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【安田記念】能力の高さとその成長を示したグランアレグリア

  • 2020年06月08日(月) 18時00分

目に見えない疲労が女王に暗い影を落とした


 打倒アーモンドアイ(父ロードカナロア)を果たしたのは、同じ牝馬の4歳グランアレグリア(父ディープインパクト)だった。安田記念がGIになって以降、1991年ダイイチルビー、1994年ノースフライト、2008、2009年のウオッカに次ぐ牝馬5勝目となった。

 グランアレグリアは、2019年の桜花賞に次ぐGI2勝目。チャンピオン牝馬アーモンドアイを倒しての勝ち星は見事というしかない。8戦して【5-1-1-1】となり、自身の能力の高さを示すと同時に、これで次々に誕生する近年の「強い牝馬」の1頭に加わった。

 2年前、6月の2歳新馬戦を勝ったときが458キロ。今回は珍しく直前も長めから追って自己最高の492キロ。スピードタイプらしくたくましく変わって、大きく成長している。連続して出走することはめったになく、活力を温存しつつ目標を定めたビッグレースに全力投球の手法は、これまでのアーモンドアイとそっくり同じだった。今回、そのローテーションが大きく明暗を分けた。

 極限の能力発揮が求められるGIで、常に最高の内容を示すことは至難。とくに「スピード+総合力」が求められるマイルのGIは厳しい。かつて、創設期のNHKマイルCを快時計で乗り切った馬は、そのあと大不振に陥るのがパターンだった。

 近年は一段と時計が速くなっている。東京1600mのヴィクトリアマイルを「1分30秒台」で激走した馬は、今年のアーモンドアイ(1分30秒6)を筆頭にここまで計6頭いる。安田記念では、昨年のインディチャンプ(1分30秒9)など3頭。

 また、3歳のNHKマイルCを「1分31秒台」で乗り切った馬は4頭。京都のマイルチャンピオンSを「1分31秒台」で走破した馬は計10頭いる。合わせて23頭。しかし、そのあとオーバーホールの期間を取らないで出走して勝った馬は、1頭もいない。

 連続しての出走で2着したのは、昨年の安田記念2着のアエロリット、そして今年の安田記念2着のアーモンドアイ、2015年の京都金杯2着のエキストラエンドだけ。

 アーモンドアイの前回は馬なりの楽勝に映った。出走にきわめて慎重な陣営でさえ、疲れや反動はないと判断しての挑戦だった。でも、馬なり独走とはいえ東京1600mのヴィクトリアマイルをあの時計で快走したアーモンドアイ自身は、力を出し切った厳しいレースだった。目に見えない疲れは残ったのだろう。今回、レースを終えて上がってきたアーモンドアイは、前回よりずっと疲れた表情を見せたという。完敗は残念だが、2着死守は懸命にがんばった立派な内容でもあった。

 3着にとどまった昨年の安田記念では、今回よりもっと苦しい位置から、上がり最速の32秒4で猛然と伸びている。しかし、今回は残り400m地点で鞍上のルメールからエンジン全開の合図があっても、そのストライドには弾けるバネが欠けていた。

写真提供:デイリースポーツ


 そっくり同じように、残り2ハロンでスパートした池添謙一騎手のグランアレグリアの上がりは33秒7。一方、アーモンドアイの上がりは33秒9にとどまり、見た目だけでなく、明らかに引き離されている。ゴール寸前は、外から伸びた前回は4馬身も離しているノームコア(父ハービンジャー)に追いつかれそうだった。

 レース全体の流れは「前半45秒7-(1000m通過57秒3)-後半45秒9」=1分31秒6であり、馬場差はあっても「前半45秒6-(1000m通過56秒7)-後半45秒0」=1分30秒6のヴィクトリアマイルより厳しいわけではない。出負けのロスも最小限にとどまっている(ルメール騎手もそれを敗因の1つにしていない)。ふつう、負けた馬の敗因はいくつもある。だが、今回のアーモンドアイは、ジャパンCや、天皇賞(秋)、ヴィクトリアマイルと違って、思うように身体が動いてくれないことだった。

 3着インディチャンプ(父ステイゴールド)は、素晴らしい状態だった。1分30秒9で抜け出した昨年より、さらに力強く映った。道中はグランアレグリアの直後、アーモンドアイの前。直線、狙った内が狭くなり、進路を変えるシーンがあったが、昨年はもっと苦しい態勢からライバルを弾き飛ばすように抜け出している。敗因を探すのは難しいが、今回の480キロは自己最高の体重。これまでの重賞制覇は、ちょっと細めに映るくらい研ぎ澄まされた状態のときであり(馬体重増での重賞勝ちはない)、ボクサータイプだった父ステイゴールドと同じように、立派に見えるときは、案外、良くないのかもしれない。明らかに伸びを欠いていたアーモンドアイにも鋭さ負けしてしまった。

 ノームコアは、グランアレグリア、アーモンドアイとともに、改めて強い牝馬を印象づける伸び脚で、きわめて惜しい4着。前後半に差のない平均バランスの流れだったが、もっと厳しい展開なら、さらに着順は上がっていたことだろう。

 4番人気のダノンプレミアム(父ディープインパクト)の13着は、昨年と同じように好走はムリとなった坂上で断念したためだが、これで初夏の東京【0-0-0-3】。入れ込む気性は影を潜めたが、今回がまだ12戦目。さまざまな巡り合わせや不運があって、順調なローテーションを組めていない弱みが大きい。5歳なのに馬体に芯が通っていない印象がある。

 5番人気で7着のダノンキングリー(父ディープインパクト)は、見た目より道中のインの芝が良くなかったこともあるが、この距離向きと思えただけに、案外。道中行きたがっていた印象はあるが、安田記念でかかって伸びを欠くとは…。気難しさが出たのか。

 アドマイヤマーズ(父ダイワメジャー)は、上昇中の4歳馬らしく一段と力強く見えた。ただ、スローの流れで自身がペースアップできるような形だと、上がり34秒を切るような高速フィニッシュに持ち込めるが、ペースの主導権を自分より強い相手に握られてしまうとジリ脚に見えてしまう。本当に力をつけていくのはこれからだろう。1分32秒3は自身の最高タイム更新だった。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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