニアックな楽しみ方も、どうぞ。
【競馬小説】
『馬を売る女』松本清張(1977)
短編集。競馬小説は表題作のみ。松本清張の競馬ミステリーというだけで読む価値あり。
『興奮』ディック・フランシス(英1965/日1976)
元障害騎手による超人気競馬ミステリーシリーズ初期の作品。シリーズは計40冊ほど。
『シャガールの馬』虫明亜呂無(1978)
スポーツ小説集。表題作が競馬小説。日本のスポーツライターの走りの直木賞候補作。
『日本ダービー殺人事件』西村京太郎(1974)
ご存知「十津川警部」がダービーに関する脅迫事件の謎を追う傑作長編ミステリー。
『優駿(上・下)』宮本輝(1986)
小さな牧場に生まれたサラブレッドの蹄跡と馬に夢を託す人間たちを描いた感動長編。
『焦茶色のパステル』岡嶋二人(1982)
牧場で銃殺された夫の死の謎に迫る女性が主人公の長編ミステリー。競馬三部作の一冊。
【競馬エッセイ】
『草競馬流浪記』山口瞳(1984)
競馬好きの人気作家が全国の地方競馬場を巡る。「平時」ならではの旅打ちの悦楽がある。
『書を捨てよ、町へ出よう』寺山修司(1967)
競馬を愛した奇才のベストセラー。第2章「きみもヤクザになれる」に競馬モノが多い。
『競馬どんぶり』浅田次郎(1999)
「最後の文士馬主」と言える著者による語り下ろし。馬券師としての「構え」が学べる。
『開成調教師〜安馬を激走に導く厩舎マネジメント〜』矢作芳人(2008/増補改訂版2013)
トップトレーナーの馬づくりの理念が見える。厩舎力と管理馬の強さに納得できる一冊。
【番外編】
『かんかん虫は唄う』吉川英治(1932)
国民的作家による自伝的小説。著者が憧れた神崎利木蔵がモデルらしき騎手も登場する。
『ガラスの中の少女』有馬頼義(1959)
有馬記念を発案したJRA第2代理事長・有馬頼寧の三男の直木賞作家による映画化作品。
『杳子・妻隠』古井由吉(1971)
月刊「優駿」に長年エッセイを連載していた著者による芥川賞受賞作「杳子」を所収。
『TENGU』柴田哲孝(2006)
『ライスシャワー物語』など競馬関連著作のある作家のミステリー。大藪春彦賞受賞作。
『襷(たすき)を、君に。』蓮見恭子(2016)
横溝正史ミステリ大賞優秀賞受賞作『女騎手』の著者による爽やかなスポーツ小説。
説明文は、書き出すと長くなるので40字以内とした。【番外編】は競馬本ではないが、文士馬主としても知られた吉川英治をはじめ、競馬に関するプロフィールを持つ著者による本をピックアップした。
なお、矢作調教師の『開成調教師〜安馬を激走に導く厩舎マネジメント〜』は、電子書籍専用端末より、タブレットやパソコンなどで表示させるほうが読みやすい形式になっている。スマホのkindleアプリでも綺麗に表示される。
また、吉川の『かんかん虫は唄う』は、著作権が切れているため青空文庫版なら無料で読める。おそらく著者唯一の現代小説(といっても100年ほど前の話だが)で、吉川作品のなかでは異彩を放つ名作だ。読んだら、根岸競馬場跡地に行きたくなるかもしれないが、それも、もうしばらくの辛抱か。